10



次は十番隊だ、と金柑は意気込んだ。中に通してもらうと、松本がのんびりお茶を啜っているのが目に入った。

「金柑?どしたのよ?」

書類配達の旨を伝えると、偉いわねぇと煎餅を頬張る。

説得力が妙にあるなぁ

金柑がウムと一人頷いていると、中身が確認できたと女性隊員が告げにきた。

次は一口羊羹の包みを開けた松本に一言告げ、金柑は隊舎を後にした。

「松本ォォ!!!!休憩を何時間取るつもりだぁぁっ」

しかし、すぐに日番谷の声と霊圧が金柑にまで伝わってきた。

キツいって…、うえ

日番谷の霊圧に溜息を吐き、足早に次の目的地十一番隊に向かった。


本来なら道場に向かった方が早いが、詰所から声が聞こえたため金柑は、素直に詰所に向かった。

「失礼します。七番隊、ウミノ金柑です。書類を配達しに参りました」

はいはい、と現れたのは綾瀬川だった。

「こんにちは、中身確認するから待っててね中入りなよ」

使い古された跡、傷跡がどこの隊よりも多いここがウミノは好きだ。

初めて入った瞬間そう思った。

そしてやたらと綺麗なのだ。

綾瀬川五席の力かな、と思うも綺麗に積み上げられている書類の量はおかしいよと、一人で突っ込んでいた。

「金柑さん?今なら更木隊長がいるからすぐ見てもらうよ その方が良いからね、隊長」

ウミノの反応を待たない綾瀬川に、こっちに返る書類があったのか、と肩を落とした。

「ねえねぇ、誰?」

金柑より低い位置から自分を呼ぶ声。

金柑が、振り返ると桃色の可愛らしい女の子がいた。

金柑の頭の中では、草鹿副隊長を拝むことが出来るなんて、とファンファーレが鳴り響いていた。

「草鹿副隊長。こんにちは七番隊ウミノ金柑です。本当は六番隊なんですけどね」

「ワンワン元気?」

ワンワン

金柑は、思わず笑ってしまった。

狛村隊長すみません、と心の中で謝罪。

「やちるだよ?」

「存じていますよ」

「違うよ。やちるって呼んでね」

「そういう訳にはいきませんっ!!」

「ダメだよっ!!やちるじゃなくちゃ」

可愛らしいが、上司だ。金柑は引かなかったが、草鹿も引かない。

「また、やちる副隊長では駄目ですか?」

書類を持って出て来た綾瀬川が言った。

金柑は、感謝しつつ、提案に目を剥いた。

「ゆみちんが言うなら仕方ないなァ。やちるって呼んでねっ」

「や、やちる副隊長?よろしくお願いいたします」

にぱぁっと嬉しそうに笑いながら、剣ちゃん聞いて聞いてと言いながら跳んでいった。

金柑は微笑みながら見送っていたようで、綾瀬川が声を掛けるまで気付かなかった。

「はい、これが返すやつね?鉄さんによろしく言っておいて」

書類を受け取り、金柑は重みに呻いた。

「またおいでね」

「ありがとうございます」

その時になってから、斑目の声が道場から聞こえることに気付いた。

金柑は、最後の十三番隊に向かった。

出てきた隊員に書類の確認をお願いすると、虎徹が出て来た。

浮竹隊長はお休みかな

「ウミノさんだったかな?」

「あっ!はい」

「確認終えたよ、ありがとうね」

金柑が出ようとすると、もう一人の三席と言い争いを始めた。

金柑は自隊に戻り、一息ついていた射場を捕まえて綾瀬川の言葉を言付けた。

「悪いんじゃがの、もう一度行って来てくれんかのう」

金柑は、何を言っているのかと思わず聞き返した。

「十一番隊じゃ、溜まっとる書類を回収してきて欲しいんじゃ」

はた、とさっき綾瀬川から受け取った書類を取り出す。

「これですか?」

「おぉっ、だがまだ足らんのじゃ…はぁ」

でかした、と笑ったが何枚か見ると、済まなさそうに書類を抱え直した。

行ってきます、と金柑は言うしかなかった。

