16
止まりかけていた血に安堵している金柑を、左肩とは違う衝撃が襲った。
右足に伸びる切り傷を確認し、後方に飛びのく。咆哮をあげる虚。
まだいたのと呟く金柑に攻撃を仕掛けてくる。金柑は刀を掴み、ダンッとばかりに地を蹴った。
すばしこい動きに、金柑は何とか食い付き、爪を躱し、四肢に斬りかかる。ギチギチッと軋む自身の筋。
「おい!!ウミノっ」
黒崎さん
「どけっ!!」
「一護っ!!」
「放せっ、一角何すんだよっ…」
後方に引き、二人を見る金柑。そこには、斑目に羽交い締めにされた黒崎がいた。
「金柑!倒してこいっ!やりてェんだろ」
ニヤリと笑う斑目と金柑の視線が絡んだ。
乗せられたなぁ
「いきます」
息を吐いて、足を動かすとその度に血が飛ぶ。使える瞬歩を使いながら、翻弄した虚を斬りかかると、ガッと爪で阻まれた金柑は笑う。
「破道の三十三、蒼火墜」
怯んだ虚に刀を振り降ろした。
「やったじゃねぇか!」
頭をはたいて笑うのは、斑目だ。
「でもあんなのにてこずるなんて」
「ったくよ…」
斑目とは反対に不機嫌そうに呟く黒崎。
「黒崎さ…くん、助けようとしてくれてありがと。斑目さん、気持ち良いお言葉ありがとうございますっ」
二人は顔を見合わせて苦笑した。コイツは侮れないと。
金柑はまだ気付かない、自分が望み始めたこと、力をつけたいと。そしてそれが、もたらすことを。
収拾がついたところで、斑目と金柑は黒崎に別れを告げた。
尸魂界に戻り、報告に行こうとする金柑を斑目は止めた。
「お前、先に四番隊に行け」
「大丈夫ですよ」
「付き合ってるやついんだろ?」
何でそんなこと聞くのか、金柑は不思議に思った。斑目は、ウミノが気にしなくても相手が気にすんだろと諭す。
「はい…」
気おされた金柑は四番隊に向かうことにした。
「狛村隊長には俺から射場さん伝てで言っておくからよ」
金柑が礼を行って、荷物を受け取っていると一人の女性隊員が走り寄ってきた。
彼女かな
「お疲れさまです。怪我…してないですか?大丈夫ですかっ」
矢継ぎ早に質問をする彼女に、金柑はびっくりした。一方の斑目はというと、うんざりだという顔をしていた。
ちっ!
のんびりしようと思ってたのに
面倒だな
誰だアイツ?
斑目が見つけたのは、眼鏡をかけた男性隊員。斑目に気付くと軽く会釈をし、金柑のもとに歩いてきた。
「金柑大丈夫か?血、出てる、大丈夫なのか」
どうやらお互いそれぞれが目に入ってないようで。斑目はウミノに申し訳ないがと心の中で断った。
「あー、ウミノ四番隊行くぞ」
アイツの方が良いか
しかしそんな心配を余所に、助け船だとばかりに行きましょうかと言うウミノ。
二人は顔を見合わせ、溜め息をついた。
「今から報告に行かなきゃならねぇから」
掴まれた腕をやんわりと解く斑目。
「私も行かないといけないんで…」
「そうか、そうだな。ん、お疲れさん」
お互いがお互い別れた後、思わず零れたゆっくりしてェなと言う斑目に、金柑も存分に頷いた。
現世任務の後、狛村隊長に呼ばれた金柑。
「明後日から六番隊に復帰してもらいたい。本当に助かった。しかし、虚退治が多くて済まなかった。ありがとう」
「いえ、貴重な体験をすることが出来ました。ありがとうございます。」
「また来てはくれぬか」
優しい笑みを浮かべる狛村に金柑は、喜んででお受け致しますと。
翌朝六番隊に行くと、阿散井が待っていた。
久し振りだなぁ
「お疲れさん!怪我は良いのか」
無理すんなよと肩を叩く阿散井に、感謝する。
「朽木隊長が呼んでる。今日からの仕事関係だろ」
少々、肩を落とす金柑を送り出しながら、労いだろうと一人思った。
昼には久し振りだということで、阿散井と金柑は連立って食堂に向かった。
が、腰を落ち着けての第一声に、金柑は食べていたうどんを詰まらせそうになった。
「何て言いました、副隊長」
「だから、一角さんとはどうだったんだ」
いや、どうにもこうにも無いですけど
金柑が口を開く前に、阿散井は続けた。
「昨日一角さんと四番隊から出て来たって、一角さんの彼女が」
まずった?
