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「む、風子は社会が得意なのか?」
「たまたまだよ。本当は英語の方が自信あったのに」
テスト上位者総合五十名の掲示板の前で、柳と柳生が話し込んでいる。風子と真田は各教科が二十名の掲示板の社会科の前にいた。
総合1位、柳生比呂士(A)
総合2位、吹田エリカ(A)
総合3位、柳蓮二(F)
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総合11位、真下栄太(C)
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総合19位、佐倉嘉乃(D)
総合20位、真田弦一郎(A)
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総合32位、海老河悠矢(D)
トップの三人は健在で、真田は順位を上げていた。風子自身の順位は社会科が上位点とは言え、総合的には半分より上を漂っているのが常だ。
乃里子は丸井に負けたらしく、先に配られた個人用成績を睨んでいる。
「ま、天才的だしぃ」
「なによ、数学はボロボロじゃないの」
「いや、お前の社会には負けるぜぃ」
「風子〜」
声は弱々しい乃里子だが、丸井に向ける眼差しには負けず嫌いな性格が映し出されていた。
真田は幸村の名前をついぞと探していた。しかし、隣に書かれた欠試験名簿に幸村精市の名前があることに気付いた。
(そうだったな…たるんどる!癖とは恐ろしい)
幸村とよく張り合っているテストを、初めて一人で受けたと言える。真田は、物足りないと感じていた。
「真田くん?」
「吹田か。どうした?」
隣にいた筈の風子はおらず、代わりに吹田が立っていた。
さりげなく風子を探せば、丸井と乃里子の板挟みだ。
「調子が良いみたいね。前より、上がってるわ」
「あぁ。だが、吹田は相変わらず熱心だな」
「いつも柳くんと柳生くんには悩まされているのに」
フフッと笑った吹田の仕種に、風子だったら、と考えた。
(もっと、何と言うべきか、うむ…)
「ねぇ、もうすぐ冬休みよね。部活の予定は?」
吹田に言われて、テストを過ぎればあっという間に冬休みはやって来るな、と真田。
(大晦日、正月、早いものだな)
「恐らく、部活三昧だろうな」
「そう、私たちも。やっぱり大変だけど、やり甲斐はあるわ」
真田は、吹田の指に巻かれたテーピングに気付いた。真田の視線に気付いた吹田は、これね、と苦笑した。
「癖になってるの。これをしてないと落ち着かないのよ」
「そうか」
柳は吹田が真田に話しかけると、柳生と共に丸井たちと合流した。
平均点がどうだったと話す丸井に、精市に報告せねばなと軽いお灸。
そして出来ることなら気付くな、と真田たちが風子の視界に入らないように立ち位置を移動した。
「比呂士、フォロー頼むぜぃ」
「それはジャッカルの仕事ですよ」
「柳生くん、私のフォローしてね」
「風子さんでしたら、構いませんよ」
紳士かよぃとふて腐れ、新しいガムを口に入れた。
「てか、ジャッカルとか真田は?仁王はあそこ」
柳生の仁王は何処にという意味を含んだ視線に、たじたじになりながら丸井は友人を売った。
仁王は、少々手を抜いたらしい。
「真田くんはあそこだよ」
(それは)
柳は、ハッとした。風子は柳を回り込み、行こうよと丸井のブレザーを引っ張った。
「お、吹田じゃーん!俺的には、佐倉がタイプだけど」
左手をこめかみに翳し、的の外れたことを宣わる丸井。風子の耳には、入って来なかった。
(あ、吹田さん)
「喋ってるみたいだ、ね。ん、真田くんは総合20位だったよ」
早口になるのを抑え切れず、風子は丸井の掴んでいたブレザーを引っ張った。
「ん?そうかぁ」
相変わらずだなとガムを膨らまし、先に戻るわと丸井は輪から外れた。
どんよりとした空気を背負う丸井を元気づけるほどの余力が、風子にはなかった。
(お似合い、だなぁ)
風子は、意味もなくワンピースの裾を引っ張った。それは、小さな抵抗とサインだった。
ブレザーのサイン
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