36
秋も半ば、日の入りが早く薄暗くなった空の下、薄闇に溶け込むように立つ屋敷に二人は入る。
「ルキアちゃ、ル、ルキア勝手に行ったらまずいんじゃない」
物怖じしないんだからルキアの後ろに金柑は張り付く。二人がキョロキョロと中を覗いていると、チリンと鈴の音を纏い童京は現われた。
「あら、いらっしゃい。今日は鈴が居ないものだから」
申し訳ないと頭を下げる童京。金柑は、下げ緒から外した石を、手に乗せる。
「実はこの前買った石なんですけど」
やはり、濃い甘い香りは変わらず、時折土の香りが童京から漂う。通された部屋は、以前と同じ部屋である。
「それはそういう物ですよ。例えば、朽木ルキア様の斬魄刀に合せた雪石(ユキイシ)も金柑様が持たれれば、熱くなりませう」
漆黒の短髪が風に揺れる。
「あるのか?」
「在りますよ」
童京は持っていた小袋に蓮華石を入れ、どうぞと差し出す。
「見たいものだ」
ルキアは身を乗り出しながら、挑戦的に笑う。
「お待ち下さいまし」
童京が動けば、甘い香りが動く。
「うわぁ…綺麗だぁ」
「あぁ…」
それは、真っ白な石で、ぼんやりと中に浮くのは金色の結晶。
「宜しかったらどうぞ」
早速とばかりに小袋を取り出す。
「商売上手だな」
口でそうは言っても、やはり引きつけられるもの。
「何で分かるんですか」
金柑は童京に尋ねた。
「先見と申しませうか」
この先は話さないという様に、ニッコリ笑えば鈴が鳴る。
「ほう、決めた。買おう」
支払いをする横で、金柑は更に童京に尋ねる。
「石の力ってあるんですか」
受け取った小袋から石を取り出し、翳すルキアを童京は優しく微笑む。
「そうですね、お持ちにならないと効果は出ませんね」
「肌身離さず?」
下げ緒なら良いのかな
「無論です。出来なければ清潔な場所に置いておくのも良いですよ」
男にしては、細く白い指を立てる。
「嬉しそうだねぇ」
二人は童京の屋敷から出て、石を見せ合う。
「滅多にせぬ買い物だからな」
確かに、あんまり買うのを見たことないか
「それもそうだね」
屋敷から出れば、屋敷内では止まっていたかのような時が動き出したように、既に星がちらちらとしていた。
「付き合ってくれてありがとね」
「構わぬ、また甘味に行こう」
知ってか知らずか、のんびりとルキアは包みを仕舞い込む。
「勿論っ」
金柑と別れたルキアは、阿散井が楽しそうに話しかけてきたことをふと思い出す。
そう言えば、斑目殿との話を聞くのを忘れていたな
恋次に聞こうか…
いや、金柑に聞いた方が良いか
相変わらずどっしりと構える朽木家の門を、あの時より足取り軽く、くぐり抜ける。
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