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久方振りの合同稽古は、新人の力量を見る為に行われた。

朽木と浮竹、阿散井と古巣といった繋がりから六、十一、十三と荻堂率いる数名の四番隊という組合せ。

しかし、引率側の阿散井と一角が久し振りだからと手合わせをしたいと言い出したことから、前座として二人の手合わせが行われた。

浮竹は怪我をするなよと言い、楽しそうに傍観を決め込む。

「立ち会いは綾瀬川五席に頼むよ」

「分かりました」

スッと前に出た弓親の合図の元、手合わせという名の喧嘩が始まった。

派手な技を繰り出す阿散井に対し、楽しむように相手をする一角。新人たちも息を飲みながら見ていた。無論、金柑もそちら側であった。

「甘いな、おらよっ!!」

蛇尾丸の攻撃を掻い潜り、一角は阿散井の腹を解放した鬼灯丸の柄で突いた。

「っかは!」

ズザザッと派手な音を立て膝を着く。

勝負有りの弓親の声に一角がニヤリと笑う。

「俺に勝とうなんざ、まだまだだな」

悔しそうな阿散井を金柑は何とか宥め、仕事に取り掛からせる。

剣術と白打の二つに分けるのだが、そのために各隊均等に人数を割り振る。ざわめき立つ新人に一角の怒声が降る。

「テメェら!!やるからには本気でやれっ」

静まり返った空気の中、浮竹はやろうかと微笑んだ。その一言が聞いたのか、死神の卵の顔は引き締まった。

最終的に一角、阿散井、金柑の三人も参加をした。金柑の場合は阿散井の職権濫用であったが。


冷房の効く隊というのは限られており、六番隊も数少ないうちの一つである。

「しかし、現世は雨ばっかりらしいな、あーやだやだ」

休憩をしながら阿散井の言葉に耳を傾ける。

「九番隊、寒椿です」

おや、と振り返ると満面の笑みを浮かべ、細身の体を揺らしながら駆け寄る。

「ウミノさん、お久し振りですっ!」

隣りの阿散井はニヤニヤしながら様子を見る。

「お久し振り、書類?」

阿散井の発する鬱陶しい雰囲気を払うかのように金柑は尋ねた。

「はい、あと檜佐木副隊長が久方振りに飲まないかって阿散井副隊長に。僕も参加させて頂きます!勿論、ウミノさんもですよっ」

勢いに押された金柑は思わず阿散井に伺いを立てた。

「何で、聞くんだよ…。分かった、檜佐木さんに終わったら九番隊に行くって言っといてくれ、あ!書類っ」

分かりましたっと走り出す寒椿は、握っている書類を見てすみませんと謝る。

「ウミノさん、出来ましたっ」

竹井は任されていた書類を見せに二人の元に来た。

「完璧だね」

竹井ははにかんだ。

「お、お前も来るか飲み会」

竹井は耳を疑った。

「それって…」

檜佐木副隊長がみえるねと金柑は間髪を入れずに続けた。

「僕なんかが」

「無理に酒を呑めって訳じゃねぇんだ。来いよ、なぁ」

「阿散井く、副隊長がそう言ってるんだしさ、おいでよ」

二人は定時後、竹井を引っ掴み九番隊で檜佐木と寒椿の二人と落ち合った

ガヤつく店内にぞろりと入れば、檜佐木と阿散井の副隊長に更にざわめく。場違いな気がと呟く竹井、思わず金柑は竹井をはたいた。

「いっ!何するんスか!」

「私の方が場違いでしょうに」

ニヤリと笑うと、納得と呟く部下に苦笑い。

寒椿と竹井の紹介をし合い、箸を進める。

「しかし、乱菊さんがいないとそんなに飲まねぇもんだな」

檜佐木の言葉に阿散井が突っ込む。

「何言ってるんスか、そのうちペースが上がるくせに」

相槌を打つ寒椿。

上官に囲まれたせいか、酔いが早くから回り始めた竹井に、金柑は何とか御冷やを飲ませる。

「ウミノもやるなぁ」

檜佐木は竹井の話を聞き、金柑を見る。

「何をおっしゃるんですか。阿散井くんなんかは勘違いされてますけどね」

いやに丁寧だなとジト目で見る阿散井に、檜佐木はなるほどと。

「そんなのじゃないだろ、お前ら」

複数ではあるが、酔いつぶれている竹井には届かず。

「多分、僕がウミノさんに近付いたきっかけと変わらないんじゃないの」

金柑にお酌をしながら寒椿が言った。

「近付いたって、お前な」

気付けば、阿散井も潰れており話をしているのは三人。

「よく言うぜ、お前が一番飲んでるんだろうが」

「阿散井副隊長ってまんまですね。悪い意味じゃなくて」

御品書きを覗き込む金柑に慌てて訂正をするも、聞いておらず檜佐木が気にするなと言った。

