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「あのさ、風子ちゃんて好きなやついる?」

遥が思いもよらぬことを風子に尋ねた。けれど、周囲は遥の風子に対する気持ちに気付いている。柳に至っては、今の状況すら読めていた。

「遥くん、いきなりどうしたの?」

海原祭前から真田や柳生たちは、昼に風子のクラスに来ることが出来なかった。

だから、遥は知らなかった。風子と真田の関係に。更に、海原祭準備に追われて、そんな話が遥に入る訳がない。

風子はと言えば、取り出した弁当の包みを開いて、苦笑した。

柳は悲壮な顔をした大崎に、大丈夫だろうと言った。

「好きな人、いるよー」

「え、誰?」

大崎は思った。こんな時に、真田が来たら修羅場ではないだろうかと。

「む、風子はいるか?」

「うわーっ!」

「プリッ」

頭を抱える大崎に柳は、仁王だと肩を叩く。風子は、そっくりだねぇと拍手。苦労性じゃねぇか、と一人項垂れた。

「理科の教科書、貸してくれんかの」

「どーぞ」

理科の教科書を受け取ると仁王は、柳に意味ありげな視線を送った。

「問題ないさ」

「そうけ、じゃ」

肩とぷらぷら跳ねる尻尾を揺らして、仁王は自分の教室に戻った。

「で、誰?」

「ん、真田くんだよ」

んふふ、と口に手を当てて照れる風子。柳が面白いと言うと、乃里子は馬鹿、と睨んだ。

「あ…そうなんだ」

「真田くんは凄いんだよ!テニスが上手で強いの。それに副部長になったんだよ。あとね、風紀委員だし…怖いけど、優しいんだ」

遥に真田のことを話す風子は、きらきらと頬を赤く、心底、嬉しそうに楽しそうで。

「弦一郎、入らないのか」

柳は、廊下側の窓越しに立ち尽くす友人を促した。隣で柳生が、凄いですねと感嘆。

「告白したの?」

遥と風子は背を向けている。だから、真田と柳生が来ていることに気付かない。

柳は、シッと人差し指を口に当てた。乃里子は、やってらんないと弥生と話し出した。

「したよ」

「え、マジで」

風子は、恥ずかしそうに俯いた。

「付き、合ってるの?」

遥は、有名な部類に入る真田の顔を知っている。

(恋だの興味なさそうなんだけど…まさか、ね)

「一応、付き合ってるよ」

えへへと笑う風子に遥は、うそだと項垂れた。

(確かに真田、のことは知らないけど…
ていうか、付き合ってんなら入る隙無いじゃん!)

驚愕する遥に弥生が後ろを指差した。

「う、わ…悪い」

遥は、固まった。後ろの窓に、真田と柳生がいた。

「気にしてなどいない。風子、入っても良いか?」

「どーぞ」

遥は、真田と風子が向き合って座る光景を初めて見た。最初は信じられなかった。

(けど、こうやって見ると案外似合ってんじゃん
ちぇっ…!)

風子が楽しそうに真田と話す姿を見ていると、風子には真田しか見えていないのが分かる。

「風子、今日はどうするのだ?」

「図書室に行くよ」

「ならば、いつも通りだな。幸村が風子と帰りたがっていたのだ」

「何で?あ、乃里ちゃん、どうぞ」

真田と話しながら、乃里子に卵焼きを差し出す風子。

「分からん」

遥は認めかけた二人の関係を、否定した。


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