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真田家の場合−
◆母の場合
最近、弦一郎が優しく笑うようになったのよ。理由は、誰か良い子でも見つかったのかしらと思うの。
だけど、稽古には力を入れているようだし、流石おじいちゃんの孫だわ、と思うわ。
「あら、珍しいわね。弦一郎が、居間で携帯を触るなんて」
「あ、いや幸村から連絡があると言うので」
「そう。はい、おじいちゃんが手塚さんから戴いた羊羹よ」
「む、手塚は」
「来ていませんよ。おじいちゃんも弦一郎も二人して手塚さんが好きなのね」
そうね、好敵手だものね
そう言うと、嬉しそうに笑う弦一郎は、おじいちゃんにそっくり。
お父さんに似ているところは、シャイなところぐらいかしら。
「母さん?」
「何でもないわ」
珍しい着信音ね。あら…、弦一郎にも春が来たのかしら。んふふ。
「弦一郎、携帯新しくしましょうか」
「…大丈夫です」
◆祖父、弦右衛門の場合
「弦一郎、手塚の羊羹は食したか?」
「今からです」
最近、猫太郎から連絡が来るようになった。どうやら福井から戻ってきたらしいのう。
「弦一郎よ、この住所はこの辺りで良いのだろう」
自分の家の周りは分かるが、少し離れるとパアじゃ。
「そうです。御友人ですか」
「あぁ、手塚とも馴染みじゃ。今度、会わせてやろう」
さて、弦一郎は面白みに欠けると思っておったのだが、最近はそうでもないらしい。良いことなのだろうな。
◆父の場合
「ただいま、遅くなったよ」
出迎えてくれるのは、母さん。弦一郎は宿題かな。
「弦一郎なら居間ですよ。手塚さんの羊羹を食べてますから」
「おや、そうか」
「弦一郎ったら、携帯を新しくしましょうかって言ったら、大丈夫ですって」
「何かあったのかい」
「女の子とメールしているみたい、多分ね」
「女の子ねぇ…女の子?」
あの弦一郎が女の子とメール?少し前の孝一郎じゃあるまいし。
「本当に?」
「あの子ったら貴方に似て、照れ屋さんだから。多分ね」
聡いところは孝一郎が似たのだろうか。
「おじいちゃんも何か気付いているようですしね」
「そうかぁ。楽しみだね」
くすくす笑う母さんは、弦一郎の変化が嬉しいんだろうね。
「ただいま、おじいさん、弦一郎」
「お帰りなさい」
「うむっ」
◆兄、孝一郎の場合
「紋子、佐助は?」
「多分、弦一郎くんのところじゃないかしら」
佐助は弦一郎に懐いていて、正直なところ自分と一回り以上離れている兄の子なんぞと言うのかも心配をしていたが、問題はないらしい。
「見てくるよ」
母屋の居間に行くと、皆が勢揃いしていた。佐助は弦一郎の側で寝ていた
涎を垂らして。
「弦、悪かったな」
「む、構わないですよ」
おや、この羊羹は手塚さんところのかな。少し貰っていこう。
切り分けた羊羹を幾つか小皿に分けてもらっている間に、弦一郎が珍しく携帯を触っていることに気付いた。
「幸村か?」
「…、まぁ」
まぁ、と言った、あの弦一郎が。落ち着かない様子で俺の懐かしい携帯を触る弦一郎。面白い!
「孝一郎、余分なこと言ったら駄目よ、うふふ」
母さんも楽しそうじゃないか。真剣な顔で携帯を睨んでいる、見てるって感じじゃないんだよ。
そんな弦一郎を見るのは初めてか。いや、佐助が産まれた時もあんな感じだったな。
「先に休むよ。じいちゃん、その羊羹は弦のだろ」
「流石、孝一郎だ」
父さんまでニヤニヤしてる。弟に春が来たのかねぇ。紋子に聞いてみようか。
家族の場合
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