黒バス | ナノ






目まぐるしく過ぎていく毎日はまるで戦争のようだ。
 芸能界に興味はないかとスカウトされた直後はモデルとして活動していたのだが、興味本位で受けたオーディションの一つに合格してからあっという間にオレの人生は変わった。
あれよあれよという間にユニットを組まされ、方向性を指示され、デビュー曲を与えられて気が付けば芸能雑誌のインタビューに答えたり音楽番組の新人紹介のコーナーに出ていたりした。人生何が起こるか分からない。去年まで普通の男子高校生としてそこら辺をぶらぶらしていたのに、今ではテレビで見ない日はないレベルの人気急上昇中3人組アイドルユニットなんてのをやっているのだから。
アイドルというのは異性を対象として擬似恋愛を味わってもらったり、単純にビジュアルを楽しんでもらったりするのだとばかり思っていたから、オレの所属するこのユニットの形態に最初はびっくりした。女一人、男二人、男女混合の三人組アイドル。ターゲットは小学校高学年から二〇代の男女、だそうだ。その珍しさと事務所の大プッシュのお陰で、デビュー当初から注目を集めることができた。楽曲もヒットメーカーと呼ばれる人たちにお願いしていたし、何よりも三人三様の個性が受けて、三枚目のシングルで週間チャート一位を取ってからはもう飛ぶ鳥を落とす勢いで、今に至る。

「みんなのアイドル、きーちゃんっス!」
「さっちは恋するみんなの味方だよ!」
「黒子です。今日も心を込めて歌います、聴いてください」

 耳をつんざく黄色い悲鳴と、野太い声援が会場内で混じり合う。アルバム発表前に行われた初コンサートは、チケット即日完売御礼。ワンデイズだけの初コンサートは、初っ端から観客のテンションが最高潮で、誰か倒れるのではないかと心配してしまうほどだった。
 歌を歌えば観客が熱狂する。視線を送れば黄色い悲鳴とこぼれる笑顔に、モデルの時とは違う昂揚感を覚えた。生でファンの反応を見られることがすごく嬉しかった。汗をかいても寒くても涼しい顔をして撮影していたあの時とは全く違う、感じたことをそのまま顔に出して表現して今この瞬間を歌に乗せて声と身体全部で伝える。体力的にはかなりきついけど、こんなに楽しかったことも充足感を得たこともない。これは、なかなかどうして癖になりそうだ。
 シングル三枚とそれぞれのカップリング曲、それにアルバム収録予定の新曲二曲の計八曲、それにアンコールでデビュー曲をもう一回歌い、オレ達のデビューコンサートは大盛況のうちに幕を閉じた。

「おつかれさまーっス」

 グラスが勢いよく音を立ててぶつかり合う。オレ達もスタッフも、全員が今日の成功を心から喜んでいた。スタジオ近くのこじんまりとした居酒屋を貸し切りにして行われた打ち上げは、日付が変わってもお開きになる気配がない。全員が一丸となって今持てる力の全てを持ってコンサートを成功させた。その思いがあるからだろう、多少飲み過ぎている人もいたが、全員が良い顔でうまそうに酒を飲んでいる。

「ねぇ、きーちゃん」

 打ち上げ中、盛り上がる面々の輪の中から少しだけ外れた場所でその様子を見ていると、ユニットの紅一点であるさっち、こと桃っちに名前を呼ばれた。
 全くの初対面からユニットを組み、互いの仲を深めるために1ヶ月間の共同生活を強いられたオレ達三人は、最初こそ遠慮がちだったが今では誰よりも信頼できる仲間になることが出来た。無茶ぶりをするプロデューサーを恨んだこともあったが、それも今では良い思い出である。あの一か月がなければ、オレは桃っちのことを性根の悪い女だと思ったままだったし、黒子っちに関しては仲間であることすら認められていなかったかもしれない。

「なんスか、桃っち」
「もう、またその呼び方」
「だって途中からいきなりさっちって呼べって言われたって、そう簡単に慣れないっスもん」
「オフでは桃っちでもいいけどね。オンの時はちゃんとさっちって呼んでよね」
「わかってるっスよ。で、どうしたんスか?」

 薄暗い店内の照明の下でも、桃っちの顔が薄らと赤みを刺したのが分かった。少しだけ言い淀んだ後、相談があるの、とだけ言われる。その所作を見て、ああ、と思い当たる節はあったのだが、軽い酔いも手伝って少しからかってみたくなった。にやにやと笑みを浮かべて顔を近付けると、桃っちが軽く身体を引いて距離を取る。

「オレに告白?」
「違うわよ、そんなわけないじゃない」

 ますます顔を赤くして声を荒げた桃っちに、数人のスタッフがこちらに気付いて視線を寄越す。もごもご言っている彼女の口を抑えて何でもないっス、と笑って見せると、けんかすんなよーと返された。オレ達三人の仲の良さは周知の事実で、こうしてちょっと騒いでいてもじゃれているとしか思われないのだ。
 スタッフの気が逸れたのを確認してから手を離すと、桃っちがぷはぁと大きく息を吸い込んだ。
 目を合わせて苦笑しあった後、ここでは話せないことだからと、ウエイティング用の個室に移動した。一人分間を開けて隣に座る。店内に比べると幾分明るいここでは、先ほどよりも桃っちの表情が良く見える。長い睫毛を伏せて、何事かを考えていた彼女がふと顔を上げ、息を吸い込んでから一息に告げた。

「私ね、テツ君のことが好き」

 まっすぐにオレを見て告げられたその言葉は、予想していたものそのままだった。恐らく、彼女もオレがそれに気が付いているのを知っていたから、こうして打ち明けてくれたのだろう。
 オレが彼女の気持ちに気が付いたのは、同居生活を始めてすぐのことだった。
 テツ君――彼女がそう呼ぶオレ達の仲間、黒子テツヤは、アイドルにしては透明感がありすぎるというか、はっきりと言ってしまうと存在感の薄い男だった。
 これからこの三人で活動してもらう、と互いを紹介された時は、「こんなのと組んで売れるわけねーじゃん」と思った。愛想笑いも表情を取り繕うのも得意だったし、もちろんそんな気持ちを表に出したつもりはないが。
大きなラムネ色の目が印象的と言えば聞こえはいいが、それ以外は特徴がない。白い肌に、平均よりも少し低い身長。細くはないのだが、筋肉質でもない。やけに線が細く見えるのは、彼の持つ独特の透明感と色素の薄さ、それに骨格の所為だと思う。そこにいるのにいないような、下手したら隣にいても気付かれない影の薄さに、オレは早々にアイドルを諦めてモデルに戻るべきかな、なんて考えたものだ。
 まぁ、そんな考えは一か月の同居生活ですぐに改めさせられた訳だけど。
 オレ達は三人とも、元々別のジャンルで活動経験がある。オレはモデル、桃っちはグラビア、そして黒子っちは舞台俳優。桃っちは綺麗でスタイルも良いし、何より勘が良い。彼女がグラビアで活動していたのはすぐに納得がいったのだが、びっくりしたのは黒子っちだ。こんなにひょろくて存在感がないのに、よりによって舞台俳優。名前の通り、俳優ではなくて黒子の間違いではないか。それが見る目がなかったオレの黒子っちへの第一印象だった。
 この一カ月の男女交えた同居生活期間中は、デビューへ向けたレッスンよりも、各自の今までの活動分野からアイドルへの移行期間としてあてられた。各自がそれぞれのジャンルで悔いを残さないような仕事をしてくること、そして、アイドルとして活動していくにあたって自分の武器を見つけること。それがその一ヶ月間のオレ達に与えられた課題だった。
 初対面の、しかも女の子も含めた三人の同居生活はどう考えてもすぐに破たんすると思われたのだが、意外なことに、そうならないようにまとめてくれたのが黒子っちだったのだ。
 風呂場は男女で使用時間を決め、使用中はドアに札を掛けておくようにする。洗濯物は各自部屋干しで、シーツやタオル類はベランダへ。リビングでは肌を露出し過ぎないこと。家事は基本的に分担制、ただ不規則な仕事の為、お互いのことを思いやりながらフォローし合っていく。

