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幸村精市の場合−

正直、驚いたよ。あの、真田に彼女なんてさ。仁王は最近、別れたらしいけど。別に構わないよ。テニスに影響出すようなやつじゃないしね。

「あげる」

「魚を食べんと、大きくならんぞ」

親子じゃないんだからと二人のやり取りに苦笑いしかでない。俺もだけど多分、柳も一緒の考えじゃないかな。

「おーい、幸村!さっき担任が探してたぜ」

あ、忘れてた。

「栗坊、悪いけどよろしくね」

弁当箱を栗坊に預けて、職員室に。

「頼んだよ」

「分かりました」

頼まれたのは、他のクラスの美化委員にお知らせをすること。どうせだから、戻りがてら渡しに行こう。

「はい、よろしくね」

「あぁ。つかさ、あの真田が付き合ってんのって本当?」

むしろ俺からしたら君みたいな厳つい人が美化委員、ていうのが気になるよ。変な意味じゃなくて。好きな花が一緒だから、良いやつなんだろうね。

「皆に聞かれる。風子ちゃん、面白いよ」

「は!風子さんなのか?付き合ってんの!そうか…そうなのか」

知り合いなの、と聞けば去年のクラスが一緒だとか。それなら、倉敷もか。顔が広いんだなぁ。

「ま、それよろしくね」

唸る彼にはまた聞こう。

「幸村くん!これ忘れてったよ!」

廊下で手を振る風子ちゃんの手にあるのは、俺の弁当箱の巾着袋。どうやったら、巾着袋を忘れるんだろう。栗坊って馬鹿なのかな。

「真田の言葉を借りるなら、たるんどるだね」

クスクスと止まらない笑いに風子ちゃんは、ぱしりと腕を引っ張たいた。

風子ちゃんは、わりとスキンシップが激しいと思う。

初めてやられた時は、驚いた。柳はデータ通りだとか言ってたけど。

騒がしい廊下の様子からすると、もうすぐチャイムが鳴る。

「ねぇ、風子ちゃんは誰が一番好き?」

凄く意地悪な質問をしてみた。困るんだろうね。

「皆と一緒にいる時の皆が一番だよ、ふふっ」

してやったり顔で比べられないと笑う彼女は、中学生らしかった。

クラスに少数いるお化粧を念入りにする彼女たちとは、違う。

あと、女子は俺を「聖人君子」だと思ってるのか知らないけど、俺だって汗をかく。それなのに、幸村くんは汗をかく訳ないでしょってどういう意味なんだろう。

風子ちゃんは多分、そうやって見てないから楽だ。そうじゃなけりゃ、意外な馬鹿力を発揮しないと思うし。

「俺って、王子様に見える?」

「えー、難しいよね。テニスの時は熱血王子だけど、皆といる時は結構口が滑るよね。栗坊の反応が面白いし。だから…庶民の王子様?」

多少の理解し難い部分はスルーしよう。どういう訳だか、風子ちゃんは俺を楽にしてくれるらしい。

別に普段、猫を被ってる訳じゃないよ。ただ皆が、俺にフィルターをかけてるだけ。風子ちゃんがフィルターをかけてなくて、意識をしてなくてさ。

「チャイム鳴るね。これ、ありがとう」

この紺色の巾着袋はお気に入りだ。風子ちゃんには、感謝。栗坊には、何をしようかな。

「部活、怪我しないようにね」

「あぁ」

パタパタと走り去る風子ちゃんは、うっかり男子にぶつかってる。少し、おっちょこちょい。

風子ちゃん。明るいし、話しやすい、で劣等感をすこーし持ってるみたい。それは、皆がもってるから気にしない。一緒にいて楽だ。あ、真田、からかってみよう。

その前に、「聖人君子」の正確な意味、忘れちゃったな。



I am not a holy man,
どこにでもいる
少年の場合



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