黒バス | ナノ







 兄ちゃんは頑固だ。それは今も昔も変わらない。
 家を出るまでは、オレと話をしてくれないだろう。ではどうすればいいかと考えて、先月と同じだが毎日手紙を書くことにした。
 前回は栄養ドリンクがメインで、それに一筆添える程度だったが、今回はその手紙がメイン。毎日の出来事、友人たちとの会話や周囲に対してオレがどう考えてどう動いたか、それを認めて、オレの変化を認めてもらおうと考えたのだ。
 口でいくら言ったって真実味がない。行動に移すのがいちばん手っ取り早い。
 この日から、朝早く家を出て夜遅く帰ってくる兄ちゃんへ向けて、オレは毎日手紙を書いた。毎日学校から帰って来てから書いて、兄ちゃんが帰宅する前に部屋のドアに挟めて置く。翌朝、その手紙がなくなっているのを確認するのが新たな日課になった。





『兄ちゃんへ

 お仕事と練習お疲れ様。
本当は顔を見て話したいけど、兄ちゃんが許してくれないだろうから手紙を書きます。
 兄ちゃんが何で怒っていたのか、ちょっと遅いけどやっとわかった気がするよ。オレのために怒ってくれてありがとう。なのになんで怒ってるのか気付くのが遅れてごめんね。
 
 聞いてるかもしれないけど、兄ちゃんの気持ちに気付かないまま、征十郎君にも話しに行ったんだ。兄ちゃんを連れてくのはやめてって。まぁ、だめだったけど。征十郎君に口で勝てるわけないんだけど、それでもそうせずにはいられなかった。

 オレなりにいろいろ考えて、兄ちゃんが許してくれるように、家族以外の人達に対しての態度とか気持ちを変えていこうって思ってる。
 兄ちゃんに許して欲しいからって言うのはもちろんなんだけど、このままじゃだめだなってオレ自身が思ったんだ。
 こんな報告いらないかもしれないけど、オレが兄ちゃんに聞いて欲しいから、手紙を書くことだけは許してね。

 栄養ドリンク、征十郎君の分と2本置いときます。これに頼りすぎるのは良くないけど、速攻性あるし疲れた時の応急処置にでもして下さい。

 じゃあ、おやすみなさい。
 
涼太』





『兄ちゃんへ

 練習お疲れ様。
 オレも今日は部活の練習だった。相変わらず青峰っちには勝てないけど、それでもやっぱりあの人は憧れのプレイヤーだから、一緒にプレイするのは楽しい。絶対にいつか勝ってやる!

 練習は午前だけだったから、午後は仕事行ってきたよ。
 ここ最近はバスケ中心にしてたから久しぶりの仕事だったんだけど、みんな待ってたよ、って迎えてくれた。仕事関係の人達って、利害関係? だけで繋がってると思ってたけど、オレが変わったらそれも変わるのかな。
 再来月号の表紙撮影だったから、みんな気合入ってた。
 やっぱり表紙だと力の入り方が違うんだよね。みんな真剣で、なんかバスケに似てるなって思った。

 今日は飲み会だって母さんから聞いたから、ウコン買ってきたよ。でもこれって、酒飲む前に飲まなきゃ効果ないんだっけ? だとしたらごめん。
 征十郎君お酒弱いから2本買ってきた。顔に出ないって得なんだか損なんだかわかんないね。

涼太』





『兄ちゃんへ

 お仕事と練習お疲れ様。
 次の試合は来週だっけ? 征十郎君と兄ちゃんがいるから負けることはないと思うけど、頑張ってね。応援してる。

 放課後、部活行く前に女の子に呼び出されてついてったら告白された。全然知らない子で、話したこともないのにどうしてオレのこと好きになったんだろう? 顔?
 けっこう可愛い子だったんだけど、今は付き合うとかそういうの考えられないからごめんって謝ったら、泣きながらお礼言われたよ。
振ったのにお礼言われたのは初めてかもしれない。
そう言えば今まではどう言って断ってたんだっけ、って思い返してみたら、付き合うのは無理だけど友達なら良いよって告ってきた子みんなに言ってた気がする。今考えたら、なんかろくでなしっぽいね……

栄養ドリンク飲み過ぎても身体に良くないと思うから、お菓子置いておきます。新商品なんだって。マネの子たちがこれおいしいよ、って教えてくれたやつだから、きっとおいしいと思う。

じゃあ、おやすみなさい。

涼太』





『兄ちゃんへ

 お仕事と練習お疲れ様!

