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「金柑、書類配って来てくれるか。あと、檜佐木さんの所に原稿な」

バサバサと書類を掻き集める阿散井。その横で理吉が仕分けて山を作る。

そうか、皆は道場だ

珍しく朽木が稽古を付けるということで、平隊員は出払っていた。

「行ってきます」

風に飛ばされないように書類を抱え、それぞれに向かう。

後は、九と十二かと抱え直した書類を片手に九番隊の戸を叩く。

「うあぉっ!」

驚きのけ反ったのは檜佐木だった。周りの隊員たちはクスクス笑っている。

「今、休憩でぼんやりしていたんですよ」

悪い時に来たかな、と思いながらも阿散井からの原稿を取り出す。

「おー、悪いな、それ配達か」

金柑の手元に残る小さな山。

「はい、十二番隊にです」

ケラケラ笑う金柑。

おお、よくもまぁ、笑えるな
あの十二番隊だってのに

「それでは、失礼します」

何度も頭を下げる彼女に、檜佐木はひらひらと手を振る。また、来いよその言葉にまた頭を下げる。

「あと少ししたら、もう一度やるぞ」

編集メンバーは思い思いに返事をする。


金柑が十二番隊に配達をすると、珍しく阿近が研究室から出てきたところであった。

「お、ウミノ金柑じゃねぇの」

首を回しながら話し掛ける。こんにちわと挨拶をする金柑に、首尾はどうよと尋ねる。

「へ、あの…」

「斑目だよ」

話を飲み込めない金柑に直球を投げる。

「あのっ!!名前で、名前で呼んでもらえるようになったんです!そうなってからは一回も会ってはいないんですけどね」

身を乗り出す金柑が嬉しそうに、また自嘲気味に言った。それなら良いこと教えてやるよと阿近は手招きをする。おずおずと着いていく金柑。

やたらと独創的な研究室の扉にはプレート。『鵯州』名前だよねと悩む金柑の横で阿近は扉を叩く。

「鵯州、俺だ」

ギコギコと音をたて、覗き窓がせり出す。

凄いなぁ、手動?

入れよとの返事に二人は入る。

「使う必要ないだろ」

扉の後ろには取っ手等は無かった。

「前にお前だって言うから開けたら、檜佐木だったんだよ。アイツに栄養剤頼まれた…破格の安さでだ」

「断りゃ良かっただろうが」

「俺にも色々あるんだよ、禁煙」

煙草を咥えた阿近に張り紙を指差す。

「で、誰だ?」

「ウミノ金柑、来ただろ?」

あの字で鵯州と読むのか、と驚きながら頭を下げる。

「あぁ、で何の用だよ」

ギコギコとこめかみ横にある取っ手を回しながら尋ねる。

お、目が出てる!

ワクワクしている金柑を横目に、阿近は今夜だろと尋ねる。あぁ、と鵯州。

「今夜何があるんですか」

「「流星群」」

阿近は金柑のぱちくりさせる目に、女はそういうの好きだなぁと、ぼやく。

「阿近が作ったんだよ、オレが提案してなっ」

阿近はグッタリした顔をして金柑を見た。

「設計は丸投げ、作るのも俺。なんだかなぁ」

俺も手伝っただろうと言う鵯州をあしらう。カタンと取り出された小さな半球の箱。

「流星群って言ってもお手製な。だからそんなに良いもんじゃねェ。だが、技局の阿近と鵯州が作ったんだ。悪かねェ。むしろ、一級品だな」

支離滅裂と思うも見られる喜びが勝る。

「何処で上げるんですか」

食い入るように見つめる金柑に気を良くしたのか、鵯州は技局の屋根で上げるから、十二番隊の屋根は確実だなと言った。

「うわぁ…、どうしよう」

見たい、だけど他の隊に邪魔をするのは、と悩む。

「鵯州、此処の屋根なら構わねェよな」

阿近は、懲りもせずに煙草を取り出す。多分なと阿近からひったくった煙草を潰す。

「今夜、来いよ。そうしたら上げてやる」

ニイッと笑う阿近に、はいっと返事をした金柑。あまりにも嬉しそうな返事をした金柑に、鵯州は自分が笑いそうになったことに気付く。見送られた金柑は、自分がにへらにへらと笑うのを押さえられない。

「いやったぁぁ!!」

誰もいない道、一人飛び跳ね、叫んだ。
面白いなと呟く鵯州に、阿近は頷く。

秋に入り、日の入りも早くなり、既に空は郡青色から黒に変わり始めていた。足早に向かった十二番隊の前で、右往左往する金柑を見つけたのは阿近だった。

「上がって来いよ」

辛うじて聞こえた声に甘え、地を蹴る。屋根の不安定な場所に固定されたそれは、小さく溶け込みそうな色をしている。

ピッと電子音を立て下部に淡く赤い光が点り、鵯州が操作をする。

「完璧だな、オレ」

ニヤリと笑う鵯州に、阿近は俺だと言う。

「あと、少ししたら流れる」

くゆる白い煙は、立ち上ぼっては消える。阿近の匂いに金柑はすんすんと鼻を鳴らす。

「好きなように見ろよ」

鵯州は寝転びながら笑った。

「でしたら、鵯州さん、私も寝転びます!」

少し背中が痛いのは否めないが、これからの楽しみを考えればどうってことは無いとばかりに、金柑の顔は崩れる。

―シュッ

音を付けるなら、そんな音。見上げた闇、尾を引きながら光る星は瞬く間に消えた。

「やっぱり、自動の方が楽しみになるな」

阿近は吐き出した煙を更に吹く。隣りでうわぁ!と声を漏らす金柑に顔がにやける。手を握り締め、祈るように空を睨む金柑に女だよなぁ、と昼間と同じことを思う。

ぼんやり眺めていると、金柑の口が呟き始める。

「やっぱり難しいですね。三回は」

鵯州が応えた。

「願いはな。流石に消える時間まで弄ったら、つまらんからなァ」

そうだ、願いが叶う流星なんかを作るなんざ、仕方ねェ

これは俺と鵯州が同時に思ったことだ。

流星は流星群になり始めた。消えては生まれ、流れては流れる。機械に作られたとは思えない出来に、阿近も鵯州も互いに笑みが零れるのが分かる。小さく小さく祈る金柑。

「願いはなんだ」

取り外した機材を小脇に抱えて、鵯州が尋ねた。

「本当に大切な人が出来ますように」

鵯州は難しいよな、好きな奴が大切な奴になるのは難しいさと漏らした。阿近は確かになと呟く。

「三回言えたか」

「二回…です」

尋ねた鵯州は、またやる時は呼んでやると笑う。

「ありがとうございますっ」

満面の笑みを浮かべた金柑に、鵯州は最後になと尋ねた。

「金柑って呼んで良いか?お前の力を見たいもんだ」

ふっと笑う阿近に金柑が目をやると、俺もだと。

「是非っ」

揺れ動く日常は、まだ目に見えない。金柑は駆け出した。


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