41
「あのさ、風子ちゃんて好きなやついる?」
遥が思いもよらぬことを風子に尋ねた。けれど、周囲は遥の風子に対する気持ちに気付いている。柳に至っては、今の状況すら読めていた。
「遥くん、いきなりどうしたの?」
海原祭前から真田や柳生たちは、昼に風子のクラスに来ることが出来なかった。
だから、遥は知らなかった。風子と真田の関係に。更に、海原祭準備に追われて、そんな話が遥に入る訳がない。
風子はと言えば、取り出した弁当の包みを開いて、苦笑した。
柳は悲壮な顔をした大崎に、大丈夫だろうと言った。
「好きな人、いるよー」
「え、誰?」
大崎は思った。こんな時に、真田が来たら修羅場ではないだろうかと。
「む、風子はいるか?」
「うわーっ!」
「プリッ」
頭を抱える大崎に柳は、仁王だと肩を叩く。風子は、そっくりだねぇと拍手。苦労性じゃねぇか、と一人項垂れた。
「理科の教科書、貸してくれんかの」
「どーぞ」
理科の教科書を受け取ると仁王は、柳に意味ありげな視線を送った。
「問題ないさ」
「そうけ、じゃ」
肩とぷらぷら跳ねる尻尾を揺らして、仁王は自分の教室に戻った。
「で、誰?」
「ん、真田くんだよ」
んふふ、と口に手を当てて照れる風子。柳が面白いと言うと、乃里子は馬鹿、と睨んだ。
「あ…そうなんだ」
「真田くんは凄いんだよ!テニスが上手で強いの。それに副部長になったんだよ。あとね、風紀委員だし…怖いけど、優しいんだ」
遥に真田のことを話す風子は、きらきらと頬を赤く、心底、嬉しそうに楽しそうで。
「弦一郎、入らないのか」
柳は、廊下側の窓越しに立ち尽くす友人を促した。隣で柳生が、凄いですねと感嘆。
「告白したの?」
遥と風子は背を向けている。だから、真田と柳生が来ていることに気付かない。
柳は、シッと人差し指を口に当てた。乃里子は、やってらんないと弥生と話し出した。
「したよ」
「え、マジで」
風子は、恥ずかしそうに俯いた。
「付き、合ってるの?」
遥は、有名な部類に入る真田の顔を知っている。
(恋だの興味なさそうなんだけど…まさか、ね)
「一応、付き合ってるよ」
えへへと笑う風子に遥は、うそだと項垂れた。
(確かに真田、のことは知らないけど…
ていうか、付き合ってんなら入る隙無いじゃん!)
驚愕する遥に弥生が後ろを指差した。
「う、わ…悪い」
遥は、固まった。後ろの窓に、真田と柳生がいた。
「気にしてなどいない。風子、入っても良いか?」
「どーぞ」
遥は、真田と風子が向き合って座る光景を初めて見た。最初は信じられなかった。
(けど、こうやって見ると案外似合ってんじゃん
ちぇっ…!)
風子が楽しそうに真田と話す姿を見ていると、風子には真田しか見えていないのが分かる。
「風子、今日はどうするのだ?」
「図書室に行くよ」
「ならば、いつも通りだな。幸村が風子と帰りたがっていたのだ」
「何で?あ、乃里ちゃん、どうぞ」
真田と話しながら、乃里子に卵焼きを差し出す風子。
「分からん」
遥は認めかけた二人の関係を、否定した。
似合う
似合わない
prev//next