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驚いたことに、向坂はいつの間にか金柑の伝霊神機の番号を調べ、一日に一度は電子文を送ってきていた。


最初は当たり障りのない返事をしていた金柑だが、慣れてくると随分とあっけらかんな表情を電子文の中でも見せるようになった。


そんな時、金柑が六番隊に戻るようにと命が下された。



「お世話になりました」

鼻の奥がツンとし、目頭が熱いのを我慢する金柑に、浮竹をはじめとした十三番隊隊員は寂しさを実感した。


ルキアは、泣くなと肩を叩く。

揺らすと…
案の定、ポロリとこぼれ落ちた涙。

慌てて拭う金柑に、ルキアは手ぬぐいを差し出した。


何すんのぅと涙声を出す金柑に、浮竹は戸の向こうを指した。



探れば、仲の良い後輩が二人いる。


柴、竹…



金柑は皆に感謝を述べ、十三番隊を後にした。



浮竹のもとで過ごしたことでは、金柑にとって今までに感じたことのないある種の安心感を得ることが出来た。

それは、常にルキアが傍にいたこともあるが、何より浮竹の助言だった。

むやみに激励をすることのない浮竹は、微笑んでいた。



柴岬と竹井の二人とともに六番隊へ向かいながら、金柑は自分もそうなりたいと思った。



空を見上げれば、両隣の二人の存在が感じられた。


一人で見る空も
三人で見る空も
良いもんだね



金柑は自分の言葉に自嘲した。

気付いた柴岬にヘラヘラしないで下さいと言われるのが、六番隊に戻る証拠だ。


竹井がやたらと金柑に抱き着くのも、六番隊に戻ってきた証拠だ。





朽木には、精進するようにと言われた。

金柑は、自分を受け入れてくれた朽木に感謝し、はいと声高らかに返事をした。




そして、以前から話そうと思っていたことを朽木に切り出した。



「何だ」



「私が背負うのは、「皆と過ごしている時間と場所」です」



両手を合わせそうになるのを抑え、側体に指を伸ばす。

袴の縫い目に中指を滑らす。




「ならば、精進することだ」


浮竹のように微笑むことのない朽木だが、金柑は朽木の優しさに頬が緩む。





そのためか、隊首室を出た金柑に阿散井が、怪訝な顔をして書類を押し付けた。

戻って早々…
さて、やろうか



「え、吉良くんが教えたの?」


くしゃりと歪んだのは、竹井が丁寧に清書した書類だ。

やば…
竹、頑張って…


金柑は阿散井に用事のあった吉良を相手に、竹を手招きした。


「あぁ、向坂くんが金柑くんから了承を得たっていうからさ」


「向坂め!」


ごめんねと謝罪する吉良に、問題ないからと金柑は笑った。


呼ばれた竹井は、金柑の手中でくしゃくしゃになった書類に声にならない悲鳴をあげた。



用を終えた吉良を見送ると、金柑は竹井の恨めしそうな視線から逃れる。




「金柑さぁん…」

がしりと掴まれた肩をやんわりと解き、金柑は餡蜜で、と竹井に提案した。


「仕方ないですね、餡蜜で」

「安いやつだな」


「しー!柴っ」



阿散井は、三人のやり取りを微笑ましく見ていた。




「昼飯、行くぞ」


久しぶりに阿散井に誘われた金柑は、竹井と柴岬を連れて着いていった。



最近抱き着き癖が酷いんじゃ

例の件以来、竹井は事あるごとに金柑に抱き着くようになった。

今でさえも、柴岬が剥がそうと躍起になっている。



「竹井、最近金柑に抱き着いてばっかじゃねぇか?」

阿散井も同じように考えていた。



「ですよね」

「だから、やめろって」

柴岬が竹井を引きずった。



金柑さんが良いとか抜かすなんざ
柴岬がギロリと睨めば、竹井は大人しく引きずられた。



「一角さん、一人すか」


はた、と一角を見つけた阿散井は良いスかと席を指した。



金柑を含んだ三人も席に着いた。


「おい、金柑今度来いよ」

「行きます。けど、この前みたいに、うっかりとかで更木隊長とやらせないで下さいよ」

「あれは、弓親じゃねぇか」

「一角さんですっ」


饂飩の油揚げをはふはふと頬張る金柑は、もぅと呟いた。



「今度は更木隊長かよ…」

話に聞いてはいたが…
阿散井は、二人の話に呆れ返った。


「やるのは良いスけど、やり過ぎないで下さいよ」


分かってる、と手をひらひらさせる一角に本当かよと不安になった。



「竹井、面倒い」

柴岬がブツブツと呪詛のように呟く竹井を見ることなく、放った。



何だよと一角は、竹井に尋ねた。




「聞いて下さい!最近、向坂さんが金柑さんにやたらと構うんです」

「お前もだろうが」


「副隊長!だって、毎日電子文してるみたいだし…」


「金柑さんからしてる訳じゃないだろう。それに、構ってってやってるのは、竹井もだ」

柴岬は、ジロリと竹井を見た。

う、と縮こまる竹井に三人は力関係を確信した。



向坂って、確か…

「ほら、この前の」
阿散井は、梅干しを金柑に投げやった。



「あー、あいつな」

一角は、あまり良い気持ちがしなかった。

向坂、か


考え込む一角に阿散井は、おやっと思った。

一方の金柑は、一角に差し出された天麩羅を饂飩の汁に浸していた。





別に金柑が向坂と仲が良いから
どうだってんだ

くだらねぇ




一角は丼に残っている南瓜の天麩羅を頬張った。


やっぱり、茄子をやるんじゃなかった



目の前で金柑に咀嚼された茄子を、後悔した。



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