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「美味しかったな」
「あぁ、薄味だったのも良いな」
「二人ともおっさんくさいよ」
幸村が笑うと通りすがった帰宅途中のサラリーマンが、ギロリと三人を睨んだ。
そんなことは露知らず、三人は他のメンバーを散らせないように各々捕まえた。
「さ、帰ろうか」
幸村に従い、丸井と赤也が先頭を切る。その後ろに仁王と柳生が、柳と着く。ジャッカルは栗田にせがまれて鞄から、手袋を出してやっていた。
(どうにかならんのか)
目を離せば散りそうになるメンバーを見て、真田は幸村もか、と溜め息。
真田は、隣にいるであろう幸村を呼んだ。
「幸村?幸む、ら」
「弦一郎?」
真田の異変に気付いた柳は、柳生と仁王に赤也たちを呼び戻すように指示を出した。
幸村は、倒れていた。何の前兆もないままに。
「蓮二、救急車を呼べ」
「あぁ」
柳は冷静に対応する真田に感謝し、携帯を取り出した。真田は冷静な自分に驚いたが、震える指に気付いた。
うっすらと汗をかき、白い肌がより一層青白い。ひやりと冷たい幸村の指に、真田の心臓は嫌な音を立てた。
救急車に乗り込んだのは、真田と柳生だった。
真っ白な病室に横たわる幸村。誰もが、目を疑った。
「今日は帰ろう」
合流組を率いていた柳が、赤也の頭を撫でて促した。
丸井は、そんな赤也のテニスバックを拾いあげた。
帰り道、真田は柳に呟いた。どうすべきか、と。
「病気は俺達ではどうにも出来ない。だが、精市がいつ戻ってきても良いようにしなくてはならないだろう」
「そうだな。皆、驚くだろうな」
(人望のある幸村だ…)
真田は、常として友人に囲まれる幸村をずっと見てきた。
そして、良くも悪くも教師にも信頼されている。
眩しく感じる幸村を、真田はずっと見てきた。隣を、前を、後ろを歩いてきたのだ。
「冷えるな」
閉じた傘を左手に持ち替え、柳のマフラーに気付き、してくるべきだったかと思った。
夜道を歩き、風子のマンションを過ぎる。
いくらか行くと、見慣れた門灯。真田は、母親にどう話そうかと悩み、戸に手をかけた。
台所から香る匂いは、真田の好きなハンバーグだった。
救急車
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