19



剣術、演舞、白打と三部門の中で金柑は、剣術と演舞に出ることにした。白打を金柑の身体能力で考えた場合、向いていないのだ。

日程は初日に剣術、一日空けて演舞、また一日空けて白打である。大体、三つ全てに出るものはいないのだが、一応考慮してということだ。


一角と弓親にはいつ来ても良いと言われていたが、六番隊に属する金柑は仕事終わりにとお願いをした。

十一番隊道場、ガラリと戸を開けた時は、熱気が籠っていた。幾つかの戸を開け放す。傷付いた床や壁がどの隊よりも多い。

「お願いします」

不敵に笑う一角に、金柑はどう飛び込んだものかと思案した。

ジリジリとした霊圧に焦りを感じ、左足を蹴り、正面から飛び込む。カンッと簡単に躱される。

どうしても気持ちが先走り、無駄な大振りや動きをしてしまう。近間でやたらめったら打ち込む自分に気付いた金柑は、自ら間合いをとった。

―キュッ

緊張のせいか汗が足を滑らせる。

頭を冷やせ
落ち着け
敵わないと分かっているんだから
思いっきり行けば良い

木刀を握り締め、前を見据える。正面から打ち込むも、一角に簡単にいなされる。

―カンッ

いなされた勢いに体が引っ張られて、体勢を崩す。

金柑は右足の踏ん張りを利用して、いなされた木刀を自身の左脇腹から袈裟に振り上げた。

―ヒュッ

が、空を斬った。体勢を調いきれなかった金柑に、一角は容赦なく打ち込む。

―カン
―カカンッ
―ガツッ
―ギシギシッ

木刀がかち合う音、長年使われた床が軋む。荒く肩で息をする金柑の頬を伝う汗。金柑が振りかぶる木刀を簡単に払う一角。

「無駄な動きだな」

払われた木刀は大きな音を立て、金柑の手から離れた。金柑の首に、横一に突付けられた木刀。

「終いだ」

真剣なら首は飛んでいる。

「はい、ありがとうございます」

道場内にはいつ来たのか、阿散井や乱菊が弓親と話していた。

「どうすんだ?まだやるか?」

上がった息を調え、金柑は答えた。

「はい」

やるなぁと笑いながら、十五分したら再開だと言い弓親の元へ向かう一角。

金柑はそれを見送り、道場を一旦後にして、水場へ向かった。

悔しい
分かってはいても
何も出来ない自分が悔しいな
今まで何をして来たんだろう
力なんてないんだなぁ

気付けば涙が頬を伝っていた。声を押し殺して、流した。ふと霊圧を感じて振り向けば、そこには射場がいた。

「射場副隊長…ひっく…」

嗚咽が止まらない金柑にどうしたんじゃと尋ねる。

金柑は、今に至る経緯を簡単に説明した。

「そうか…」

反応しない金柑に射場は続けた。

「頑張るいうんは、言われるともっと辛くなるもんじゃけえ」

「頑張るために頑張るんじゃないと思うがの。頑張るいうんは、目的のために頑張るんじゃのうて、目的のために動いちょることじゃないかと思うの」

難しい

複雑な表情を浮かべる金柑に、射場は気にするなと笑った。

「思うたようにやりぁええんじゃ。間違っとるなら言ってくれるやつもいるけぇ。見てるやつは見てるんじゃけぇの」

「はい…」

「話は変わるが、一角と弓親はおるんじゃの。夜に誘おうかと思ったんじゃけぇ。他にいるんか?」

金柑が指折り数えながら名前を上げると、待っとくように伝言頼むかのと。

金柑もじゃ、と笑う射場に金柑は何故だかホッとした。


「手加減してるとは言え」

溜め息を吐く弓親の隣りに、どかりと座る一角。

「あぁっ!?あれぐらい普通だろうがよぉっ」

「違うから。女の子だよ」

弓親は同意を求めるように乱菊に問い掛けた。しかし、弓親の期待に反して乱菊はケロリと答えた。

「本人が良いんなら良いんじゃない」

