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蓮二の試合をしようという提案に裏があるとは、と真田は、赤也のメニューが終わるまで外周に取り組んでいた。
(しかし…いつも見ているのだろうか)
今はテニス用フェンスや木々によって遮られている校舎を、ふと見上げた。
隙間から見える見慣れた校舎や窓ばかりで、探しものは見つからない。
目が良いのも考えものだろうかと真田は自身の極論に気付かず、赤也の準備が出来たと呼びに来た後輩の声にビクリと肩を揺らすことになる。
真田は食らいつこうとする赤也に容赦なく、ポイントを取っていく。
以前よりは、手応えを見せる期待の後輩に真田は、ラケットを振り抜いた。
「何を探している」
柳は、真田の視線がフラリとしていたことを尋ねた。
隣の赤也にはメモを差し出し、ジャッカルに見てもらうよう指示を出す。
「ジャッカル先輩ー!」
「良稚は、いつもあそこにいるのか?」
首にかけたタオルで汗を拭う。
(やはりな)
「あぁ、だが最近は気まぐれのようだな」
真田に連られて見上げた窓には、風子がクタリと体を投げ出していた。
「そうか」
「気になるのか」
真田は、違うと言い張った。
「ただ、部活動は良いのかと…」
(ほんのり赤い顔は、暑いからか、否)
柳はもう一つの理由を考え、笑った。
「聞けば良いだろう。精市が二年のメニューを見て欲しいそうだ」
真田の分のメモを手渡し、一人先に幸村の元へ歩き出す。
そんな柳を追い、真田はメモを握り締めた。
そして頭の中は既に、後輩の実力を上げるにはどうすべきかということでいっぱいになった。
部活が終わり、仁王がフラリと真田の隣にきた。
「真田、彼女ずっとお前さんのことを見とったきに」
ガツンと鈍い音がした。くつくつ笑う仁王の隣には、フェンスの柱に額をぶつけた真田。
見たことのない光景に、三年生も一年生も開いた口が塞がらない。
(真田に何が?)
(真田先輩も人間なんだな…)
柳生は、周りの様子に真田の部での位置づけに納得せざるを得なかった。
「た、たるんどるっ」
「お前さんがの」
ぴょこぴょこ跳ねる銀色の尻尾を掴んでやろうかと思うが、卑怯だなと諦める。
「お前さん、彼女さんとメールはしとるんか」
「しておらん。することがないからな」
赤くなった額を擦る姿なぞ見られんなと柳は、ノートを取り出していた。
「してやらんのか?」
呆れた声音に、すべきものなのかと首を捻った。
(何だって、こいつなんじゃ…)
仁王は、馬鹿と呟いた。
「無理にとは言わんが、たまにはしてやりんしゃい。見学に来るといいとか…。いくらでも、あるじゃろ」
真田は、黙り込んでしまった。
一年生がコート整備をする間に、二年生も雑務をこなす。ボール籠を転がす二人に近づいたのは幸村だった。
「真田、メールが出来なくても良いけど知りたいって言ったのは君じゃないか。知りながら、付き合うんだろう。なら、話せるようにしなくちゃね」
ヘアバンドを両手で伸ばす幸村は、くすくす笑っていた。
「それもそうだな。二人ともありがとう」
日々精進と呟く生真面目な部活仲間兼友人に二人は、行く末が良いといいなと顔を見合わせた。
(英語の予習があったっけ…)チロリン♪(さ、さなだくん!?)(どうしようっ!!)(姉ちゃん、煩いぞ)(うへへへっ)(げ…)
部活仲間は、友人を兼ねる
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