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学パロ4

「まずバーコードをスキャン、番号を打ち込んで、お金をもらってからこの印鑑を押す。それから控えだけ切り離してお客さんに渡して下さい」
「ああ、そっか、番号打ち込むんだ…ありがとな」

2回目の航空券の支払いに戸惑うアリババさんをフォローして、もう一度手順を説明すると彼は手順を思い出したのかにかっと笑って見せた。
この学校では一学年先輩の彼は、俺より半年遅くこのコンビニにバイトとして入ってきた。つまり、学校ではアリババさんが先輩で、バイトでは俺が先輩にあたる、ちょっとおかしな関係だ。

「間置くと忘れるな…」
「メモにとっておくと良いですよ。忘れてもそれを見れば良いですし」
「だなぁ」

メモメモ、とポケットをまさぐる彼に、バイト中はいつも常備しているメモ帳の一枚を渡すと、彼はまた笑って礼を言った。

「白龍は先生に向いてるな」

ぶつぶつと口の中で手順を繰り返しながらメモをまとめるこの先輩兼後輩が、俺は少しだけ苦手だった。



バイト初日、彼は具合が悪い老人を家まで送り届けたせいでバイトに遅刻しかけた。「俺が送り届けるから」と言う彼の言葉に甘え、その現場に居合わせた俺はバイトがあるからと後ろ髪を引かれながらもその場を立ち去ったのだが、なんの因果か彼は新しいアルバイトだったのだ。同じ状況だったのに、彼は老人を助けることを選び、俺はバイトに行くことを選んだ。
成り行きがどうであれ、この事実に変わりはないのだ。
なのに、この人は何にも気になどしていない風で、あの時のことなどもう既に忘れてしまっているのだ。あの日だって、こんな偶然あるんだなぁ、などとへらへらと笑いながら握手を求めてきた。
何故、お前が老人を助けなかったのか、アルバイト初日と数ヶ月勤めているお前とでは、お前の方が融通がきいたのではないか、と少しでも詰ってくれたのなら気が楽なのに。

「あれ、こんばんは!今日は早いんですね」
「今日は仕事が早く終わったんだよ。あ、いつものね」
「はい!」

知り合いのような気安さで話始めたアリババさんとお客様の様子を掃除をしながらそれとなく観察する。
アリババさんとはシフトが被るのは週に2回ほどだが、同じ時間帯で働いている。だが、彼が親しそうに話しているこのお客様の顔には見覚えがない。
知り合いなのかとも思ったが、サラリーマン風のお客様とアリババさんに接点があるようにも見えない。

「ありがとうございました」

掃除が一段落ついたところで彼に知り合いかと尋ねてみたところ、週に2、3度来るお客様で、たばこの銘柄を覚えて言われる前に用意したところひどく喜ばれ、それ以来よく話をするようになったんだ、とあの俺が嫌いな屈託のない顔で笑った。

「…そうでしたか」
「コンビニのバイトって案外面白いな!いっつも来てくれるお客さんとか、結構面白い人もいるし」
「……へぇ」
「あ、あの人わかるか?いっつもドラゴンズのキャップ被ってるおじさん!優勝したからすっげぇ機嫌良くてさ、昨日なんてジュースおごってもらったんだ」

キャップを被ってるお客様なら数名知っている。
でも、機嫌が良いからと店員にジュースをおごるような方は知らない。

「嫌なお客さんもいるけどさ、俺この仕事好きだな」
接客なんて、好きじゃない。
だけど、高校生で雇ってくれる業種なんて接客業くらいだ。それならば、行き帰りに時間がかからない家から一番近いところを、と探したのがこのコンビニだった。

「いらっしゃいませ!」

自動ドアが開いてお客様が入ってくる。
今度は会話こそしたことはないが、俺も見知った顔だった。

「こんばんは!今だけおでんのセールやってるんです。寒くなってきたし、どうですか?」

愛想のないその男性が、雑誌やガムばかりを買っていたその人が、アリババさんにすすめられるままにおでんを選ぶ。

「ありがとうございました!」

そうして彼はまた、俺の嫌いな屈託のない顔で笑うのだった。

俺は、この先輩兼後輩が苦手だ。



111022

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