まさか乱菊がそう言うと思っていなかった阿散井、流石に一角も驚いた。

「で、どうっスか?」

心配の入り交じった声音で聞く。

「反応は悪くないんじゃないかな?噂をすればだよ」

濡らした手ぬぐいを畳みながら戻ってきた金柑。膝を叩き立ち上がる一角に金柑は、頭を下げた。

先程からの緊張が解けたのか、金柑の反応は格段に上がっていた。

「やるじゃねぇかっ」

それでも余裕なことに変わりはなく、軽々と木刀をいなす。

―キシッ

軋む床を、疲れからか縺れる足が蹴る。

一度くらいっ

金柑は、木刀の切っ先を一角に向けながら平に構えた。横一に斬りつけるが止められ、鈍い音が響いた。

「残念だな」

その一言と共に、止められた木刀はぐわりと回され下から飛ばされた。派手な音が響き渡った。

その場にへたりこみそうになる足腰を踏ん張り、金柑はありがとうございましたと礼を言った。

さっきと同じだよ
学習しなきゃいけないのに

唇をキリキリと噛み締める。

「最初から強いやつなんかいねぇぞ」

木刀を不作法にも担ぎながら笑うのは、一角。まだまだ余地はあんだろ、そう言いながら見学に来ている三人の元へ向かった。

金柑は、ぺたりと床に座り込んだ。

余地か
何のために力をつけるのかな
どうしよう、目的が無い

握り締める気にもなれず、手はくたりと床に落ちていた。その様子を捉えた乱菊は立ち上がり、金柑の元に向かう。

「さて、今からご飯食べに行こうかしら」

とんと膝を着く乱菊に、金柑は視点を合わせた。

ふんわりと微笑む彼女に、金柑はもやもやが少し消えるのが分かった。

はた、とさっき水場での射場とのやり取りを思い出した金柑は慌てて言伝た。

くわっと伸びをした一角は、待つかと言った。

「それなら修兵と吉良を連れて来るわねっ!」

一番乗り気であろう乱菊は言うが早いか、道場を後にした。実は、と恐る恐る一角に話かける阿散井。片肘を着いて寝転ぶ一角はなんだよ、と一つ欠伸。

先約があったらしい阿散井は、先に失礼しますと道場を後にした。

それを見ていた金柑は、何やら足に違和感を感じ、足の裏を見た。

「うおっ!」

道理で…

足の裏を凝視する金柑に、弓親は訝しげに覗き込んできた。

「あ、水ぶくれじゃないか。全く」

立ち上がる弓親の行動を察した金柑は、必死に止めた。

「大丈夫ですからっ!あの、本当にっ」

金柑を振り返り、弓親特有の笑みを浮かべられてしまえば、抗うことは不可能となった。

暫くして戻ってきた弓親から救急箱を受け取り、指示を受けながら水を抜く。

「ほら、こっちの消毒液を使いなよ」

絆創膏を貼り、足袋を履いてしまえば問題はない。

そこに待たせたのうと、声と共に上がり込む射場。

「今松本が修兵と吉良呼びに言ってるぜ」

むくりと体を起こす一角。

「厳しくやっとるようじゃのぉ」

胡座をかいて、満足そうに三人を見遣る。

「そんなやわじゃねぇから大丈夫だろ?」

急に話を振られた金柑は面食らいながら返す。着いていけてないんですけどねと、あははと笑った。

本当に、申し訳ないな

「そう思うなら稽古すりゃ良いし、学習しろ」

ぐさりと刺さったよ、一角さん

「一角に言われたくないだろうよ」

弓親の言葉に射場も笑う。連れて来たわよと、半ば無理やりじゃないだろうかと思うくらいに疲弊した二人がそこにいた。

「あら、恋次は?」

きょろりと見渡して尋ねる乱菊。

「先約があったそうで…」

ルキアちゃんだと良いな


その夜は、射場行きつけの店に向かった。



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