「女性のあなたが一番不快な思いをすることになると思います。だけど、ボクたちはこれから、仲間になる。出来る限りのことはしますから、桃井さんも気が付いたことは我慢せずに言ってください」

 引越し初日、気まずいままリビングで顔を合わせて挨拶をした後の訪れた沈黙。それを破ってそう言ったのが黒子っちだった。
 オレ自身も、多分黒子っちだって、他人と三人で暮らすことに不安を抱えていただろう。だけど、誰よりも不安だったのは間違いなく女性である桃っちなのだ。
 よろしくお願いします、と言って笑った彼の笑顔は控えめだったけど、それはきっと、女の子が恋に落ちるには充分すぎるものだったのだと思う。頷いて笑った彼女の横顔は、さっき相談があると言った時の彼女と同じ色をしていたから。
 でもこれはきっかけにすぎなくて、この後彼の舞台を見に行った時の彼の圧倒的な演技や、影の薄さと正反対の男らしい性格に接して、桃っちの「好き」はどんどん大きくなっていった。二人と一番近くにいたオレが言うのだから間違いない。

「うん、そっか」
「……驚かないんだね」
「まぁ、気付いてたし」

 やっぱり? と言って笑う桃っちは本当に可愛かった。
 アイドルは夢を売る仕事だよね、桃っちがそう言っていたのはいつのことだっただろうか。同居し始めてすぐに料理が壊滅的だということがわかった桃っちは、洗い物担当になった。その日の食事当番だった黒子っちがお風呂に入っている間、彼女が洗った食器をタオルで拭いていたオレに言うでもなく、独り言のように呟いたことがあった。
 その声音が嫌に真剣なもので、少しだけ驚いて隣の彼女を見ると、桃っちは視線を伏せたまま唇をきゅっと引き結んでいた。まるで、何かを堪える様に。
 オレ達は男女混合ユニットだ。だから、他のアイドルたちよりも、ずっと異性間のいざこざには気を付けなければならない。桃っちのファンの中にはオレや黒子っちのことを面白く思わない奴もいるだろうし、逆も然り。何より、この三人という狭いコミュニティーで特定の相手に特別な感情を抱くことは、せっかく築きかけている絆を壊してしまいかねない。
 彼女の気持ちを何となく察することはできたが、それでもオレは「そっスね」なんて間抜けな返事を返すことしかできなかったことを思い出す。
 あれから一年近くが経った。桃っちが可愛くて頭が良くてちょっとずれてるところもなるけど、一途で周りのことをよく見て考えてる子だっていうことは充分すぎる程に知っている。そして、彼女が黒子っちのことをどれだけ好きで、その気持ちを殺してしまおうと我慢してたことも、なんとなくだけど分かってた。

「ごめんね、こんなこときーちゃんに言うのは卑怯だって分かってたんだけど、もうね」

 桃っちが声を詰まらせる。肩が小刻みに震えていた。

「つらいよ」

 桃っちは声を押し殺して泣いていた。オレはと言うと、そんな彼女に掛ける言葉を見つけられることも出来ず、あの日のように「そっか」と間抜けな返事をすることしかできない。

「三人でデビューできた。こうして初コンサートも成功した。ファンも増えてきてる。今こんなこと言ってる場合じゃないの、頭では分かってるの」
「うん」
「テツ君優しいから、気付かれたら絶対に迷惑かけちゃう。でも、諦めれられないんだよぉ」
「……うん」

 言葉を紡ぐのをやめて、顔を両手で覆い隠す。小さく漏れる嗚咽に、自然と手が動いた。

「桃っち可愛いっスもん。桃っちに好かれて嫌な男なんていないっスよ」
「でも……っ」
「大丈夫、桃っちが黒子っちの良いところをたくさん知ってるみたいに、黒子っちも桃っちの良いところ、たくさん知ってるはずだから」

