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(準決勝の相手は大阪か
何処だろうと、真っ向勝負だ!)
真田は、張り出されたトーナメント表を前に意気込んだ。隣で柳は、ノート片手に携帯を弄っている。
「蓮二、すまないな」
「いや、こういうことは嫌いじゃないさ」
柳は顔を上げ、ノートと携帯を閉じた。
真田は、柳に風子への試合の結果報告を頼んでいた。自分で送ることが気恥ずかしく躊躇われていた時、それに気付いた柳が、やろうと申し出てくれたのだ。
(気合いを入れてかからねばならんっ!)
柳はトーナメント表を睨みつける真田に、携帯を差し出した。白色の携帯を、真田は見つめた。
「一言くらいどうだ」
「そうだな」
柳に頼んでも良いと思った真田だったが、やはり自分の言葉は自分でと思い、慣れない柳の携帯を操作した。
「珍しいな、真田が携帯を弄るなんてよ」
叩かれた肩に振り向くと、三年レギュラーの日向が錦といた。
「もう終わりました。蓮二、ありがとう」
あぁ、と頷き柳はメールを送信した。送信完了が確認出来ると、携帯をポケットにしまう。
「次のオーダー発表するぞ。S3が西島、D2は真田と柳。S2は日向だ。そして、D1は俺と小塚。で、S1が幸村」
錦はオーダーを読み上げると、いいかお前ら、とレギュラーを見回した。
「王者立海、負ける訳にはいかねぇ!一度じゃねぇ、連覇してこそ王者だ!」
錦は少し表情を緩め、テニスバッグを担いだ。
「会場に行くぞ」
試合会場の緊張した空気が、真田の気持ちを高ぶらせた。それは、幸村や柳も同じだ。
「お前らは来年の為にも、存分に勝ちを掴んでこい。分かったな!」
「はい」
幸村の柔らかな返事に、錦は大丈夫そうだなと幾分か低い位置にある頭を撫でた。
「立海、行くぞっ」
「イエッサー!!」
西島は確実に相手の苦手な場所を突き、ポイントを決めていく。普段のふんわりとした空気を微塵も感じさせない。日向は、相変わらずだなと錦と顔を見合わせた。
「ゲームセット、ウォンバイ西島規尋6ー2」
よっしゃ、と拳を合わせる先輩に礼をして、真田と柳はコートに立った。
「微温いわーっ!」
パワーを全面に出しながらも、ライン上を狙う真田。柳は真田のサポートに周り、確実に相手のデータを利用した。
「真田が動けるのは、柳のお陰ですね」
幸村は、隣に立つ小塚に話し掛けた。
「真田の真っ向勝負は見ていて気持ちが良いな」
小塚の向こうにいる西島が、嬉しそうにコートを走り回る後輩を見下ろす。
(だけど、勝利を得るためにはそれさえも捨てなくちゃならない)
小塚はそんな幸村の思いに気付いたのか、眼鏡を押し上げ、お前らなら大丈夫だよと、背中を叩いた。
「痛いですよ」
「そうか」
普段、あまり笑わない小塚がハハッと笑った。幸村は、勝つ、そう誓った。
「ゲームセット、ウォンバイ真田・柳ペア6ー2」
末恐ろしい、と苦笑した西島に幸村は先輩たちと練習しましたからと笑った。
(蓮二はダブルス向きだな)
真田は、隣に並ぶ友人に感謝した。蓮二がいたから、自由に動けたのだと。
「弦一郎、始まるぞ」
コートには、日向が立っていた。日向は170cm無く、立海でも小柄な方だ。
対する相手は背が高く、日向の華奢さがより目立った。
(蓮二くらいだろうか)
「相手は、178だ」
柳は真田が尋ねる前に、告げた。
技巧派である日向は、パワープレイに押されていた。四天宝寺も此処で踏ん張らねば、と攻めて攻めていた。
「日向、振り回せよ」
コートチェンジの時、錦が叫んだ。
「おいーす」
真田は、ラケットを掲げた日向の背中が広く感じた。
伊達に立海のレギュラーではない。貪欲に勝利を掴む姿に、普段食べてばかりいる日向はいなかった。
(これで勝ち、決勝だ)
真田は、電光掲示板を何とはなしに見た。
「白石?」
「白石は二年にして部長だ」
柳は、包帯をしている男だと教えた。怪訝な表情をした真田だったが、それはすぐに消えた。丸井が身を乗り出そうとしていたからだ。
「日向先ぱーい!勝ったら、限定チョコ献上します、ジャッカルが」
丸井は日向と同じくボレーヤーだ。そして、日向からよく菓子を奪われている。一緒にいることも多く、日向の勝利をより望んでいる。
ジャッカルは、そんな丸井のパートナーとして、身を乗り出す丸井を制した。
「日向先輩は勝つに決まってんだろ、ブン太」
「当たり前だろぃ」
徐々に追い上げを見せた日向は、最後のボレーを鮮やかに決めた。
「ゲームセット、ウォンバイ日向龍7ー5」
試合を終えた日向は、汗を裾で拭くと、幸村に悪かったなと言った。
立海の前に、四天宝寺は敗退した。
「さあて、決勝だ!」
錦の拳が掲げられた。
四天宝寺、倒す
駆け上がる、王座へ
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