27
翌朝もきちんと始業時間に向かうが、誰もいなかった。
「すごいな」
ぽつりと漏らすとあの霊圧、くるりと振り返り、挨拶をする。
「おはようございます桐立八席」
「おっ!おはようっ桐立さんで良いやい」
朝から明るい桐立に、金柑は自然と今日は良い一日なんじゃないかなぁと思えた。
「よっしゃ!儂の分やろかっ!」
にぃっと笑うと、昨日ウミノがあてがわれた机を自分の机の側に引き寄せ、書類を選り分ける。
「こりゃぁ、全部今日の日付だなァ」
バサバサと書類の山を片付けていくと、ぱらぱらと隊員たちが集まり始めた。弓親もその中にいた。
「隊長はまだなんだね」
不敵な笑みを浮かべる弓親に、隊員たちは一層筆を走らせた。一角が現われると、副隊長用の書類が山から出てきたと隊員は手渡す。
「ちっ…早くからやっときゃぁ良かったな」
弓親にも振り分けながら嘆く。
「毎回そう言ってるよ、隊長だ」
ギチギチとした霊圧に深呼吸をする者もいた。もちろん金柑もだ。執務室へ入ってきて早々に、弓親に連れられ隊首室に籠る、金平糖片手に。一時間ごとに休憩を取りながら書類を片付ける。
「金柑ちゃん金平糖好きっ?」
いつの間にやら、金柑の膝の上が定位置になりつつある。
「大好きですよっ」
小柄な金柑がやちるとそんな話をしていると、年かさの隊員たちは微笑ましく眺めていた。お昼になると、各自昼食を取りに行く。
「ウミノさんも一緒に行こうか」
わざわざ声を掛けてもらえるなんてと嬉しくもあり、緊張もしていた。食堂で空いたテーブルに着き、話をしていると一人の女性隊員が声を掛けた。
あれ?見たことある気がする…
一角さんの彼女だよね
良いですかと席を示しながら尋ねる彼女に、弓親がどうぞと促す。必然的に金柑は弓親、一角は彼女と向き合う形になる。明らかに二人だけの話だろうと、弓親と金柑は会話に徹した。話は耳に入ってくるのだが。
「ねぇ、この一ヶ月何も思わなかったの?」
一角を見据える。
「いや、悪かったと思ってる。だがお前が他に好きな奴がいるのにだ、分からねぇな」
箸を置き、彼女に投げ掛ける。
「本当に、そう信じていたの?」
「どういう意味だよ」
じっと見つめる瞳に揺れる一角。
「試したの…檜佐木副隊長じゃなくて自分を選べって言うんじゃないかって」
少し悔しそうに話す彼女は、手を握り締めていた。
「そうか」
そんなことする理由が分からない、と一角は思った。
「なんだか私が馬鹿みたいね。こんなことして」
先程とはうってかわって、ケロリと話す。
「わざわざする必要ねぇだろ」
「言えないから、聞けないから」
笑って話す彼女に、一角は胸を掴まれたように苦しくなった。
分かっているから
「何をだ」
それなのに聞くなんてな
「私のこと好き?ってね」
「おい…」
それでも彼女は言葉を継ぐ。
「フラれたも同然なのに、まだ好きな自分が嫌になっちゃうなぁ」
「お前…」
「これが最後のプレゼント、むしろ嫌がらせか…それじゃぁね斑目三席、今までありがと」
引き止めない一角、振り返らない彼女。
「あぁ」
一角は、二度と繰り返すなと心の底で思った。当たり障りのない話をしていた筈、むしろしていたせいか、金柑の頭にはさっぱり弓親との話が残らなかった。
「ほら行くよ」
弓親に促されて二人はやっと腰を上げた。道場に向かう道すがら、一角は弓親にぽつりと零した。
「繰り返しちゃならねェとは思うが、やっぱり無理だ。俺は戦っていてェ」
間違ってるか、と聞く一角に弓親は微笑んだ。
「だって更木隊じゃない。当たり前だろ。きっといるよ、分かってくれる人がさ」
ニヤリと笑うと一角は、それまではいらねぇなと言った。
私はまだ入れない
覚悟もない、力もない
金柑は、結末を受け入れるあの女性隊員を羨ましく思った。
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