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昨日の金柑の力量から、隊員たちは稽古を申込んだ。自分のレベルを知るため、肩慣らしのため、久し振りに女性とやる、理由が様々なのは金柑自身理解していた。

木刀をいなして、そのまま撥ね上げると、切っ先を首に当てる。ガランッと響く音に振り返る者たち。

「ありがとうございます」

「おぉっ!!明日は負けねェぞっ」

今日が明日も続かないと分かっているから、稽古を組む。

「お願いしやっすっ」

「お願いします」

少しの休憩をすると次の隊員。即座の重い打ち込みに手が痺れる。近間に入ることは不利なため、出来る限り距離を取る。

ジリジリと攻めぎ合う。
―カンッ
―カカンッ

お互いに突き合う木刀を弾きながら、前に出る。隊員の振りかぶりに乗じて、上に跳んだ金柑は木刀を左手に持ち変える。

「っ…何っ!」

来る!!

隊員の右上方から来る木刀に反応しようとした瞬間、ガンッ、ダンッと響く。

手元を上げようとした瞬間を足で蹴られ、木刀を離してしまった隊員の胸元には、真一文字に突き付けられた木刀。

「やるな」

その声に振り向けば、意外だという顔の一角。

「まさか…」

うなだれる隊員に礼を言い、こっちへ来いと呼ぶ一角の元に走り込む。

「そんなに急がなくてもな」

座れと正座をすれば、崩せと言われる。思わず顔がにやけた金柑に一角はなんだよと聞く。誤魔化す金柑に仕方ねェと呟くと話し出した。

「白打は出来るのか?」

「全くです!足は遅いですし」

「さっきやっただろ」

「ああいうのしか出来ないんです」

恥ずかしそうに笑う金柑に、一角は少し興味が湧いた。

「弓親!ウミノとやれよ」

離れた所で、汗一つかかずに稽古をする弓親を呼んだ。

「構わないけどウミノさんは良いのかい?」

あんぐりと二人のやり取りを見ていた金柑は、慌ててお願いしますと頭を下げた。普段は稽古をしない弓親と手合わせ出来る貴重な機会を逃す訳にはいかない、と金柑は臨んだ。

自然と周りには見学者が増えた。

「手加減しないよ」

その瞬間、背後を取られる。前に跳び、振り返り様に横一に木刀を抜ききる。無駄のない動き、的確な突きや振られる木刀をギリギリで躱し続ける。

躱しているんじゃない、躱すようにされていると本人も誰もが気付く。

「弓親のやろう」

苦々しく見つめるも、これもまた一興と更木隊らしく眺める。

息が上がる金柑、息一つ乱れない弓親。小さく前に出ようとする金柑に弓親は先を制した。剣先をお互いに抑え合う。

弓親としてはもう少しやり合いたいのだが、金柑の息が上がっているために決めることにした。

スッと弓親の上げた手元、そこを狙い腹部に打ち込もうと金柑は身体を飛び込ませる。が、寸前に手を取られ首筋に木刀が当てられた。一角に比べると派手さは無いが、頭を使った動きをする弓親。

「はい、終わり」

息切れ切れの金柑は、床にへたりこむ。各々が散る中、弓親は一角に明日もやりたいねと笑顔を浮かべる。二人は金柑を両脇から抱え、立たせる。

こちとら心臓が持たない、と口をパクパクさせる金柑の横で、一角は今日は終わるかと叫ぶ。

「一角、ウミノさんがびっくりしてるから」

あ?と横を見ると目をぱちくりさせている金柑。久し振りに女に触ったな、と何と無しに思う一角だった。

三日目もそんな調子で、金柑の腕や足は筋肉痛だった。

少し変わったことと言えば、隊員たちが金柑を名前で呼ぶようになったこと。更には、やちるよろしく金平糖を差し出された。

「全く、うちの隊員は単純だね」

紙袋にこんもりとした山を成す金平糖。筋肉痛の腕で抱える金柑。

「帰りに大きめの硝子瓶でも買ってみようかなと」

お子ちゃまだなと笑われることも幸せで。まだ知らない、まだ分からない、小さく緩やかに忍び寄る恐れに誰も。

最終日、朽木隊長に顔を出さねばならない金柑は、どうにか酒宴の申し出を辞退する。大の大人がグスグスと鼻を鳴らす姿に、苦笑いをするしかない。

「おらよ」

更木隊長がぽいと投げた袋を受け取ると、中にはやっぱり金平糖。

「剣ちゃんがね、ありがとうだって」

馬鹿野郎と呟いても怖くない、そう思う金柑に一角も弓親もまた稽古だと肩を叩く。少しばかり強い力に胸を掴まれる。

何でも良いから、前に進みたいな
まだ止まりたくない

金柑は紙袋を手に、宴会を始めた十一番隊に人知れず、頭を下げた。




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