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「関東大会優勝?全国に出るんだね!」
(凄いなぁ)
文芸部の立場から夏休み中も図書室に入り浸る風子。その風子の元に来たのは、真田だった。
「あぁ」
「結局、行けなかったからなぁ」
風子は、応援に行けなかったことを悔やんだ。
「仕方あるまい。家の手伝いは優先せねば」
静かな図書室の奥、風子は司書室に真田を案内していた。
「良いのか?」
「隠れ家だよ」
座って座ってとパイプ椅子を勧める風子と真田が、こうして会うのは初めてだった。
(図書室に入り浸っていても、全国に向けて練習してる皆の邪魔はしたくないし)
風子はそう思い、いつも図書室から眺めるだけにしていたのだ。
「来月の頭に蓮二のところで合宿をするのだ」
真田は徐に口を開いた。分からないという表情をする風子に、蓮二のペンションだと答えた。
「そっか。真田くんも怪我には気をつけてね」
(も、とはどういうことだろうか
誰かに会ったのだろうか)
「風子は、誰かに会ったのか?」
「昨日、柳生くんに会ったよ。合宿の話は初めてだけど」
「そうか」
(どうかしたのかな、真田くん?)
もやもやを振り払い、真田はそろそろと立ち上がった。
今日、テニスコートは午後からしか使えず、暑さも考慮し練習時間が短い。風子はそれを知ると、鞄からタオルを取り出した。
「ほら、私さ真田くんの誕生日に何も渡せなかったから」
差し出されたそれは、青と白のチェック柄。
「黒が好きって言ってたけど、こういうのも青春って感じかな」
えへへと笑う風子に真田は、首筋から耳の辺りが熱く感じた。
「有り難く使わせてもらおう。風子も、帰りは気をつけるように」
「ありがとう。真田くんもね」
冷房の効いた図書室から出ると、廊下ですら暑く感じた。それとは別に、風子から受け取ったタオルを持つ手に汗を感じた。
(気合いを入れねば!)
真田が生徒会室の前を通ると、丁度よく柳がテニスバッグを手に出て来た。
「風子からの物だな」
ぴしゃりと言い当てられた真田は、ぐっと言葉に詰まった。
「顔が赤いぞ」
「からかうな!」
くすくす笑う友人に、こんなやつだっただろうかと頭を押さえた。
「部室に一度行ったのだろう」
タオル以外に手ぶらの真田を見た柳は、早く行こうと促した。
「今日も暑いものだな」
「あぁ。仁王辺りに、気をつけないといけないな」
校舎を出ると眩しい太陽が照り付けた。テニスコートからは、錦の豪快な笑い声が聞こえる。
今日もテニス部は、ラケットを握る。
夏休みのテニス部
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