黒バス | ナノ




赤司さんと黒子君


*赤司さんと黒子君



 眠る赤司を起こさないようにと気を張っていたが、そろそろ限界かもしれない。
 眠りの浅い彼女だが、黒子の側では熟睡できるそうで、彼女の昼寝に付き合わされるのは多々あることだった。黒子は女子バスケ部のマネージャーとして、選手であり主将である赤司の為ならばそれもやぶさかではなかったのだが、今日ばかりは音をあげそうだ。
 授業中の屋上、日陰になる給水塔に凭れて座る黒子の正面から向かい合って抱きつくようにして眠る赤司に、黒子はほとほと困り果てていた。



「……何してるんだ?」

 彼女を女帝と恐れる者が聞いたならば、その場で土下座をしそうな地を這うような声で、彼女は言った。
 だが相手は、赤司に絶対服従ではあるものの大抵のことには動じない紫原と、彼女の唯一の弱みである黒子だ。二人は赤司の機嫌が最低だということを悟りはしたけれど、それに対して恐れたり慌てたりすることはなかった。
 瞬時に絶対的君主の意図を汲んだ紫原は黒子から身体を離し、また後でねー、と呑気に言いながら教室へと戻って行った。
 座ったままの黒子の側に立つ赤司の顔を見上げると、その顔は逆光で良く見えなかったが、心なしかいつもよりも青白く見えた。確か、今日の昼休みは予算会議があったはず。女バスに多くの部費をまわす為に、陰でえげつないことをしていたのだろうと言うことは想像に容易かった。その為に昨晩も睡眠を削ったのだろう。
 無言で黒子を見下ろす彼女に、自分の隣をぽんぽんと軽く叩いて座れと促すが、首を振って拒絶される。いつもは読書をする黒子の隣に座って肩に凭れかかるか、黒子の膝を枕にして寝るのだが、今日はどうしのただろうか。赤司の意図が読めずに赤い相貌を見つめていると、彼女が覆いかぶさって来るものだから、思わず彼女の両肩を抑えてそれを食い止めた。

「何する気ですか!」
「何って、昼寝だよ」

 あっさりとそう言うと、黒子に向いあった状態で膝の上にまたがり、首筋に顔を埋めてそのまま動かなくなった。今日は厄日か、と自分の不幸を嘆いたが静かな寝息が聞こえてきたのをきっかけに、振り回されるのもいつものことか、と早々に現状を諦めた。適応能力の高さに関しては、中学生男子の平均を大きく上回っていると言う自負がある。優しくあやす様に背中を叩けば、猫みたいに身体を摺り寄せてくる。少しならこのままでいいか、と思ったのだが、それが甘かった。
 午後の授業が始まって、5時間目の終わりを告げるチャイムが鳴り、6時間目が始まってもう後10分もすれば今日の授業が全て終わる。足のしびれはとうの昔に限界を迎えて、もう既に感覚がない。コンクリートの壁に凭れた背中もぎしぎしと痛む。何より、必要以上に密着した赤司から、甘い香りがするのが辛かった。寝ている所為で常よりも体温が高い為か、清潔な、けれど女性らしい柔らかい香りが風が吹く度にふわりと香る。憎からず思っている相手にこんなに無防備に接触されて、理性を保てと言う方が難しい。
 つらい、もういい加減にしてほしい。

「赤司さん、もういい加減に起きて下さい。部活始まりますよ」
「ん……、あと3分だけ」

 うわ言のように呟きながら、赤司は身体を一層摺り寄せてくる。柔らかい感触に、心臓が止まりそうだ。

「テツヤ、」

 腕の中の少女が呟く。他人の前では「黒子」と呼ぶ彼女が、二人の時にだけ使うその呼称には甘えが含まれていて、いつも気ばかりを張っている小さな身体をそっと抱きしめた。

「ずっとそばにいて」
「、君が望むなら」

 彼女は、幼い頃に一度だけ黒子と遊んだことがあると言った。未だにその記憶は思い出すことが出来ずにいるのだが、それでも彼女のことは昔から知っていた様な気がしている。自分の未来の為に策ばかりを巡らせるその頭脳が、黒子を絡め取る為になんらかの謀略を練っていたことも、何となくだが気付いている。
 それでも、彼女が絶望する黒子を救ってくれたことに変わりはない。
 そばにいて、と彼女が望む限りはずっと隣に居たい。願わくば、彼女に普遍的な幸福が舞い降りますように。
 そう願いながら、夕日を浴びて淡いオレンジ色に染まった赤毛にそっと口付けた。


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