 今度の日曜、珍しく練習ないからバスケ部の皆でボーリングに行くんだって。
 オレ、こういうのいつも断ってたけど、今回は行ってみようかなって言ったらみんなにびっくりされた。休みの日は仕事か練習か、兄ちゃんたちと一緒にいることがほとんどだったもんなー
 あんまりびっくりされたから、迷惑だった? って聞いたら、桃っち(マネで青峰っちの幼なじみでめちゃくちゃ美人さん)にすっげー喜ばれた。心配かけてたのかなぁ
 桃っちはすげー美人で巨乳でモテるんだけど、料理の腕が壊滅的なんだ。こないだ、調理実習で作ったクッキーから納豆の匂いがした。青峰っちは食べないで捨ててた。だからモテないんだよ……
 桃っちには内緒にしておいてあげた。言ったら多分、青峰っち死ぬ。

 そういや、青峰っちがまた兄ちゃんと征十郎君とバスケやりたいって言ってたよ。
 こうやってちょいちょい会うから兄ちゃんのこと忘れきれないのにね。あれ、これ言っちゃだめだった気がする。まぁ、いっか。

 冷奴風プリンって言うの見つけたから、買ってきたよ。冷蔵庫に入ってるから食べてね。
 お菓子メーカーのチャレンジ精神が間違った方向に向かってる気がする。

涼太』





『兄ちゃんへ

 お仕事と練習お疲れ様。

 初めて女の子に殴られた。
 前に一回だけシたことのある子だったんだけど、オレ、顔覚えてなかったんだ。昼休みに一人でいたら寄って来て、またシよって言われて、誰? って言っちゃった。
 グーで殴られたけど、自業自得だよね。しばらく撮影入ってなくて良かった。
 先週告ってくれた女の子は、初めて見る子ではあったけど、顔はちゃんと覚えた。なのに、その子のことは覚えてなかったんだ。
 あの時のオレは、何を考えて、何を見ていたんだろう。
 兄ちゃんが怒るのも仕方ないね。バカな弟でごめんなさい。

 暇だったからブラウニー作った。良かったら食べて下さい。けっこう上手く出来たと思う。オレって結構女子力高いかもしれない。

涼太』





『兄ちゃんへ

練習お疲れ様。

 今日はこないだ書いたバスケ部のみんなでボーリング行ってきたよ。
 こういうのに参加するの初めてで、楽しめるかなって思ってたけど、結構楽しかった。
 普段はバスケのことくらいしか話さないけど、喋ってみたらみんな良い奴で、今まで損してたなーって思った。
 青峰っちは投げる時力いっぱい投げるからガーター連発してたんだけど(めっちゃきれてた、怖かった)、先輩が教えたらすぐにうまくなってた。勉強もこうなら良いのにね。
 隣のレーンでプロが投げてたから、それ真似して投げてたらオレが一番になった! 一等の商品ね、って言って毛玉取りもらったよ。正直いらないけど、でもそれがまた楽しくて、嬉しかった。

 帰りにマジバ寄ってみんなで話してたら、先輩に「こう言う集まり嫌いだと思ってたから来てくれて嬉しい。ありがとう」って言われた。
 ちょっと感動して涙目になってたら、青峰っちに指さして笑われた。

