44



「練習試合?」

「あぁ、良かったら来るといい」

風子は、何処にと尋ねた。真田から練習試合を誘われたのは始めてだった。

「ただ、東京なのだが」

真田は申し訳なさそうに言ったが、風子からすればさして問題はなかった。
東京なら静岡に比べたら近いのだから、そう真田に言うとそうかとだけ返ってきた。

風子は、最近になって気付いた。真田が前より、優しく微笑むことに。

「弦一郎も人の子だな」

「真田、顔が緩んでる」

「精市も緩み過ぎだ」

「そんな俺は神の子」

両隣からの言葉に、真田は、ぐっと詰まった。

「風子先輩、来るんですか!」

どんと後ろから抱き着いてきたのは、赤也だ。

「行こうかなぁ。赤也くんは出るの?」

「当たり前っスよ」

にひひっと笑った赤也は、柳生に引きはがされた。

「良ければ、一緒に行く?それなら、俺達と待ち合わせしようか」

幸村が、真田を押しのけた。

「幸村くんたちが良ければ」

「決定ね」

時間と場所を約束し、風子と真田は幸村たちと別れた。

「風子は、青春学園を知っているか」

「うん、知ってるよ。そこでやるの?」

「あぁ」

風子の頬に二度目に触れて以来、真田は気になることが増えた。

けれど、そのせいでテニスを疎かにすることはなかった。幸村と柳は気付いたらしく、凄いなと口を揃えた。

「いつ、赤也と呼ぶようになった」

「最近かな、そっちの方がいいって言われて」

「そうか。佐古木は双子だからか」

「うん、皆そうだよ。今日は、質問ばっかりだね」

珍しい真田の様子に風子は、どうしたのと笑った。

「いや…どうという訳ではないのだが」

「今日もありがとう」

「また明日」

うん、と手を振る風子を見送り真田は、大きな溜め息を吐いた。

日が落ちる時間が早くなった。既に暗い空の下を一人歩く。

真田は、思った。自分が思うより、風子のことを思っているのではないかと。

それを誰かに言うのは、躊躇われた。自分の誤解で始まった関係だからか、疚しい気持ちになるからだ。

風子は気付いているのだろうか、俺の気持ちにと真田は、考えた。

思えば、名字で呼ばれることも気になっており、
やはり相談すべきかと思った。

門灯が道を照らしている。祖父が書いた真田の表札が目に入った。

(気が緩んでいるのだろうか)

真田は、自分の様子に怪訝な表情をする母親に気付かなかった。


誘う


prev//next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -