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五時間目が終わるとぞろぞろと動き出したクラスメイトに、風子も立ち上がった。
一号館から体育館に向かう中等部の集団を高等部は、またあの季節かと口々に話していた。それは、生徒総会。
単なる生徒会主導の生徒総会ではなく、この五月に行われる生徒総会は、次期役員を決めるものなのだ。
通年ならば投票を行うべきなのだが、来期の候補者が一人しかいなかった。
そのため今回は、信任を問うのみになった。
そして候補者たっての願いにより、挙手制で構わないという話。
奇特な人だことだなと思う風子は、前に立つ芳井太一と後ろの若竹乃里子に遊ばれていた。
「それでは生徒総会を始める前に、風紀委員により各クラスチェックをお願いします」
体育館の後方に立つ教員は、生徒の自主性を理由に各々欠伸をしていたり、座っている。
「仁王、シャツを入れんか」
聞き逃す筈のない声に、風子はいくつか隣の列の方を向いた。
「こーら!あんたはこっちよ」
若竹乃里子に捕獲された風子は、耳だけをそばだてた。
「真田だな」
顔だけを後ろに向けた芳井太一は、ごそごそとネクタイを上げた。
「相変わらずね。違うクラスだってのにさ!あんた、曲がってるから」
若竹乃里子は、風子のネクタイを直した。
「そういえば、柳くんは?」
芳井の前にいるはずの柳がいない。体育館に来るときも、気付けばおらず、乃里子に引っ張られなければ、埋もれていただろう。
「新しく生徒会役員を決めるでしょ。柳くんなのよ」
乃里子は聞いてなかったの、と呆れた。
「思い出した!」
思いもよらずに出た大きな声に、芳井がぽかりと叩いた。
「風子、乃里子オッケー」
風子の風紀委員である鈴木馨が肩を叩いた。
ともすれば、風紀委員のチェックは終わり、生徒会主導で生徒総会が始められた。
「来期ですが、引き続き会長、副会長、会計、庶務は繰り上がりということとなりました」
(立候補がいなかったんだっけ)
風子は声に出したつもりはなかったのだが、乃里子が頷いた。
「書記ですが、二年F組の柳蓮二くんが立候補をして下さりました」
どうぞと促された柳は、壇上に上がりマイクを手にした。
こそこそと声がするのは、柳だとは思わなかった者たちだ。
柳は淡々と立候補と、信任を挙手制にした旨を説明した。
「それでは、信任に移りたいと思います」
風子は勿論、手を挙げた。芳井も若竹も。
(やっぱり、テニス部だからとかかなぁ)
風子は周りを見渡して、複雑な気持ちになった。
それでも信任されたことは嬉しく、柳が立候補するくらいだからと生徒会に期待を抱いた。
「ありがとうございます」
それでは紹介を、と壇上に柳を含め五人が並んだ。
「生徒会会長、真下栄太。副会長、佐倉嘉乃。書記、柳蓮二。会計、海老河悠矢。庶務、吹田エリカ」
風子は芳井の背のせいで見られなかったが、目一杯拍手を送った。
「む、風子は知らなかったのか?」
帰り道風子は真田と二人とはいかなかったが、テニス部集団の後方を二人で歩いていた。
「忘れてたの。だけど、拍手したからっ」
にひひと笑ってピースをする風子に、真田は苦笑した。
「そういやぁ、この前熊崎がお前のこと話してたぞ」
丸井が急に振り返ったせいで、ジャッカルにテニスバッグが当たった。
首を傾げる風子に、丸井がニヤニヤした。
「授業中に大爆笑したんだろぃ」
ぱちんと割れた風船は緑だが、風子の顔は真っ赤だ。
「何で!あれは、仁王くんの教科書のぱらぱらマンガがいけないんだよ!」
「教科書を忘れたのは、風子だ」
柳は、読んでいた文庫本に目を向けたままだ。幸村も知っていたらしく、機嫌が良くて助かったよとフォローにならないフォローをする。
「今度から仁王くんには気をつけるし!」
フフンと腰に手を当てる風子。それを見た真田は、可愛らしいものだと思った。
(可愛らしい…?この俺が、そのような!)
一人悩む真田を風子は見上げた。
「真田くん、どうかした?」
「いや、目が離せないものだな」
何がと聞き返す風子を促し、真田は歩みを早めた。歩幅は、少し狭いままに。
真田の言葉を聞いた幸村は、少し驚いた。普段は言わないようなことを女子相手に、と。
赤也は特別だしねと目の前で仁王にからかわれている後輩を黙らせた。
生徒総会
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