 明日試合だね。本当は応援に行きたいけど、行ったら話しかけたくなっちゃうから我慢する。頑張って。

 色んな人と話したり遊んだりするのもすごく楽しいけど、やっぱり兄ちゃんと話せないのは寂しい。

涼太』





 よく晴れた日曜の朝。
 いつもより少しだけ早く目を覚まして、カーテンを開けてから伸びをする。携帯のディスプレイで時間を確認すると、あと1時間で兄ちゃんの試合開始の時間だった。
 手紙ではああ言ったけど、本当はこっそり見に行くつもりでいる。会場の場所は母さんが聞いてないのに教えてくれたし、兄ちゃんのチームは征十郎君の加入で今注目を集めているからギャラリーも多いだろう。隠れるのに苦労はしなさそうだ。
 顔バレして騒ぎになるのは困るから、伊達眼鏡に帽子を深くかぶって家を出る。電車で6駅、駅から歩いて10分のところに会場はある。席が埋まっていたから吊革につかまって流れて行く景色を見つめていた。だんだんと木々が増えて、車窓が緑色に染まっていく。会場は大きな公園と隣接しているから、車内には家族連れも多く見られた。
 今頃2人は着替え終えて、征十郎君が作戦をチームメイトに伝えている頃だろうか。全国屈指のポイントガードである彼が、入社2カ月にして既に指揮権を持っているのを聞いた時、さすがとは思えど驚きはなかった。本質を見抜く目をもつ彼は、選手のポテンシャルを最大限に引き出しながら、一人ひとりをパズルのピースのように埋めていき、一つの絵にしていく。
全国のプロチームがこぞって征十郎君を欲しがった。それでも、征十郎君が選んだのは、大好きなバスケをするのに最高の環境ではなくて、兄ちゃんと一緒にいる今だった。
そんな征十郎君に嫉妬をしたこともあった。いや、今だって嫉妬している。オレがもし、兄ちゃんの弟ではなかったら。そうしたら、征十郎君よりもオレの方が兄ちゃんと近くにいることができたんじゃないかって。バカなことだってわかってるけど、それでも何回も考えた。
でも、もしオレが弟じゃなかったら、あの幼い頃の思い出が全部なかったことになって、泣く度にオレを撫でてくれた手のぬくもりがなかったってことになって、それを考えるだけで涙腺が緩みそうになる。
結局のところ、弟で良かったのか、そうでないのか、その結論を出せないままただ時間だけが過ぎていった。そんな結論出したところで、事実が覆る訳がないのだけれど、それでも考えずにはいられないオレは本当にバカだ。
目的の駅で降りて、公園の中を通って会場へと向かう。もう試合開始の時刻だ。伊達眼鏡を探していて、少し遅れてしまった。
会場へと向かう人の流れは決して多くない。速足で人混みを縫って、会場へと急いだ。
会場に足を踏み入れた途端に湧きあがる声援が耳をつきさく。社会人チームの試合としては異例の客入りで、会場は観客の熱気で溢れている。コートを見下ろせば自然と目につく赤い頭。
観客の視線が征十郎君を追いかけて動く。彼の一挙手一投足に大勢の人間が見惚れ、歓喜し、声援を送る。征十郎君にとっては、この会場すらもホームでしかないのだ。どんな環境に置かれていても、観衆が彼を脇役でいることを許さない。そして、それさえも彼の思い通りなのである。
視線を彷徨わせて兄ちゃんを探すと、すぐに黒のユニフォームを着て身体を伸ばしているのを見つける。監督が選手交代を申請し、ガタイの良い選手と入れ替わりで兄ちゃんがコートに入った。
兄ちゃんが出ても、観客の視線は相も変わらず征十郎君を追いかけている。視線を一人で集めるから、影の薄い兄ちゃんのパスはまるで魔法みたいにどこからか現れて気付いたら点が入っている。これを繰り返しても尚、兄ちゃんが観客の視線を集めることはなかった。

