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学パロ3

この夏は雨が少なかったから、私は毎日裏庭に来て花壇に水をやっていた。
こう言うのは園芸部あたりの仕事なのだろうけど、この学校には園芸部がないのか、あっても活動していないか、とにかくこのあたりに誰かが水を撒きに来ている様子がなかったので、どうにも気になって足を運んでいるうちにいつしか日課になってしまったのだ。
雨不足でひび割れた地面はごくごくと水を飲みこんで、なかなか湿った茶色に変わってくれない。土の様子を静かに見守りながら、ひたすら水をやり続ける。そうすると次第に花も土も生き生きとその表情を変えてくる、様な気がした。
写真同好会の私が何故こんなことをしてるかと言うと、同好会の唯一の先輩であるアリババさん(部員がアリババさんと私しかいないから、部に昇格できないらしい。ひょっこり参加しているアラジンはまだ初等部だから、部員には出来ないのだ)に珍しく出された課題を撮影する為に裏庭を散策している時にたまたま枯れかけた花を見つけたからだった。
裏庭、と言う割に殆ど日陰がない我が校の裏庭は、真夏には誰も近寄らない。用務員のおじさんも、夏休み中なのか最近姿を見ていない。このままでは枯れてしまうかもしれない。気がついたのにそのままにしておくのは後ろ髪が引かれる。
だから私は夏休み中も毎日学校に通っては、花壇に水をやり続けたのだ。

(花、枯れてきているわ……)

日が短くなって、気温もどんどん下がっている。季節の移り変わりがはっきりと表れるこの国に、秋が近付いている。どんなに手をかけても、枯れるのは当然のことだ。でも、それがとても寂しい。

(アリババさんが褒めてくれたのに、)

同好会と言っても目立った活動のない写真同好会である。夏休み前に、部費獲得の為にそれらしいことをしよう! と言うアリババさんに従って、私はこの花壇の花を撮った。
枯れかけた花の中で力強く、健気に咲き続けていたこの赤い花が気に入って写真に収めたのだけれど、それをアリババさんがひどく気に入って下さったのだ。

「この花、モルジアナみたいだな」

深い意味なんてないのだろう。
でも、アリババさんが私の好きな花を私みたいと言って下さった。それが、とても嬉しかった。
アリババさんが一人でいる私を同好会に誘ってくれて、私の生活は少しづつ変わっていった。無表情で口数の少ない私に、楽しいことをたくさん教えてくれた。不思議なもので、笑うことが増えるとそれに比例して友達も増えた。一人でいても、何にも感じなかったのに、アリババさんといる様になって初めて「寂しい」と言う感情を理解した。
ちょっと気の弱いところもあるけど、私にとっては大切な恩人、それがアリババさんなのだ。
彼が褒めてくれたものなのだから、少しでも長く咲いていて欲しい。そう思いながら、園芸店で買ってきた栄養剤をやる。

「モルジアナ! やっぱりここだったのか」
「アリババさん……」

探したんだぞー、と言いながら私の隣に座ったアリババさんの体温が存外近くて、少しだけ動悸が早まる。何だろう、アリババさんといるとたまに感じる、このもどかしさは。

「あ、この花」
「覚えていたんですか?」
「モルジアナが撮ってた花だろ?俺も気になっててさ、たまに見に来てたんだ」
「そう、ですか」

1っか月前に比べて大分柔らかくなった日差しが肌をやんわりと焼く。
こっそりと隣を見れば、アリババさんはまっすぐに花を見ていて、なのに彼を見ている自分が凄く不謹慎に思えて、すぐに視線を花に戻した。

「これ、夏の花なのにまだ咲いてるんだな。モルジアナが一生懸命世話してたから、それに応えてくれてるんだろうなぁ」
「何で知ってるんですか?」
「言ったろ?俺も気になって、たまに見に来てたって。モルジアナはえらいな」

そう言ってぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。
笑っていることが多くて柔らかいイメージのあるアリババさんの掌は、思っていたよりもずっと大きくて、温かくて、また私は居たたまれないようなむず痒さに襲われた。ふわふわして、心臓がバクバクいって、頬が勝手に緩んでくる。
違うのに、偉くなんてないのに。花が可哀そうだから世話してたんじゃなくて、アリババさんが褒めてくれた花を枯らせたくなかっただけなのに。褒めてくれたのが嬉しかったから、それがなくなってしまうのが寂しかったから。そんな勝手な理由で世話をしているなんて知られたら、アリババさんは呆れるかしら。
そう思ったら、勝手に緩んだ頬の筋肉が戻って、変わりに胸の奥とお腹のあたりがずしんと重たくなった。

「今日、アラジンが帰り家に寄れってさ。モルジアナも行くだろ?」
「……はい」

じゃあ行こうぜ、ともう一度頭を軽く叩かれて、また心臓が騒ぐ。
この人といると、知らない現象ばかりが起こる。楽しいことばかりじゃないけれど、それでも、この人と一緒にいたいと思う。
アリババさんは、私の大切な恩人なのだから。



111003

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