選ぶことに夢中であり、お酒のせいか霊圧に気付かなかった。その人達が入って来たことに。

「出来上がりが二人か、まぁいいや。此処良いか」

転げている阿散井を寄せながら座る二人。竹井に至っては、金柑の膝に頭を乗せようともぞつく。

「仕方ないなぁ、ほら」

大きな子供を膝に乗せた金柑は弓親に注文を尋ねる。

「僕は冷酒、一角は一緒かい」

少し眉間に皺を寄せながら一角は、あぁと返す。

「これ誰だ」

斜め向かいに座る金柑の膝を身体を乗り出して覗く。驚いた金柑は座卓を揺らしてしまった。

近っ

お酒ではない熱さが身体を火照らせる。

「新人の竹井です」

あ、だのうぅだの言葉にならない音を発する金柑に代わり、寒椿が説明をしがてら、自己紹介をする。

「腕は確かなのか」

二人を見る。

「寒椿くんて、どんな感じなの見たことないよね」

「そうだったね、今度御相手を」

ニィッと笑う寒椿に一角の胸はざわつく。

なんだこりゃ

ざわつきを押さえるように御猪口の中身を飲み干した。

「ねぇ、金柑で良いかい」

弓親のいきなりの申し出に檜佐木が反応をした。

「弓親さん、どうしたんすか」

「面倒だから」

人の名字に対して言ってのけると、名前で呼んでくれているだろうと微笑む。その言葉に金柑はじんわりと嬉しくなった。

「勿論です!」

乗り出す金柑に弓親は微笑む、黒いオーラを纏って。気付いた檜佐木は俺も名前で呼ぶと言い出し、ニヤニヤしながら弓親と顔を見合わせる。耐え切れなくなった金柑は更に飲んだ。

「金柑、飲み過ぎだよ」

くすくす笑いながらも、きちんと御冷やを用意する辺りが弓親である。

一方、一角はと言えば、目を覚ました阿散井と騒ぎ始めていた。

「阿散井、うるせェ」

檜佐木が呆れたように言うと、一角さんが悪いんだってと噛み付く。

「けっ、まだ俺から一本も取れてねェだろうが」

「うっ、ウミノっもう少しだったよなっ」

横から身体を乗り出した為に、金柑の膝のにいる竹井の足を踏む。

「いっ、うるせェやいっ」

そのまま反撃を食らい、呻く阿散井に金柑は頑張ってたねと返す。

「金柑、何で二人が」

檜佐木が尋ねると、名前、照れますねと片手で扇ぐ金柑を促す。

「なるほどね」

弓親の補足を受けながら、先日の話をする。

「あ、なんで呼び捨てなんだよ」

顔を赤くした一角は隣りの阿散井にちょっかいを出しながら、檜佐木に尋ねる。

「弓親さんに倣ったんすよ」

ニヤニヤする檜佐木から金柑は恥ずかしくて目を逸らす。

「一角もすれば」

なんてことないだろうという表情が騒がしい店内と相容れない。

「あー。そうする」

「はいっ!?」

驚いた金柑が身体を動かしたせいで、竹井は上手いこと座卓の縁に頭をぶつける。

「いっ…いい加減にしろ」

そう言いながらも足だけで何故か阿散井を蹴飛ばす。

「竹井…明日覚えておけよ」

酔っている為にぼんやりとした焦点は説得力は零。

熱い、いや暑いと金柑は更に手で扇ぎながら、頭の中を整理しようとするも騒々しさに負ける。

「う、いやお願いします」

そう返事をした金柑の心臓はただでさえお酒で過剰労働をしているのに、と更にペースを上げる。

にんまりと笑う檜佐木と弓親に曖昧な笑みを返す。面白ェもん見たな、これからだねと各々心の中で更に笑む。

「今度手合わせしましょ」

閃いたとばかりに手を打つ寒椿。

「いや、相手にならないよ」

「何言ってるのさ、席官だろ」

「寒椿くんの方が上でしょ」

「じゃ、上官命令だ」

「うわぁ…」

「仲良いね。檜佐木、それ食べたいんだ」

「あ、これか。なんなら合同稽古やるか」

久し振りに身体を動かしたいなんてぼやく檜佐木に、阿散井がおっさんですねと言ったせいで、阿散井は頭を沈める。

一方、先程の胸中のわだかまりを忘れた一角はというと、酔ってはいるものの確かとある意識で更に阿散井をけしかけていた。

夜は更け、店内は彼らと大して変わらない輩で埋め尽くされる。

翌日、静寂が売りである六番隊に竹井の悲鳴と謝罪が響き渡る。更に覆い被さるように阿散井の声も。

無論、季節外れの桜に目を奪われない隊員などいない。

深緑に穏やかな風が吹き始めた夏も終わる今日この頃、鮮やかな白紅が散る。



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