「本当は、テツヤのパートナーにはパワーフォワードが望ましいんだけど」

 いつだったか、征十郎君がぽつりと零した言葉を思い出す。彼にしては珍しく、言うつもりがなかった言葉がふいに口を吐いて出てしまったようで、え、と驚くオレを見て困ったように小さく笑った顔が印象的だった。
 兄ちゃんの存在感の薄さを生かしてパス回しに特化したスタイルは、時として「影」と例えられた。だから、その「影」を活かすには、強烈な「光」――つまり、バスケの花形であるダンクを連発できる様なパワープフォワードこそが相応しい。征十郎君はそう考えていたようだった。
 確かにそれは真理だと思う。
 征十郎君の世代にも優れた選手はたくさんいて、幾度となく兄ちゃんは彼らにパスを回した。その度に対戦相手や観客は、まるで手品でも見せられたみたいにただただ呆けるのだ。
 だが、それでも兄ちゃんの「光」は征十郎君だった。
 なんてことはない、依存しているのは征十郎君だけではないのだ。兄ちゃんだって、征十郎君がいなくちゃ生きていけない。
 悔しいな。けど、認めざるを得ない。
 黒いユニフォームを纏った選手の放ったボールは綺麗な放物線を描いて、試合終了を告げるブザーと共にゴールに落ちる。スコアボードにはほぼダブルスコアとなる点数が表示されていた。





 すぐに家に帰る気にはなれなくて、隣接した公園の噴水の前でぼんやりと呆けていたら、気が付いた時には日が傾き始めていた。
 のそのそと動き出し、下りの電車に乗る。何の気はなしに車窓から景色を眺めていれば、すぐに地元の駅へと到着する。最寄駅から自宅までは徒歩で10分弱だ。
 今頃2人は、チームメイトたちと祝勝会でもあげているのだろうか。もしかしたら、不完全燃焼だった征十郎君は練習をしているかもしれない。いずれにせよ、明日は仕事なのだから早めに切り上げて帰ってきてくれるといいのだが。
 ゆっくりと歩みを進め、普段の1,5倍の時間をかけて自宅付近まで辿りついた。交差点を曲がれば、すぐに自宅が見える。
 が、今日は交差点を曲がって一番に目に飛び込んできたのが、見慣れたシルバーのセダンだった。

「遅いですよ、涼太」

 車体に背中を凭れていた兄ちゃんが、オレに気付くといつもみたいに笑ってくれた。なんだ、これ。あんなに望んでいたことなのに、唐突過ぎて思考がついていかない。
 ほら、乗って、と自然に腕を掴まれて後部座席に押し込まれる。バックミラー越しに目が合った征十郎君に、「おかえり」と言われてもただいま、と返すのが精いっぱいだ。
 困惑するオレを押し遣って、兄ちゃんは後部座席に並んで座る。この車に乗る時は兄ちゃんが助手席に乗ることが暗黙のルールだったから、隣にいる兄ちゃんに違和感を感じた。
 不意に手を掴まれて隣を見ると、兄ちゃんがオレの手に自分のそれを重ねて柔らかく笑んでいた。兄ちゃんだ、兄ちゃんがオレに笑ってくれている。

「試合、見に来てくれてありがとう」
「え、なんで知って」
「涼太はどこにいたって目立ちますから」
「変装したくらいで、テツヤが涼太を見つけられないわけないだろう?」

