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「一角さん、憧れと理想と理解ってどう思いますか?」
十一番隊の道場の横にある更衣室から出てきた金柑に、一角はなんだそりゃと言った。
随分と冷え込むようになってからは、弓親が更衣室に鍵をつけた。
金柑の私物、着替えを置いて構わないよ、と。
勿論、技局お手製の鍵で、合鍵は弓親が持っている。
「憧れ、理想、理解なぁ」
一角は、執務室で一服するかと提案した。
「俺にとって、憧れと理想は強くなることだろ。
けど、理想は更木隊長の元で果てることだ。
そうすっとだな、憧れは無ェ気がするな。
理解は、そうだな…。
金柑は、弓親の斬魄刀を知ってるか?」
結局奥の小さな座敷で火鉢に当たる二人。
一角は焼けたおかきを摘んだ。
金柑は、弓親の斬魄刀を知っていた。
偶然にも弓親が対話をしている時に呟いた名前が、金柑の知るものと違っていた。
それを尋ねたのだ。
そして、理由も聞いた。
「知ってるみたいだな。俺は『知らない』んだよ。けど、弓親が決めたことなら尊重してやりてぇ。
それが理解かどうかは分かんねェけどな」
ボリボリとおかきをかみ砕く一角。
金柑は、湯呑みを手で包んだ。
「私の憧れは一角さんです。だけど、どうしたってなれないのは分かっているんですよ。理想は…今のまま死神をして、皆と過ごす為にも力をつけること、ですね」
「理解は?」
「理解は…分からないです。憧れと理解はほど遠いって日番谷隊長が、藍染に言われたみたいで。多分、雛森副隊長かな、と」
で、と促す一角の影が色濃くなる。明かりが揺らいだ。
「私は、そりゃそうだと思いました。だから、理解って難しいんだろうなぁと」
ハハッと一角が笑った。
お茶を飲み干すと、だろうよと言った。
「分かんなくて良いと思うぜ。さきいか?向坂か?ソイツもそう思って竹井に言ったんだろうよ」
さきいかは無いと思ったが、一角は向坂と気が合うんじゃないかとも思った。
「お、弓親と恋次が飯食ってるらしいぜ、行くか」
震動した伝霊神機を見て、立ち上がった。
一角が戸締まりをしている隙に、金柑は洗い物を片付ける。
「寒いな」
「ですねぇ」
金柑は、一角との今の距離感が居心地好かった。
あんなに好きかもって思ってたのにさ
自分の気持ちの変化に呆れた。
それでも一角の隣で、笑えることは楽しいと思える金柑だった。
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