オレ、応援してるから。そう言って薄桃色の頭をなるべく優しく撫でると、嗚咽が大きくなる。それでも撫でることをやめずに、そのままどのくらい経っただろうか。いつの間にか嗚咽がおさまっていた桃っちが顔を上げてにこりと笑った。目尻はまだ赤いままだ。

「ありがとう、きーちゃん」

 そう言った彼女の表情は明るかった。顔を洗ってくるという彼女の背中を見送り、何故だかすぐに打ち上げ会場に戻る気にはなれなくて、オレはしばらくそのままウエイティングルームで一人ぼんやりと座っていた。
 桃っちの気持ちには気が付いていた。黒子っちのことが好きなことも、その気持ちを諦めようとして苦しんでいることも。
オレ達はアイドルだ。信頼できる仲間と必死に頑張って、ようやく軌道にのることができた。もしその気持ちがばれたらどうなるのか。大好きな二人だ、幸せになって欲しいとは思う。だけど、すんなりとうまくいくとは思えない。
 桃っちの気持ちを知った時、黒子っちはどんな反応を示すのだろうか。
 初めて黒子っちの舞台を見に行った時のことを思い出した。普段は隣にいても気が付かないほど存在感の薄い彼なのに、一度舞台の中心に立つと周囲の雰囲気が彼に飲みこまれるほどに黒子っちしか見えなくなる。透明で何者でもない彼は何者にでもなれるのだと、その時初めてオレは悟った。彼の存在をそのまま具現化した様な透明な歌声で紡がれる劇中歌は耳に心地よくて、いつまででも聴いていたいと感じる程だった。彼の一挙手一投足から目が離せなくなる。もっと彼のことを見ていたくなる。もっと彼のことが知りたくなる。もっと彼の声が聞きたくなる。彼の演技には、不思議な魅力があった。気が付けば桃っちと二人して大号泣していて、舞台終了後に押しかけた楽屋で苦笑いしていた黒子っちの表情だって鮮明に思い出せる。
 いつだってオレと桃っちの一歩後ろにいて、でも振り向けば笑って見ていてくれる。彼の存在は酷く心地が良い。
 主張しないのかと思えば頑固だし、案外はっきりと物事を口にするし、普段はやっぱり影が薄いけど、居て欲しい時には黙って隣に居てくれる。そんな人だった。真面目でフェミニストで、絶対に浮気なんかしないだろう。オレが女なら、きっと彼に惚れていたと思う。センスが良いとは思ってたけど、桃っちの男の趣味は最高だ。
 さっき、桃っちに伝えた言葉に嘘は一つもない。一つもないのだけれど、黒子っちが桃っちを受け入れた時のことを考えると、少しだけ心臓の奥が痛んだ。なんだろう、この痛みは。せっかく三人でやってきたのに、オレ一人だけ除け者みたいになることへの寂しさだろうか。確かに、二人が付き合いだしたら少しだけ寂しいかもしれない。だけど、周囲に二人の仲がばれないようにするにはオレの協力が必要不可欠だろうし、寂しいなんて言っている余裕はないのだ。

「黄瀬君」

 ……本当に、普段の彼は影が薄い。
声を掛けられて初めて、黒子っちが隣に座っていたことに気が付いた。オレの方を見るでもなく、前を見たまま淡々とした声で語りかけてくる彼の声は相変わらず耳にすんなりと馴染む。
 余計な詮索をしない彼に「ちょっと酔っちゃって」と下手くそな言い訳をした。それに対しても彼はそうですか、と言ったきり何も言わない。でもそれは決してぶっきらぼうなんじゃなくて、その証拠に彼の隣はとても居心地が良くて、それは少しだけ腹の底が浮くようなふわふわとした感覚を伴っていた。
 ちらりと横目で盗み見た黒子っちの横顔はその感情を窺わせない。存外に気性が荒い癖に、こうしてぱっと見ただけではまるで聖人君子みたいに性の匂いを感じさせないストイックさがある。