 2人がくつくつと笑う涼太は分かりやすいんですよ、と兄ちゃんが言うと、それに答える様に征十郎君も笑いを深めて、エンジンをかけた。
 スムーズに動き出した車は、来た道を戻って、最寄りの駅を通り越していく。どこに行くの? と聞いても、着けば分かります、と答えてくれようとしない。征十郎君が何を考えているのか分からないのはいつものことなのだが、今は兄ちゃんの考えさえも全く分からない。ただ、二週間ぶりの兄ちゃんの体温と存在感に幸福で目頭が熱くなるだけだ。
 車で走ること20分。ここだよ、と言って降ろされたのは、知らないマンションの前だった。
 比較的新しく見えるそこは、真正面に大型スーパーがあるが、それほど人通りが多くない通りに面していた。見上げれば、好評分譲中を書いた横断幕がぶら下がっている。
 エントランスをくぐって、征十郎君が自動ドアをキーで開ける。促されて着いていくと、更にその先が何棟かに分かれていて、各棟に入るのに更にキーでのロック解除が必要なようだ。セキュリティーはしっかりしているように見える。
 エレベーターに乗り、9階で降りると、角部屋の一室に2人は入っていく。
 ここまで来て、ようやくここが二人の新居だということを察したオレは、入るのを躊躇った。それでも、兄ちゃんは戸惑うオレの背中を押して、部屋に入ることを促す。
 南向きの大きな窓から差し込む光が、もう夕方を過ぎた時分だと言うのに部屋を充分に明るくさせていた。まだ家具の置かれていない空間は寒々しいく感じたが、白い壁にフローリングのその部屋は広々としていて、二人で暮らすには行く分大きい様にも見える。
 2人の意図が分からずにきょろきょろと室内を見ていると、征十郎君に気に入ったかい? と聞かれた。気にいるも何も、いきなり二人の新居に連れてこられても反応に困る。
 母音だけで答えを誤魔化すと、二人はまた目を合わせて楽しそうに笑った。

「もっと広いところの方がいいのか? わがままな奴だな」
「涼太の家なんだから、ちゃんと意見を言わないとだめですよ」
「……オレ? 2人のじゃなくて?」

 2人の言わんとすることの意味が理解できなくて、何度か瞬きをする。二人の笑顔は、悪戯が成功した時の子供の顔だった。

「涼太、毎日手紙ありがとう。涼太が頑張ってくれて、兄ちゃんは本当に嬉しいよ」
「兄ちゃん、」
「もう心配しなくても大丈夫そうだから、頑張ったご褒美に新しい部屋をあげます」
「学校はちょっと遠くなるけど、文句はないだろう?」

南向きの大きな窓から差し込む光が、もう夕方を過ぎた時分だと言うのに部屋を充分に明るくさせていた。まだ家具の置かれていない空間は寒々しいく感じたが、白い壁にフローリングのその部屋は広々としていて、二人で暮らすには行く分大きい様にも見える。そりゃそうだ。初めから三人で暮らすつもりで借りた部屋なんだから。

「本当にいいの? オレが一緒に住んでも」
「当たり前じゃないですか。ボクだって、涼太と離れるのは寂しいんですよ」
「僕にとっても涼太は弟みたいなものだからね」
「これからもよろしくお願いします、涼太」

 じんわりと視界が滲む。
 覚悟はしていたが、兄ちゃんが家を出たならば、オレはきっと抜け殻みたいになっていたと思う。いつかは別れが来るとしても、まだ一緒に居たい。弟として生まれたことに苦しさを感じたことはあっても、それを恨んだことは一度だってないのだ。





*涼太君と征十郎君

 隣を歩く征十郎くんにどうしても聞きたかったことを思い切って聞いてみた。

「本当にオレが一緒に住んでも良かったの?」
「涼太は僕に同居を反対されたいの?」
「そうじゃないけど……だって、征十郎君、オレの兄ちゃん好きはいきすぎてるって言って、」
「ああ、あれ? そのくらいの意趣返しは許されるとおもったんだけど」
「意趣返し?」
「やきもちやいてるのが、自分だけだなんて思わない方が良いよ」

 そう言って征十郎君は恐ろしいくらい綺麗な笑みを浮かべた。
 それってつまり、オレと同じように征十郎君もオレにやきもちやいてたってこと?
 オレから見たら、征十郎君は完璧で、しかも兄ちゃんの一番近くにいる人なんだけど、征十郎君から見たオレはどう見えているのだろうか。

「ああ、でも」

 ぐるぐると考えていると、征十郎君が言葉を続けた。
 彼を見ると、先ほどを寸分違わぬうっとりとするような笑みを浮かべてこう言った。

「邪魔したら、涼太でも殺すよ」

 ……何を、なんて聞ける訳もない。
 オレはただただ壊れたおもちゃの様に首を縦に振り続けるのであった。



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