07
「良稚、弦一郎のアドレスか」
風子が言う前に指摘し、風子は頷いた。
「聞いたら、教えてくれるかな」
風子が勝手に柳の前の席に座ると、柳は読んでいた文庫本を閉じた。
「弦一郎はメールが苦手だが、拒むことはない」
(昨日の様子から弦一郎は、良稚に対して悪い印象は全くない
むしろ好印象だろう)
弦一郎は小動物に好かれやすいからなと柳は目の前の女子を小動物扱いした。
「良稚、俺はお前と友人関係を築いていると思うのだが。風子、と呼んでも」
クラスの大半が風子を名前で呼んでいる。
柳もそれに倣おうと思ったのだ。思惑はまだあるが。
「勿論!あ、私ばっかり相談のってもらってるから、愚痴とか聞くよ」
まぁ、その前に解決してそうと頬杖をつく。
「そうさせてもらうさ」
「で、今はどういう状況なのだ?」
分かっていて尋ねるのは、風子の方からも情報を仕入れようと思ったからだ。
「あのね、真田くんは私のことを知らないから、知りながら付き合うことになるって言われた」
(弦一郎がな…。あながち、昨日の確率は外れていなかったな)
「でね、考えてみたら私が知ってるのは、テニス部の真田くんと風紀委員の真田くんだけ。有り得ないね…」
柳の机に突っ伏する風子を眼下に、仕方ないだろうと慰めた。
「あいつは、精市とは違うからな」
(精市?)
「だれ?」
風子は体を起こして腕組みをし、眉間に皺が寄った。
「幸村だ、幸村。C組の」
(幸村、幸村…)
「柳くんと同じくらい綺麗な顔の人ね」
「自分の顔が綺麗かどうかは知らんがな」
綺麗だよと睨む風子は、怖くはない。
「精市は女子に人気があると思うぞ。だから、女子に免疫もある。故に、ある程度の情報は流れる」
「真田くんだって格好いいよ!渋いし、声とかっ!声変わりする前の声、きちんと聞きたかったな…」
机をバシバシ叩き、更には勝手に項垂れる風子。恋とは恐ろしいのだなと柳は、先程まで読んでいた夏目漱石の作品をしっかり読もうと新たに決意した。
「弦一郎に何か聞くなら、昼休みが良いだろう。だが、生憎風紀委員の集まりがある。明日以降だな」
いじいじと柳の机にのの字を書く風子の頭を、ぽんぽんと撫でる。
「ありがと、お昼食べようね」
二人が昼を一緒にするようになったのは、風子が柳に相談するようになってからだ。
そのため、面白がる友人も合流している。
それも手伝い、昼の名物としてF組では昼放送より楽しみにされている。
今日の昼は、騒がしそうだなと周りの期待する眼差しに、面白いだろうと心の中で答えた。
(相手が弦一郎だからだな
他のちゃらんぽらんな奴なら即刻、叩きのめすまでだ)
穏やかな表情のまま、中学生にあるまじきことを考える柳だった。
(何かよ、柳って風子の保護者だよな)(わかる、分かる)(御飯粒を飛ばすな)(大崎くんのお母さんだよ)(風子、茶を零すぞ)((全く…))
友人
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