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切原赤也の場合−

「最近さ、真田先輩が面白い」

今日の一年生の担当は、ボールや器具の片付け。

赤也は、ボール篭に足を引っ掛けた。

(いてェ!)

「何かさ、真田先輩じゃねぇよな」

相槌を打つ岡野は、赤也と同じクラスで、同じテニス部だ。私語をしていても、やるべきことはやるのが岡野で、赤也は促されてボール篭を掴んだ。

「誰だっけ?」

岡野もまた、ボール篭を抱え真田の元を訪れた女子を思い出し浮かべた。

「確か、風子せ、先輩?柳先輩が言ってた」

後輩の目から見ても明らかに、真田の様子はおかしかった。

「付き合ってんなら、別にいんじゃね」

岡野は赤也のムッとした顔を見て、笑い出した。

「そうだけどさ」

(練習に身が入ってない訳じゃない
だって、あの真田先輩だから
終始、ニヤニヤしている訳じゃない
だって、あの真田先輩だし)

(だけど、すんげぇ複雑な訳…)

あぁあ、と赤也が溜め息を盛大に吐いた。

向こうでは、二年生がドリンクや整備をしている。

真田は柳とともに、ボトルの篭を抱え、水場に向かっていた。

「つかさ、風子さんも真田先輩の何処に惚れたんだろ」

岡野は馬鹿だなと、小突いた。

「真田先輩だろ」

(意味が分かんねぇし)

赤也はどこがと尋ねているのに、真田そのものと答える岡野の意味が理解し難かった。

「その内、分かるんじゃねぇの」

意味深そうに岡野は、笑った。

翌朝、朝練のない日でも普段は遅刻しがちな赤也が珍しく、ゆとりをもって登校していた。

昇降口、二年生の靴箱の前でトレードマークの帽子は身につけていないが、すぐに分かる人物を見つけることになる。

(うわ…、真田先輩じゃん!)

赤也は、遅刻しなくて良かったと心から安堵した。

すると、聞き慣れた怒声が飛び交った。

「風子、たるんどる!努力せねば、結果は着いてこない!分かっているだろう」

分かってるんだけどとぼやいていたのは、風子だった。

(昇降口でよくやるなぁ)

赤也は仁王立ちをする真田の背後をこっそり通りがてら、風子を盗み見た。

「真田くんを見習わないとね」

風子は、怒られているというのに、嬉しそうに、照れたようにしていた。

(あぁ、分かった気がする
あの人と俺は一緒で真田先輩だから、好きなんだ
違うのは、好きの種類
ほんの少し、違うんだ)

先輩として慕う赤也と、異性として慕う風子。

仲間じゃん、赤也はそう思った。

それから赤也は、真田と風子が二人でいるのを見ると、嬉しくなった。

そして、以前と変わらず自分を怒る真田に、溜め息を吐く。


(赤也、また怒られてんじゃん)(岡野、覚えとけよ)(赤也ァァァ!)(ひっ…!)


後輩の場合



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