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九番隊との合同稽古を迎えた六番隊、そこには若干やつれた阿散井がいた。

「恋次、背筋を伸ばせ」

そう告げた朽木白哉は、挨拶に来た檜佐木と言葉を交わす。

この稽古に賛成をした阿散井には、この日のために仕上げねばならない書類を、苦手ながらも必死で取り組んだ。副隊長であるから、必死も何もないのだけど。

「恋次、席官の腕を見ろ。上げても、下げても構わぬ」

バサリと渡された個人情報書類の山に目が回る阿散井だった。

「寒椿、金柑とやってこいよ」

ニヤリと笑うと、風が吹き込んだ。

「ありがとうございますっ」

阿散井審判の元、二人は向かい合う。

「あ、隊長。解放は無しで良いんスか」

熱気の籠る道場だというのに汗一つかいていない上司を見る。

「解放しても構わん」

どよめく中、二人は微笑んだ。

「始め」

金柑は抜き放った刀に振られるように、わざと体を捌く。ヒュウッと空を切る。

お互い知らない斬魄刀の能力を知りたい気もするが、やるならベストを尽くさねばと実力を出す。

「最後に始解」

尋ねる寒椿に、そっちこそと声を張り上げる。上に跳ねた寒椿は刀を振り上げてニィッと歯を見せて笑う。

「翳せ、焔鷹丸(かざせ-えんようまる)」

チリチリと音を立てながら炎を微かに纏わせた刀を振り下ろす。空気が焦げる匂い、そんなものあるかと自分を叱咤させた金柑は後方に退き、床を蹴る。

「縛道の四、這縄。破道の十一、綴雷電」

ビキビキと音を立てながら伸ばされたそれは、焔鷹丸を捕える。

が、すんでのところで逃れた寒椿は目を丸くした。まさか、金柑が鬼道を使うとは思っていなかった。加えて、鬼道の珍しい組合せ。

東仙のいた頃とは、自分たちの隊風は変わりつつある。少なからず自分にも影響が表われたかなと思いながら、握り締める。胸が高鳴る自分が、それ程気にならないと。

そう簡単に懐に入らせないと間合いを取る金柑だが、近間でなければ一本は取れない。寒椿はじりじりと詰める。

「単純に」

聞き取れた単語を深く考えずに嚥下したことを、少しばかり悔やむ。

「熾きろ、蓮華丸」

始解した瞬間、金柑の懐に飛び込んだ寒椿を襲う。

「二、波影」

水柱が寒椿を襲う。

「怖いなぁ」

頬が緩むのが分かると思いながら、自分より小さい金柑を肩口から袈裟に振り下ろす。

躱した金柑もまた下腹から袈裟に斬り上げる。そのまま振り下ろした金柑に、寒椿は手元で刀をいなす。

「あっ、くっ」

とどまることは得策ではないと、寒椿の背後を取る。振り返った瞬間、身体をずらし柄を腹部に叩き込む。

そう叩き込んだ筈だった。

「勝負有り」

気付けば、切っ先は項を捉えており、いるはずの寒椿はいなかった。

瞬歩、得意なんだよねと笑う寒椿。悔しいと顔に出ていたらしく、金柑に拳を突き出して一言。

「次はもっと楽に勝たせてもらうから」

その言葉に金柑も拳を合わせて笑う。次が楽しみ、と。

「朽木隊長どうしますか」

ぺらりと書類を捲りながら尋ねる阿散井に、朽木は反対に尋ねた。

「お前はどう思った」

朽木の問いに、顔を上げる。

「欲目かもしれないスけど、金柑の貪欲さと鬼道の組合せは使えます」

雛森のような技術力と言うよりは、特殊な組み合わせという点でとしてと付け加える。

「そうだな、どれくらいが妥当だ」

既に決めてあるだろうというのに、尋ねる上司に恐る恐る答える。

「そうですね、八席を三人にしても構わねぇっスか」

「良かろう」

胸を撫で下ろした部下を尻目に、寒椿と談笑する金柑に視線を移す。出来ることなら平穏のままを、と奥底祈りながら。

檜佐木もまた席を上げようと書き込み、書類を片手にふっと笑った。

「寒椿は追われるなぁ、お前五席な」

金柑と別れた部下を捕まえる。

「良いんですか」

「まぁ、四人の五席なら層は厚くなるだろうしな」

肩を叩く上司に、目を輝かせて頭を下げた。




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