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「本当に付き合ってんの?」
掃除の時間、遥は昼の風子と真田について柳に聞いた。柳はから拭き雑巾を綺麗に畳むと、あぁと答えた。
「普通さ、付き合ってたらもっと、こうさ…甘い空気になるんじゃないかな?」
「あの二人は、あれで良い。それに風子にデレる弦一郎など見たくない」
柳は雑巾を片付けようと掃除道具入れの扉を引いたが、引っ掛かっているのか開かない。
「そうだけどさぁ」
「ん、どちらにせよだ、遥の入る隙はない。風子は弦一郎しか見てないからな」
事もなげに言うと、ガコンと軽く蹴った。凹ませない辺り、流石柳だと二人の後ろにいた乃里子は思った。
「入る隙って…え」
「バレてんの?とお前は言う。当たり前だ。気付いていないのは、風子ぐらいだろう」
ここで柳が、どうだと言わんばかりの顔をすれば良いのだが、何せ柳だ。平然としている。遥は、柳は敵に回しちゃいけねぇやと確信した。
海原祭を終えて、遥はサッカー部に、弥生は吹奏楽部に入った。
「大崎、ハードだなぁ」
「そのわりには、余裕そうじゃねぇか」
「天才?」
「はいはい」
軽口を叩き合い、大崎は遥に帰る前にすべきことを教えた。
「今日の鍵当番は俺な。で、この部室棟のエントランスのあそこにしまう」
大崎は備え付けのボックスに、サッカーボールの着いた鍵を入れた。
「どこも一緒だねぇ。帰りはやっぱり集まっちゃうもんだなぁ」
校門前、部活終わりの生徒の多さに遥は、けらけら笑った。
「まぁな」
「風子ちゃん、こっちだよ」
聞き慣れない声が風子を呼んだ。遥が辺りを見回すと、見慣れたポニーテールの女子が大柄な男子の元へ走っていく。
「あ、大崎っ、遥くん!ばいばーい」
チリンチリンとキーホルダーが鳴る。
「おおー」
「ばいばぁい…」
その集団には、柳もいた。テニス部だと分かると、遥はあからさまに溜め息を吐いた。
「失恋だ…」
がくりと項垂れる遥の肩を叩いて、大崎は慰めた。
「仁王くん、教科書」
「ん、ありがとさん」
「む、忘れたのかっ!」
「喧しいのぉ」
「仁王、忘れ物などたるんどるっ!風子も、甘やかすでないっ!」
「分かった、分かった」
「気をつけるね」
真田は、風子がふふっと笑っていることに気付いた。
何だ、と尋ねると風子は、鞄をかけ直した。
「久しぶりの、たるんどるだから、嬉しいなぁって。えへへっ」
仁王をからかっていた丸井は、耳を疑った。
(あの、真田の説教を嬉しいだと…
分かんねぇなぁ)
「ブンちゃん、あれは奇跡ナリ」
「言えてるぜぃ」
「真田、こんなこと言ってくれるのは風子ちゃんだけだよ。俺でさえ、真田の説教は遠慮したいのにさ」
幸村は、あぁあと手を振った。真田は、幸村の様子に慣れているらしく、どうとは言わなかった。というより、風子が笑っていることで頭がいっぱいだった。
早々に失恋
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