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「目覚めましたか」

金柑がぼんやりと目を開ければ、ツンとした消毒液の香りと卯ノ花の顔があった。

「卯ノ花隊長」

伸びをしようとした金柑を制し、卯ノ花が身体を抱き起こす。

肩を落とし、背中を丸める金柑の目はぼんやりと卯ノ花の作業を追う。

「痣がまだありますね」

スルリと撫でながら、包帯の緩みを確認し、金柑に問う。

幾分か間を空かせ、金柑は卯ノ花に答えた。

「はい…あの…怖くて」

こんなこと、言っても仕方がないのに
怖かった
怖かった

あんなに痛いなんて思わなかった

「何故ですか」

肩を震わせる訳でもなく、脱力した身体を少し揺らし居ずまいを正す。

「後輩を失いそうに」

柴岬が目の前で…
息を吐き出したい、そう思うのに何故か吐けず金柑は息を吸う。

「無事ですよ」

緩く背を撫でながら卯ノ花は、金柑の言葉に耳を傾ける。

「生きていたいんです、私が」

小さく息を吐く金柑に、思い詰めることは無いのだと囁く。

「眠りましょう暫く。安静に、分かりましたか?」

戸の向こうに立つ男の霊圧にも語りかけるよう、暖かな光を手を翳す。

陽射しは温く、床の影は不明瞭で。


「ウミノの育ての親は四番隊だと」

部屋を移し、淡い花の香りが漂う卯ノ花の隊首室に朽木を招入れる。

荻堂のカルテは既に二人の目に通された。

「どなたでしょうか」

朽木の差し出した書類を受け取る。

はらり、と捲れば懐かしい名が載せられていた。

「懐かしいですね。彼らの出自には」

ウミノさんが引き取られた子だったのですね

卯ノ花は二人の出自に関して、別段変わったことは聞いたことが無かった。

「特には無い、と」

書類を受け取る朽木と視線を合わせる。

「そうですか、二番隊の様子は」

陽射しは陰り、床は暗い色に染まる。

「まだ」

砕蜂の報告が届かず、苛立ちを阿散井に気取られていることに朽木は気付いていた。

「分かりました。退院は三日後です」

隊花である竜胆が淡く描かれた小さな用紙には、退院予定日が書かれ、卯ノ花の印が押される。

「三日」

それでも早い
朽木の言葉を読むように卯ノ花は答えた。

「やはり治癒力が」

紙を折り畳みながら朽木は立ち上がる。

「ありがとうございます」

彼女が自分を責めなければ良いのだけれど

卯ノ花はカーテンの紐を解き、代わりに明かりを灯した。


覇気を無くした阿散井は、弓親への報告をする為に霊圧を探る。

十一番隊らしからぬ穏やかな霊圧の近くに少し荒い霊圧を感じ取り、足を早める。

阿散井の報告を弓親と共に聞いた一角は、やたらと霊圧が上がるのが自身にも分かった。

稽古しただろうが…
そんなに強いやつかよ

思わず舌打ちをしそうになったのを抑えた一角は阿散井を見やる。

戦力が無ェんだよな

阿散井が悪いとは思ってはいないのだが、今の瀞霊廷内の状況に苛立ちを感じていた。

三人がそんな話をしている最中、阿散井の伝令神機が鳴る。

「出ました、西流魂街です」

ピッ、と音を立て画面を変えると阿散井は二人に頭を下げ、任務に向かおうとしたのだが、ヒラリと現われた地獄蝶の声に立ち止まる。

―恋次、西流魂街だ。そこに綾瀬川がいるのであれば応援要請をするように―

先の報告を読んだ指示に、一角が腕組みをする。

「俺が行く。恋次、朽木隊長に伝えろ」

直ぐさま、地獄蝶に返事を伝えると伝令神機を取り出し数を確認する。

「後で金柑の所に行くからよ」

弓親は一角の言葉に了解、と頷く。

「技局と通信出来るように回線を回しました。行きます」

行ってらっしゃい、と微笑んだ弓親は、どんよりとした曇天に美しくないと毒づく。


一度隊舎に寄り、伝令神機で連絡はつくからと走り書きをした弓親が向かおうという時に、恐らく単独で任務に向かっていたであろう更木とやちるが戻った。

「あ、まぁ損はないか」

呟いた言葉は気に留められることなく、やちるの意識は弓親の手にあった。

「どうするの?」

弓親の手に乗せられた小さな小箱は、先日弓親が買い置きしていた和菓子で、手を出そうとした一角がやたらと詰め寄られることがあった代物。

「金柑の入院見舞いですよ」

目を丸くさせるやちるに分かりやすく簡単に説明をすると、彼女は更木の肩から飛び降り、自分の机から小瓶を持ってきた。

「これ、お見舞いねっ!剣ちゃん、出ないといけないから」

こんなにも懐いていたんだ

金平糖が詰まった小瓶を受け取り、頷く弓親。

更木はやちるの頭に手を乗せ、弓親を見る。

二人なりに金柑を心配しているんだ、そう分かれば上司が彼らで良かったと心の底から思う弓親だった。


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