29
季節は巡り春。もうすぐ十三隊に入隊希望の届けが出される。それと同時に、手間を省くために実地訓練と称した視察が行われる。
二、四、十二番隊は視察。持ち回りされる訓練は今年は六と八番隊とされた。
「恋次とウミノで行ってこい」
それだけ言うと、書類を残して立ち去る朽木隊長。
「隊長、面倒くせェのか?」
意外だと呟く阿散井に対して、金柑はウキウキしていた。
学生相手に手合わせをすることが、実地訓練担当の仕事。六回生となれば、騒ぐこともなく、浮き足立つものもいない。
「私、こんなに出来たかな?」
院生の動きを見ながら、監督をする阿散井に尋ねる。
「あ?分かんねェ。けどお前、結構そつなくこなしてたろ」
自分も混じりたいのか、うずうずしている阿散井にどうぞと勧める。結局、阿散井の独壇場と化し、金柑は少し物足りないと思いながら様子を見ていた。流石に気になったのか、阿散井が金柑を呼んだ時、大きな悲鳴が後方から聞こえた。
「虚だ!ちっ、面倒だな」
六回生とは言え、実戦などまだまだの卵である。阿散井と金柑は、彼らに一塊になるように指示しながら様子を窺う。
―キシャァアァアッ
「皆いる?」
「はいっ」
ひとまず安心だと二人は目配せをし、虚に向かい合う。
「増えなきゃ問題ねぇんだが…」
「そうもいかないみたいですよ」
嘲笑にも似た溜め息を吐きながら、金柑は上空を指差した。
「最高だな」
刀を翳しながら阿散井は振るった。
「咆えろ!蛇尾丸!!」
刀身をコントロールしながらなぎ倒してゆく。そんな中、決して強くはない虚が次から次へと姿を現す。
「副隊長!応援を頼みます!今なら二と八がいる筈ですっ!」
金柑はそう叫ぶと、阿散井の返事を待たずに応援要請をした。
「ア、アアァアァッ!!」
ぐるりと声のする方に向かえば、一人刀を振る男がいた。
「何やってるのっ!結界の中に早く戻りなさいっ」
金柑の声に我に返った少年は、膝から崩れ落ちた。
「恐いでしょうに、っもう…」
少年の腕を引っ張りながら後方に下がる。その瞬間、金柑の足の感覚が消えた。
−パタパタ
ギリギリする痛みに左足を見れば、腿からふくらはぎにかけてザクリと引き裂かれていた。やっと虚を認識すれば、大きな鎌を振り回していた。
「っつ…、仕方ないな…良い?今から放り投げるから、きちんと自分で着地するんだよ!縛道の四、這縄!」
そう言うが早いか、金柑は力と這縄の力を利用して結界の近くに飛ばした。ズザザッという音に苦笑いしながら、彼らと虚の間に立つ。
ちらりと周りを見れば、どうやら大方は阿散井が片付けたらしく、駆け付けた二、八番隊は院生の保護や逃げた残党を始末している。
「うわ、私だけじゃん。挙げ句に怪我って…。熾きろ、蓮華丸」
足を踏みしめる度に血が迸り、苦痛に顔が歪む。振り下ろす刀を鎌で止め、更に振りかぶる鎌を百雷で穿つ。
―ギャァアアッ
自ら鎌を切り落とし、金柑の身体を狙うそれ。
既にぐっしょりと濡れた死魄装が纏りつく為に、動きが制限された金柑は柄を握り締める。
「一、滝落とし」
蓮華の花弁が振り下ろされた刀に沿い、串刺しにする。
「すげぇ、何だよアレ!!」
その声に振り向きながら刀を納めた金柑は、その子が先程の子だと分かると手招きをした。
手をヒラヒラさせる金柑に慌てて寄ると、頭を下げた。金柑は自分の傷を見せながら言った。
「少しならやれる?」
少年はおたおたしながらも、最低限の治癒鬼道を使う。
「四番隊は凄いんだね」
「自分、向いてないっス」
それは、死神なのか四番隊なのか計りかねていると少年は続けた。
「周りが見えないと皆に迷惑をかけてしまうじゃないですか」
俯きながら手を下ろす。金柑は治癒鬼道でも力があるのにと思いながら、手ぬぐいで足を縛る。
「何を言ってるの。まだまだ実戦を積んでないんだから。数をこなさないとね」
その言葉にはにかむ。少年は、この人の元に行きたいと思った。
「ウミノさんは六番隊ですよね!」
ずいっと顔を出す。
「うん」
少年は決めた。
「自分、六番隊に希望を出します」
呆気にとられた金柑を阿散井が呼びに来た。
そして春、彼、竹井純太郎は六番隊に現われた。
初っ端の自己紹介で金柑に抱き付くという偉業を果たした純太郎は、朽木隊長の計いにより金柑の元に着くことになった。
「もう少し落ち着いて書きなさい。書類は逃げません」
緊張のせいか、墨を飛ばしながら書き付ける純太郎の頭をはたく。
「うっス」
深呼吸をする姿に苦笑いをする。
一方、阿散井はそんな二人の関係が、どうしても恋人同士に見えて仕方なかった。それは阿散井の目利きに問題がある訳だが。
「副隊長、誤字です」
三席の言葉に我に返ると、朽木隊長の無言の圧力に触れた。
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