頭を抱えた金柑は、最初の質問に否と答えた。
「ま、一角さんの彼女にはオレがフォローしたから心配すんなよ」
尊敬だもの
金柑は、零したつゆを拭った。
「そういや、雨辺さんとはどうなんだよ」
何もないですよ、最後の一線的なものは越えてないしとごにょごにょと呟く。
「ふーん。焦んなくていんじゃね。そろそろ戻るとするか」
焦るも何も
雨辺への気持ちが減っていた金柑は誰にも言えないなし、分かんないなともやもやを隠しきれないでいた。
その夜、帰還祝いという名の飲み会が松本乱菊より開催された。集まったのは珍しく少人数で、松本乱菊、綾瀬川、斑目、阿散井に金柑。
そのためか、騒ぎは大きくなることはなく、のんびりとしたものとなった。金柑は頼まれたものを各々に手渡した。
男が三人で話し込む横で、金柑は乱菊と話をしていた。横を見ると、お酒がかなり減っており追加するのかと尋ねた。
「そうだね、それじゃこれとこれお願い」
騒がしい二人に聞くのは面倒だな、と適当に注文をしていると、名前で良いよと一言。
受諾しか認めない弓親からお酒をすすめられ、乱菊からは絡まれて金柑は酔いに酔っていった。
更には阿散井や斑目には美味いから、といろいろな種類のお酒を勧められていた。
いつの間にやら名前で呼ぶ乱菊に、ふにゃぁと笑う金柑。
呆れ気味に言の斑目は、立ち上がり店員を呼んだ。
斑目に倣い、解散を宣言した乱菊は、もぞもぞと動く阿散井を立たせた。
「ウミノ?」
その声に聞き覚えがあった阿散井と斑目は振り返る。
「どうもっす##NAME3##さん」
阿散井は会釈をする。
へべれけになったウミノを見て苦笑いをする。
「良ければ引き取ります」
まぁ当然か
ぼんやりと斑目は思った。
この前といい、可愛くて仕方ねぇって感じだな…
「松本、いんじゃねぇの?」
そうねと軽く返事をして引き渡す。
「ほら、しっかりして」
眠いと呻くウミノをおぶさることにしたのか、背に乗せる。
「っしょっと…お世話をお掛け致しました。失礼します。」
会釈をしてその場を去った。
沈黙を破ったのは松本乱菊
「私のタイプじゃないわね…」
誰も聞いてねぇぞ
「同感」
弓親っ!?
しっかし俺はあんな風に出来ねぇな…
ぼんやりとした頭をはっきりさせたのは貴方の香
「起きた?飲み過ぎだから…」
見渡せば##NAME3##先輩の部屋
「あの…」
「飲んだくれてたとこをたまたま拾った」
お水を渡す。
アルコールのせいか渇いた喉に心地良い。
「ほら…零したぞ」
世話焼きだなぁ…
何を想ったのか##NAME3##はウミノを抱き寄せる。
ぎゅっと苦しくなるくらいに…
「どしたんですか…?」
+
+「あそこにいたウミノを見た時、離れていくかと思った」
普段見ないウミノを見たからだろうか
憧れを自覚していない斑目三席がいたからだろうか
誰にも渡したくない
自分で愛で育てたい
こんなこと気付いてないんだろうな…
ウミノと##NAME3##の視線が交わる。
どちらともなく口付ける。
浅く…
浅く…
深く
啄む
+ふと離れるウミノを引き戻す。
「何かあったんですか?」
「いや…何も」
「そうですか…」
「一緒に暮らせたらなぁ」
ぽつりと漏らす。
心の中でいったつもりが口に出ていた。
返らない言葉
「先のことは分からないですよ」
思慮深くなったと思う。
少し前までは顔を赤くして、ありがとうございますなんて言ってくれていたのに
+思慮深い…
いや多分本音だ
別に喧嘩した訳でもない
ただ最近やっと本音を出してくれるようになった。
抱き締める力が弱くなった。
顔を上げたウミノの口元を寄せる。
口付けは##NAME3##が初めてだと聞いた時、嬉しかった。
まだ身体を重ねたことはないけれど…
まどろみ始めたのか
身体に力が無くなってきた。
ウミノを抱き留め、布団を被せる。
「おやすみ」
どうしたら良いんだろうか
+
>>>
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