雑記 | ナノ



ハンカチ←黄瀬
2012/11/02 16:46

 恋愛はするものではなく落ちるものだと誰かが言った。まさにそれは正解で、オレもまたご多分にもれず、ある日突然頭からまっさかさまに落ちて後頭部をしたたか打ちつけたその恋は、世間一般には決して理解されないものだった。
「アイロンかけるね、熱かったら言って」
 話しかけても言葉が返って来ることがないのはわかっているのに、それでも毎晩のアイロンかけの際にこの白いハンカチに言葉をかけるのが慣例化してしまった。スチームでゆっくりと皺を伸ばしていくと、まるで快楽を感じた女が足の指をぴんと伸ばすように布が伸びていく。それを見て、自然と口の中にたまる唾を飲み込んだ。

 無機物であるハンカチに恋に落ちるなんて、誰が予想できたろうか。
 長い間元チームメイトに報われない片思いを続け、影から他の男といちゃつく彼を見守りながらハンカチを噛みしめているうちにオレにはこのハンカチしかいないことを悟ってしまった。
 彼に未練がんないと言えば嘘になる。だがしかし、今はこのい手触りの良い高級品の彼との時間を最優先したい、その気持ちが一番強かった。
 毎日噛みしめていたからところどころ綻んでいる。その痛々しい個所も、オレの行き場のない気持ちを受け入れてくれた結果だと思えば愛しくて仕方がない。ほつれをそっと撫でて、やんわりとハンカチに微笑んで見せた。
「今日は黒子っちの血を拭ってくれてありがとう」
 未だ未練を残す色素の薄い彼が膝から流した血を、このハンカチで拭ってやったことを思い出す。
 ありがとうございます、と柔く微笑まれた表情を思い出し、昔はその笑顔をまともに見ることすら出来なかったことを思った。こうして彼を直視できるようになったのは、まぎれもなくこのハンカチのお陰なのだ。
「ありがとう、本当にありがとう」
 黄瀬は愛おしげに布を撫でる。

 だが、彼はまだ知らない。
 黒子の膝に触れたその布が、その感触に心ひかれていることを……




っていう赤黒←ハンカチ←黄瀬



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