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「練習試合?」
「あぁ、良かったら来るといい」
風子は、何処にと尋ねた。真田から練習試合を誘われたのは始めてだった。
「ただ、東京なのだが」
真田は申し訳なさそうに言ったが、風子からすればさして問題はなかった。
東京なら静岡に比べたら近いのだから、そう真田に言うとそうかとだけ返ってきた。
風子は、最近になって気付いた。真田が前より、優しく微笑むことに。
「弦一郎も人の子だな」
「真田、顔が緩んでる」
「精市も緩み過ぎだ」
「そんな俺は神の子」
両隣からの言葉に、真田は、ぐっと詰まった。
「風子先輩、来るんですか!」
どんと後ろから抱き着いてきたのは、赤也だ。
「行こうかなぁ。赤也くんは出るの?」
「当たり前っスよ」
にひひっと笑った赤也は、柳生に引きはがされた。
「良ければ、一緒に行く?それなら、俺達と待ち合わせしようか」
幸村が、真田を押しのけた。
「幸村くんたちが良ければ」
「決定ね」
時間と場所を約束し、風子と真田は幸村たちと別れた。
「風子は、青春学園を知っているか」
「うん、知ってるよ。そこでやるの?」
「あぁ」
風子の頬に二度目に触れて以来、真田は気になることが増えた。
けれど、そのせいでテニスを疎かにすることはなかった。幸村と柳は気付いたらしく、凄いなと口を揃えた。
「いつ、赤也と呼ぶようになった」
「最近かな、そっちの方がいいって言われて」
「そうか。佐古木は双子だからか」
「うん、皆そうだよ。今日は、質問ばっかりだね」
珍しい真田の様子に風子は、どうしたのと笑った。
「いや…どうという訳ではないのだが」
「今日もありがとう」
「また明日」
うん、と手を振る風子を見送り真田は、大きな溜め息を吐いた。
日が落ちる時間が早くなった。既に暗い空の下を一人歩く。
真田は、思った。自分が思うより、風子のことを思っているのではないかと。
それを誰かに言うのは、躊躇われた。自分の誤解で始まった関係だからか、疚しい気持ちになるからだ。
風子は気付いているのだろうか、俺の気持ちにと真田は、考えた。
思えば、名字で呼ばれることも気になっており、
やはり相談すべきかと思った。
門灯が道を照らしている。祖父が書いた真田の表札が目に入った。
(気が緩んでいるのだろうか)
真田は、自分の様子に怪訝な表情をする母親に気付かなかった。
誘う
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