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「最近、実戦多いな」
「仕方ないですよ」
「ウメ、向こうは三人だが」
「知ったこっちゃないわ」
「ウメ、番号教えて」
「金柑は何やってんのよ!」
向坂と柴岬は穿界門の前で、金柑たち三人を眺めている。
「ていうか、ウメ呼ぶな!」
「似合うぞ」
「そうだよ」
流行りのように緩く整えられた団子ではなく、きっちりと丸められた団子頭の女性隊員は、一人頭が抜きん出ていた。
茶色い髪で団子頭を結い、地団駄を踏むウメと呼ばれる彼女が梅師呂華子。
十三番隊の十三席で、柴岬を除く四人は同期である。
「ほら、行くぞ」
「金柑さんはこっち」
「斉ちゃん、早い!」
ぎりぎりと歯ぎしりをするウメを捨て置き、向坂と柴岬は金柑を連れて一足先に、断界に入った。
「六−七、向坂以下二名。無席、柴岬斉二とウミノ金柑。照合完了と」
空座町に降りた向坂は、技術開発局に報告をし、現在の虚の位置を確認。
金柑と柴岬は、屋根の上から歩く人々や町の様子を眺めた。
「寒いスね」
「本当。襟巻きだけじゃ足りないよ」
はい、お前ら黙ると向坂に怒られた二人は大人しく自分の伝霊神機に送られてきた情報を読み取ることにした。
「ウメ、どうする」
「少し待て」
三人より遅れて降り立ったウメとルキア。
向坂はウメに、配分、組み合わせなどを現状に照らし合わせて、任務の構成をし始めた。
「向坂が班長だからね」
そうだなと頷きながら、ルキアはチャッピーをぶら下げた伝霊神機を弄る。
「面子を変えずに解散。終わり次第、部屋へ帰還」
向坂は、金柑達を行くぞと促した。
ひんやりとした風が金柑の髪を撫で、袴をはためかせた。
年配の所謂、霊というものを魂葬し、金柑たち死神が来ることを見越した虚たちを昇華。
この時期は多いなぁ…
妻に未練を残す男の霊を説得し、魂葬をするために斬魄刀に手をかけた。
向坂は道端に佇む少女を、柴岬は屋根に座るヤンキーを説得中だ。
うーん、はぁ
一息だ
ービーッ、ビーッ!
金柑は袂に放り込んでいた伝霊神機を取り出し、アラーム音を消した。
「はい、ウミノです」
「…レ俺が借り出されてんだよ、研究終わってねぇってのに」
へ?
「あーこんさん?」
金柑は久しぶりに聞いた阿近の声に、気分が高揚した。
「悪ィな。そっちに出る。東に二体。北に一体。金柑、真上に二体だ」
阿近の声の後ろから聞こえる機械音が急に大きな音て鳴り響いた。
「分かりました。十三番隊側は?」
「あっちは五体だ」
合流は無しか
よし!
「分かりました」
「おぅ」
ブツリと切れたそれを懐に仕舞い、下にいる二人に叫んだ。
「北に一、東に二!」
「了解ー」
「分かりました!」
向坂は東に、柴岬は北に顔を向けた。
柴岬はジッと身構えた。
虚の匂いは微かに匂うが、まだ分からない。
−ギャァァァア!
柴岬が見回した時、目当てのそれは姿を現した。
「来たか」
柴岬は武者震いかのようにぞくぞくと沸き上がる何かを感じた。
「破道の四、白雷」
伸ばした右手の人差し指から放たれた鬼道は、虚の羽を穿った。
−ォォオォーン!
雄叫びをあげた虚は、柴岬の腕をもぎ取るべく鎌のような腕を振り抜いた。
っと!
以外と早ェな
図体の割に俊敏な動きをする虚に、柴岬は気を引き締め、刀に手をかけたた。
「欺け、朴念仁」
さわさわと冬の季節に似合わない風が吹き、シュルシュルと柴岬を囲むように吹きあがった。
ジャランと音をたてたのは、刀。
見た目は変わらず、ただ、風が刃の周りをさわさわと漂う。
痺れを切らした虚は、柴岬を狙った。
−ブォン!
鈍い音が柴岬の耳を掠り、嫌な汗が伝う。
「柴岬ー」
何処からか、向坂の呼び声。
声のする方には、昇華を終えたのか退屈そうに見ている上官。
「すぐ終わります」
柴岬は斬魄刀、朴念仁を構えた。
付随するものはなく、音をたてるものがない筈の斬魄刀からは、ジャランジャランと鎖が擦れるような音。
「風重」
かぜしげ?
向坂は、フムと首を傾げた。
やってるね、と向坂の隣に降り立ったのは、金柑。
嬉しそうに、手を胸の前で合わせている。
「あれね、無い筈の風の重さなんだってさ」
「風圧と変わらない気がする」
「そうそう、風圧。風圧は風速の何乗?」
「二乗だ。金柑の奢り」
「ぐ…。斉ちゃんのさじ加減でやれるんだ。物体の重さを道理に反して変えられる。だから、朴念仁」
道理が分からないって朴念仁か…
相性良いだろうな
押し潰した虚を仮面の上から斬りつけた柴岬は、ムッと不満そうに斬魄刀を納めた。
「どうしたの?」
「金柑さん達より遅いとか」
「気にしなくても」
「します。けど、ヘマはしませんから」
柴岬なりの焦ってはいないです、という表現に金柑は、へらりと笑った。
どーんと背中を小突けば、呆れられて。
金柑は、心地好い場所だなぁと寒空を蹴った。
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