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時は放課後、風子は柳と二人廊下にいた。テニス部は休みで、真田と帰ろうとA組に来たのだ。

「入らないのか」

柳は、風子の肩を叩いた。自分より遥かに低い位置の肩に、叩くと言うよりは置いたと言う方が正しい。

「だって、話してる」
「そうだな」

教室内で話しているのは、男子バレー部部長の竹田と女子バレー部部長の納屋、そしてテニス部副部長の真田。

それだけなら良かったが、吹田エリカの姿もある。

(風子が入っていけないのは当たり前か)

柳は柳生と話そうか、と風子の背中を押した。

自分の教室とは違う匂いに肩を縮こまらせ、驚いた様子の柳生のところへと足早に向かった。

「そうでしたか。それなら、どうぞ」

理由を知った柳生は、二人に椅子を提供し、鞄から小さな箱を取り出した。

「トランプ?」

「えぇ」

箱を揺らすとカッサガッサという音。

「柳生くんもそういうの持ち歩くんだね」

「いや、仁王のだろう。柳生が持ち歩くならウノではないのか」

「今日の朝に取り上げたものですよ。ウノにしますか?」

けろりと答える目の前の優等生に、風子は吹き出した。

「柳生くんて真面目だと思ってたよ」

「風子さん、私も遊びたい時はあります」

くすりと笑う柳生に柳は、要領が良いのさと付け加えた。


三人がウノに興じること三十分。仁王のトランプは机に放置されたまま、本人の与り知らぬところで勝ち抜け景品となっていた。

「ウノです」

「やはり柳生はやり甲斐があるな。ならば、スキップ」

「柳くん、ひどい!と言いながら、私もスキーップ」

最後の一枚を手に柳生は、固まった。足をぱたぱたさせて、柳の出すカードに重ねる風子。

佳境に差し掛かったところで、竹田が叫んだ。

(何かな)

風子が振り向くと二人も倣うように声のした方を見た。

「うわ、俺、知らなかったんだけど!うわぁ、ショック」

「うるさい」

「それ程、驚かんでもよかろう」

不機嫌に渋る言葉を発したのは、真田だった。

バレー部部長の竹田は、柳生たちを見ると体を乗り出した。その拍子にプリントが机から落ちた。

納屋は、持っていたペンケースでばしりと竹田の背中を叩いた。

「柳生、真田に彼女いるってさ、本当?」

風子は、すぐにも消えてしまいたい、逃げたいという衝動に駆られた。

それは叶わず、どくどくと波打つ心臓を抑える方法を模索しながら、耳を大きくした。

指名された柳生は困ったように微笑み、いますよと答えた。

反射的に肩が揺れた風子。真田は、何とも言えない気持ちになった。

(何だろうか、この気持ちは)

「ゆーかーりは知ってんのか」

「相手は知らないけど、F組じゃない?出入り激しいらしいから」

納屋は、にまにまと真田の様子を舐めるように見回す。

(吹田さんの顔、見られない
真田くんの顔も)

吹田が何をいうのか、真田がどう答えるのか風子は、気が気ではなかった。

その時、ガタンと音。

風子は、そろりと顔を上げた。

「風子、帰るぞ」

「え、うん?」

ばらけた手札を纏め、柳生に手渡していると、柳が大仰に帰るかと同調した。

竹田は、もしかしてと目を丸くし、面白いものを見つけたかの如く真田の腕を掴んだ。

「何だ?」

「もしかして、あの子が真田の彼女か」

風子は、言って欲しいと思う気持ちと言って欲しくないという気持ちがないまぜになっていた。

外で吹きすさぶ風が、窓を揺らした。

「そうだ。何だ、答えただろう」

ぽかんと口を開けたままで返答をしない竹田、してやったり顔の納屋。

真田は、フンと鼻息荒くプリントをファイルに仕舞う。

「ねぇ、真田くんは彼女とどうして付き合ったの?馴れ初め、教えてよ」

ここにきて、今まで口を挟まなかった吹田が口を開いた。

風子は、下駄箱にいるねと、教室を飛び出した。

逃げた。

擦れ違った大崎に呼び止められたのも気付かず、残っていた生徒の間をすり抜けた。

ノリウムの床を、キュッと鳴らしながら。

反射する音は、周りの声だけで、床が擦れる音は掻き消された。


昇降口



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