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あれから、風子の様子がおかしいと誰もが気付いた。

乃里子は柳に、柳は大崎と乃里子に原因を尋ねたが、誰も知らなかった。

そして、ぼんやりと頬杖をついたままでいる風子が普通になった。

いつもなら風子の笑い声が聞こえるか、若しくは微笑んでいたりとクラスの中心とまではいかないが、構われる質の風子が静かなために皆も調子が出ないな、と思っていた。

「乃里ちゃんさ、好きな人いる?」

乃里子は、まさかと気付いた。

「もしかして、祥子にも言ってないのね」

祥子とは、D組の茅ヶ崎祥子だ。彼女と若竹乃里子、良稚風子は一年の時の三人組。

乃里子は、風子に好きな人がいると聞かされた時のことを思い出した。

それは風邪で休んだ翌日、にやにやとしてはいるのだが気難しそうに近付いてきた祥子の一言。

「風子、真田くんが好きってよ」

「あー!祥子ちゃんのバカん!」

慌てて身を乗り出す風子の顔は赤く、ひどく恥ずかしそうだったのだ。

「今日は図書室に行くわ。祥子も連れてね」

風子は、うんと頷いてぱらりと教科書を開いた。

(一日の最後の授業が数学だなんて)

頭と手を動かさねばならないため、風子のことを考えるのが難しく好きな数学にさえ、腹が立つ乃里子だった。

先に図書室に向かった風子とは反対に、階段を通り過ぎ、D組の中を覗いた。生憎、まだ終わっていなかった。

だらだらと話す森川女史が得意ではない乃里子。はぁと息を吐いて、壁にもたれかかった。

先に終ったのはA組らしく、見慣れた眼鏡と長身が乃里子に気付いた。

「若竹さんは誰をお待ちですか」

柳生はD組を見て首を傾げた。

「茅ヶ崎祥子待ちよ。丸井は良いの?」

大崎とセットで叱ることが増えた乃里子は、丸井を呼び捨てにしていた。

はて、と顔を見合わせた二人に乃里子はアレと丸井の後ろだよと教えた。

丸井の後ろには、丸井と同じくらいの背丈で前髪をピンで留めた女子がいた。

不満そうに丸井の椅子を蹴る度、短い髪が跳ねている。

「丸井くん、前を向きなさい。言わなくても分かっていますから。茅ヶ崎さんも!」

反論しようとする丸井を制し、森川女史は終わりの挨拶を呆れたように促した。

「エネルギッシュな方ですか」

「丸井、菓子を食べるな!」

真田は眼中に入っていないのか、丸井が鞄から出した菓子を取り上げようと向きを変えた。

「どしたのさ?」

「風子、図書室にいるから」

「あー、分かった」

「それじゃ、部活頑張ってね」

乃里子は柳生に手を振り、祥子は丸井の仕返しを軽くいなして鞄を手にした。

2号館の2階にあるのが、図書室だ。本来なら、高等部優先の校舎だが2階は中等部が利用している。

1号館にある資料室は別名が図書館で、規模が異なる。

図書室からテニスコートは十分に見ることが出来、実は穴場なのだ。

ぱらぱらと擦れ違う高等部の先輩に軽く会釈をすれば、笑顔で返ってくる。

乃里子は祥子に簡単に経緯を説明し、どうすべきかと問うた。

「分からなくもないよ、風子の気持ちは。だから、私らは話を聞くだけだ」

「分かってるわよ」

祥子のスラリと伸びた足を羨んで、乃里子は図書室の扉に手をかけた。

風子は定位置のテニスコートが見られる窓の前に座り込んでいた。膝立ちで腕にのせた首が傾いている。

「風子」


D組の女帝、
F組のお嬢



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