「頼む、あと現世任務が十一番隊とあるんじゃ!一角か弓親だとは思うけぇ」

「はい」

金柑は射場の命令に、胃が痛んだ。

どっちでも緊張するよ、と。更に、それなら私行かなくても。

しかし、久しぶりの現世に楽しみだなと心が弾んだ。

金柑が、十一番隊に向かうと怪訝な顔をされた。

金柑は、射場からの伝言を伝え、渡された書類のリストを読み上げる。

すると隊員達の顔は、土気色に変わった。金柑は、思わず苦笑いを零した。

読み上げが終わる頃、何事かと奥から出てきた弓親に事情を話す。

書類を探さないとね、と笑顔で尤もな発言をした。

総出で探すと、リスト読み上げをした時の苦労がありありと感じられる。

そこで応接用のソファとを筆を借り、吸い取り紙をも借りた。

そして出来る書類を選り分けてもらい、金柑も手を動かした。

程なくして斑目が、詰所の戸を破壊しそうな音をさせ、戻ってきた。

何処にいたかを聞くなんて野暮であろう。

「あっちいな、弓親まで何やってんだ?ウミノか?」

「一角、今すぐ書類を書いて」

何言ってんだ、と言いたかったのだろうが、弓親に遮られた。

金柑は素晴らしい弓親さんの笑顔だ、と視線を逸らした。

一時間もすれば終わり、確認をしてまとめた。
最初から皆でやれば良いのになと金柑は思った。

「そういや、決めてなかったな出張任務」

「そうだね。二人でくじ?」

くじですか、と思わず口を挟んだ金柑。
弓親は嫌な顔をすることなく、 七番隊はウミノだろと言った。

金柑がオロオロしていることに気付いた斑目は、身体を伸ばす。

「何だよ 不満でもあんのか?」

良かった、と胸をなで下ろした金柑を見て、ニヤリと首を鳴らした。

二人はちり紙の先に色をつけて引くことになり、各々引く。

隊員からちり紙を抜き、手の平を出させ、不正はないかを確認させる始末。

そういう丁寧さを書類整理に出してくれれば良いのに、と金柑は思った。


「よっしゃァァ!!」

程なくして、斑目の歓声が響き渡った。

残念だよ、とちり紙を捨てた弓親。

斑目を尻目に、部下に書類を押し付けてもいた。

「一角の場合は、書類整理をせずに闘いが出来るからね。普段からやってないけどさ、一角を頼むよ」

「むしろ、私がよろしくお願いします」

金柑は、慌てて頭を下げた。
傷のついた床が視界を占めた。


「そうそう現世で買い物をしたいなら義骸、阿近さんにメンテナンスしてもらったら?」

弓親は、部下に指示を出す。一方の斑目は、踊り出していた。

「そうですね…」

弓親の言葉に、金柑は手を叩いた。

「というかこのメーカーのよろしくね」

「へ?」

渡されたメモにはいくつかの名前。

化粧品の名前に疎い金柑でもそれくらいは分かる。

「一角じゃ買いに行けないでしょ」

斑目が化粧品店をうろつく姿を想像したらしく、弓親は首を横に振った。

金柑は、分かりましたと言うしかなかった。

「お礼はするよ」

気になさらないで下さいと金柑が制すと、そう、とあまり気にしていない様子の弓親に金柑は苦笑いを浮かべた。

踊りきったのか、横でこそこそと部屋を出ようとする斑目に弓親が一声。

「一角まだ書類終わってないよ」

「すいません、やらせて頂きます」

すごすごと机に戻る斑目と、それに満足した弓親の二人に、金柑はよろしくお願いします、と頭を下げた。

それぞれの笑みに、不安と期待がないまぜになった。

それでも金柑は七番隊に戻り、射場に報告をした。

射場は三席の煎れた茶を啜り、それならと金柑を手招きした。

「ウミノ、一応義骸のメンテナンスをしてもらってきたらどうじゃ?」

まだ時間も余っちょるけぇ行ってこい、と金柑の意図を知ってか知らずか提案する。回収した書類に目を通しながら。

