09
風子は、携帯を片手に突っ伏していた。
目の前には、芥川龍之介の産物がべろりと開かれたままだ。栞が飛ばないように黒猫のペーパーウエイトが欠伸をしたまま、伸びている。
これは風子が祖母から貰ったもので、家には二体の兄弟猫が好き勝手に本棚に並んでいる。
「一緒に帰りたいなぁ」
風子は、新規メール作成画面をぶちりと消した。黒猫は喋らない。
せめてメールと考えた風子は、駄目だと項垂れた。
(第一、お疲れ様なんて言えない。当たり前に疲れてるだろうし。権利ないよなぁ)
風子は、黒猫を栞から解放し、芥川龍之介の産物に挟む。
ぺたぺたと足音を鳴らし、窓際に。黒い帽子を被った真田が、コートで駆けている。
(凄いなぁ。あ、柳くんだ)
コートに入った柳は、二言三言話すとクルリと風子のいる校舎を見上げた。
(何だろう?誰かいるのかな)
風子が、桟に乗り出し様子を眺めていると、柳は風子を指差した。
「え」
遠目でも分かるほどに、ニヤリと笑う柳。隣では真田が、ふるふると震えていた。
「たるんどるー!!」
「何ごと?」
すぐさま駆け出した真田でさえも、風子は目で追う。
「風子、もう少しで試合をやる。見ていろ」
柳の楽しそうな笑みに複雑だったが、風子はありがとうと手を振った。
(赤也と試合をしよう)(構わんが)(風子が見ている確率100%)(む…)(あそこだ)(な、な…!)(健気だな)(たるんどるー!)
参謀に見つけられた
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