37
「また君?全く。今度は?」
来る途中、やたらとヌルリとする感覚に左足を見れば、ダラリと血が伝っていた。
信じられない…
四番隊第三救護室に呼ばれて入った一言目は、荻堂によるもの。
またはこっちの台詞ですよだ
「足と肩です」
そう言えば、椅子ではなく診察台にという仕草。
「ほら先に足をやるから、足を出す」
死魄装の裾をガバッと捲る金柑に、荻堂は呆れた。
確かに治療だけど、恥ずかしさが無いのかと、もう少し躊躇したら?と荻堂。血を拭い、手を翳す。
やっぱり、早いな
体質だろうか
「治してもらっていますんで、あははっ」
清潔な綿を宛て、留める。少しすれば完治する程度だ。笑う金柑に、死魄装から腕を抜くように指示をする。
「そりゃそうだ」
「刺青、入れたの?」
肩から抜かれた金柑の鎖骨から肩にかけて這う蔦、絡まる華。
「へ?どんな噂ですか」
素頓狂な声を出す金柑に、荻堂は眉間に皺を寄せた。
「鏡取って、ありがとう。ほら」
可動式の姿見を持ってきて、金柑の身体を指差す。
「知らない…こんなの何これ。でも綺麗…」
自身の身体の治癒力にも驚いてはいたが、今度ばかりは焦るあまりに、少しおかしなことを口走る。
「蓮…?」
薄紅に描かれたそれは、二人の目を釘付けにした。
「蓮華?」
金柑は単なる痣ではないそれに、不安を覚えつつあった。
「伊江村三席を呼んで。あと阿散井副隊長も」
荻堂の指示に、どうしたものかと頭を悩ませる。
すぐに現われた伊江村三席は、金柑の痣と思しきそれに見入った。少し遅れてきたた阿散井は、荻堂に促され金柑のそれに目をやる。
「なんだ、刺青入れたのか。相談しろよな。まさか、檜佐木さんの影響か。なんだって呼ばれたんだ?」
「そんな副隊長みたいに全身刺青にしませんから」
直ぐさま、金柑は応酬をする。
「阿散井副隊長、痣です」
但し、普通の青痣のように押して生じる痛みはない。
「いつからだ」
言われてみりゃ、刺青では無ェな
「本人の様子から今日かと」
ジッと見つめていた阿散井は、ふと胸元が晒されている金柑に頭を痛める。
いくらなんだって恥じらえよ
「痛い訳ではないのだな」
漸く口を開いた伊江村は、荻堂からカルテを受け取る。
「はい」
「分かった、様子を見るしかないだろう。ただし、何かあったらすぐに来るか、呼ぶかするように」
カルテに伊江村の印を押し、隊長に報告しようと荻堂にその旨を耳打ちする。
「はい…あのっ」
「何だね」
伊江村は金柑に向き直る。
「お風呂は…?」
「入って良いっ」
見上げる様に、緊張感が幾らか解けた伊江村は顔を赤らめた。荻堂が不敵な笑みを浮かべたことを彼は知らない。
心配性なんだから
金柑は隊首室から出たところで、嬉しいようなそうでないような複雑な気持ちになる。
「異常があれば、直ぐに申し出よ」
心配をかけてしまった…
うなだれる金柑は、仕事を終えた阿散井が朽木隊長に報告したことを気に病んだ。
「馬鹿野郎、朽木隊長に言わねぇでどうすんだよ」
金柑の気持ちも分かるが…
諭すような言葉に、金柑も確かに余計に迷惑をかける訳にはいかないなと思う。
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