「良いんですか?」

「構わん、わしから椿に言っておくけぇの」

三席を顎で指し、書類に印を押していく。

ありがとうございます、と金柑は足早に七番隊を出た。


十二番隊に属している技術開発局。

別段な予定さえなければあまり行くことはない。

興味があっても、理由なく近付くのは危険だとも言われている。

「七番隊ウミノ金柑です」

―ぎょェェェェ
この呼び鈴、欲しいなぁ

金柑は、生き物を踏み潰したかのような声の呼び鈴を凝視した。

―ギィィィッ

重々しく開かれた扉の向こうには、窶れた局員がいた。

「何でしょうか?」

「義骸のメンテナンスをお願いしたいのですが」

光が眩しいのかしかめっつらの局員に金柑は、恐る恐る申し出た。

ところが、用件を聞くと表情を変えた。うふふ、とほくそ笑んだのだ。

「分かりました!中に入っていて下さい」

−ガッション

重厚な扉は閉まり、内側から自然に鍵がかけられた。

施錠って

金柑は、背筋が寒くなった。

暗がりにぽつぽつと明かりが浮かんでいる。

義骸のメンテナンスの受付台に促された。なんてことのない机だ。

「こちらの用紙に所属と名前をお願いしますね」

局員から紙を渡された金柑は、椅子に腰掛けた。

椅子も大したことはなかったが、据え付けの筆を取ると、ねちょりと筆の持ち手が柔らかかった。

金柑は、頭を抱えた。が、他にはないのでその筆で記入した。

別の用を済ませていた局員は、金柑から用紙を受け取った。

局員は、金柑が手を死魄装に擦りつけているのを確認すると、ニヤリと笑った。

満足だと言わんばかりの局員は、用紙片手に奥の部屋に行った。

−ギィィィッ
−ガチャン

音だけが、金柑の緊張感を煽る。

暫くして、ずりずりと金柑の義骸を持ってきた。

隊長格の義骸は、布に包まれていたりするが、金柑のはむき身だ。

「こちらですね。じゃぁメンテしますんで」

金柑の義骸に付いていた札を確認すると、手招きした。

自分に近付く姿はおかしなものだと思った。

「何か要望はあります?」

局員の指示に従って、義骸に入った金柑。

ぐるぐる腕を回しながら、どうしたものかと考えていた。

すると、体重を減らしてもらえよという聞き捨てならない声がした。

阿散井副隊長…

「なんてことを言うんですか」

振り向いた先には、阿散井がいた。それも違う扉の前にだ。

「冗談だよ、涅副隊長いるか?」

少々お待ちください、と局員は金柑はそのままに奥の廊下に小走りした。

「なんで義骸なんだよ」

「現世任務です。十一番隊の斑目三席と。綾瀬川五席に頼まれものがあってお使いをするための義骸です」

「ほぉー、珍しいな?」

ぼりぼりと頬をかき、阿散井は変哲のない椅子に腰掛けた。筆のことは知っていたようだ。

ですよね、とぼやくと阿散井は、よく会うなと頬杖をついた。

確かに

金柑が義骸の髪を撫で付けていると死魄装に白衣を纏い、奥から涅ネムが現われた。

実は、と二人が話し込みだしたので二人から金柑は離れた。

「痛いですか」

「そんなことないですよ」

腕を握る局員に、鈍いのは前からだ、と付け加えた。

「まぁ…どちらにしろ鈍いのは仕方ないですねェ。良いですか?」

「はい、ありがとうございます」

局員は、大仰に頷いた。

そして、金柑に義魂丸を飲むように指示を出す。ほのかに甘い。

「は〜い、義骸は出しておきますね」

義骸の札に記入し、抱えた。金柑の義骸の足が床に着いて、引きずられていた。

お願いします、と金柑は局員の背中に頭を下げた。

隊に戻ると、射場からも現世のお使いを頼まれる金柑だった。


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