「今日はお疲れさまでした」
「うん、黒子っちもお疲れ様」
「今日の黄瀬君、とてもかっこよかったです」

 そう言いながら、体温の低い掌が後頭部に触れた。さっき、オレが桃っちにやっていたように、優しく頭を撫でてくれるその感覚に不意に泣きそうになった。

「ありがと、黒子っちもかっこよかったっスよ」

 多分、たぶんだけど、人の機微に聡い黒子っちのことだ。咄嗟に取り繕いはしたけれどオレが落ち込んでるのに気付いて、こうして彼なりに慰めてくれているのだろう。いつもそうだ。彼はその存在感の薄さでもって、するりとデリケートな部分に入り込んでくる。彼の隣に居ると、心の奥の柔らかい部分をそのままそっと触って撫でてくれるような、そんな感覚をいつも味わう。本当に、凄い人だと思う。
 オレの方を真っ直ぐに見ていた彼に視線を合わせてにへらと相好を崩すと、黒子っちも柔く笑んでくれる。それに釣られて、オレも笑みを深くした。黒子っちの笑顔は、人を幸せにする力を持っている。
 撫でられるのが気持ち良くてしばらくそのままにされていると、「あー!」と言う叫び声が聞こえた。

「きーちゃんずるい! 私もテツ君になでなでされたい!」

 さっきまで泣いていたとは思えない桃っちの言動に、思わず笑いが零れる。黒子っちがはいはい、と言いながら桃っちの頭を撫でると、みるみるうちに彼女の頬が赤く染まっていく。今にも泣きだしそうだが、それは先ほどの涙とは種類が違うことくらいはすぐに分かった。泣いて、思いを口にして、少しはすっきりしたのだろうか。桃っちの黒子っちへの態度が、今までよりも自然なものになっている気がする。
 
「桃井さんも今日はお疲れ様でした。とても素敵でしたよ」
「へへ、ありがとう。テツ君もすっごくかっこよかったよ」

 2人を取り巻く空気は柔らかい。実際のところ、桃っちの気持ちは見ていてすぐに分かるのだが、黒子っちの気持ちは全くわからない。桃っちのことを信頼しているのは感じるし、仲間として好意を寄せているのも分かるのだが、恋愛対象として見ているかと言われればそうとも思えない。ストイックに見えても、所詮男だ。黒子っちだって恋もすれば、劣情に駆られることもあるだろう。でもどうしても、恋愛に溺れる様が想像できない。

「ねぇ、テツ君。なんで今日の自己紹介で自分のこと黒子って言ったの? 黒子っちってあだ名にしようって言ってたのに」
「あ、それオレも思ったっス」
「……黄瀬君みたいで恥ずかしかったので」
「え、ひどっ」

 平然と言ってのける黒子っちに大げさに泣きつけば、うるさいです、と距離を取られる。さっきまであんなに優しかったのに、もういつもの素っ気ない黒子っちに戻ってしまっていて、それが少しだけ残念だった。
 オレ達のやり取りを見てけらけら笑っていた桃っちが、思いついたように手を叩く。

「じゃあ、くろてつって言うのはどう?」
「黒子テツヤを略してっスか?」
「うん。それに、私ときーちゃんの呼び方の黒子っちとテツ君を合わせたあだ名でもあるし、どうかな?」
「ぴったりじゃないっスか! いぶし銀って感じで!」
「強そうですね。アイドルっぽくはないけど、良いと思います」

 黒子っちが微笑むと、一気に桃っちの表情が明るくなる。桃っちの笑顔は周りを明るくする。今はまだスタイルの良さと色気ばかりが注目されて男性ファンが多いけど、中身を知ってもらえれば女の子のファンも増えるんじゃないかと、オレは密かに思っている。

「じゃあ決まりね! くろてつ君」
「はい、決めてくださってありがとうございます。さっち」
「うわ、さっち顔真っ赤っスよ」
「もー、きーちゃんうるさいっ」
「きーちゃんうさいです」
「ひどっ」

 桃っちの恋が成就すればいいなとは思っているけれど、今はまだもう少し、このまま三人でいたい。そんな自分勝手なことをぼんやりと考えていた。
 考えていたのだが。
 変化は得てして突然やって来るもので、それはある日突然、何の前触れもなくやってきたのだった。


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