雑記 | ナノ



紅葉サンド
2012/10/14 20:39

もったいないからボツにしたやつ置いときます。途中で終わってる。
これの後に別なの10000字くらい書いたけどそれもまとまらなくて、なんか紅葉サンド鬼門なのかな…
読み返してないから多分すごくあれな感じかもしれない




 黄瀬と黒子は幼なじみである。
 産まれた時からお隣に住んでいて、幼稚園に小学校、中学に至る今までずっと隣にいた。クラスが離れたこともあったが登下校は必ず一緒にして、休日はお互いの家を行き来する。顔を合わせない日なんて、年に一週間あるかないか、そのレベルでずっと一緒にいた。
 そんな二人だから、周りからも二人でワンペアのように扱われている。異常なくらい影が薄くて存在感がない黒子だが、黄瀬を目印にすれば黒子を見つけることが出来たし、逆もまた然り。
類稀なルックスと運動神経で校内どころか市内の有名人で人気者である黄瀬と、地味で目立たない黒子が一緒にいることを疑問視する人間がいない程、二人はずっとお互いの隣にあり続けた。
「黒子っち、おはよ!」
「黄瀬君、おはようございます」
 毎朝八時に黒子家の呼び鈴を鳴らし、そうすればすぐに黒子が出てくる。ごく自然に肩を並べて歩いて、昨日のテレビの話とか今日の小テストの話をしながら学校へ向かう。中学一年生ではクラスが離れてしまったが、二年生になってからはまた同じクラスになることができた。
 休み時間の度に黒子の席へと移動してくる黄瀬に、黒子の前に座っている生徒はあきれ顔をしながらも席を立ってその時間だけは席を譲ってくれるようになった。
 昼休みになれば二人して教室から離れる。ある日は体育館でバスケをしたり、ある日は裏庭で本読む黒子の隣で黄瀬が昼寝をしていたり。どうにもデコボコでぱっと見は仲が良くなりそうに見えない二人だが、ともに過ごした時間がそのまま二人の絆となっているのだ。
 黄瀬と黒子は、非常に仲がよい幼なじみであった。

 そんな二人には、実は幼少期を共に過ごしたもう一人の幼なじみが存在した。
 赤い髪で年不相応に聡明だった彼は、二人と同い年で、黄瀬家は反対側の黒子家のお隣さんだった。いつも三人で遊びまわって、黄瀬と黒子の面倒を見ていた彼は、同じ年ではあるが二人にとって絶対的な存在でもあった。
 小学二年生にあがる年、彼は両親の都合で海外へと越して行った。黄瀬も黒子も、もちろん彼もそれを随分と嫌がってごねてみたりはしたけれど、どんなに聡明でも所詮は子どもで、彼の言い分は終ぞ認められず、人生八年目にして彼は初めての挫折を味わうことにあったのである。
「俺は必ず戻って来るから。だからそれまで黒子のことを頼むよ、黄瀬」
 そう言って去って行った七歳らしからぬ背中に大きく手を振り続けたことを、今でもたまに思い出す。
 彼の家は貸家になったままで、彼が越してから三組の家族が入居していた。いつか戻ってきたいと言う彼の我儘を両親が聞いてくれたのか、売りには出さなかったらしい。

「赤司君が来週帰国するらしいです」

 いつかは帰ってくるとは思っていたが、それがあまりにも唐突だったので黄瀬は口に含んでいたミネラルウォーターを吹き出してしまった。
 そんな失態にも黒子は動じることなく、ポケットから出したハンカチで黄瀬の頬を拭う。彼は一般家庭で産まれ育ち普通で地味な男子学生でありながら、必ずハンカチを持ち歩く行儀の良さを持っていた。柔らかい物腰も丁寧な話し方も、一部の女子には大変人気があるらしい。だが生憎とその存在感のなさで、彼の魅力に気付く者は多くはないのだが。

「え、聞いてないっス」
「ボクも今朝聞いたばかりです」
「家族で戻って来るんスか?」
「さぁ」

 赤司君の考えることはわかりません。そう言いながら黒子は手の中の文庫本に視線を落とした。だが、その横顔を見れば、無表情な彼なりに顔を綻ばせているのがわかる。
 赤司征十郎、黒子テツヤ、黄瀬涼太は幼なじみだった。
 三軒続いて同じ年に子どもに恵まれたため、両親たちは子どもたちを何かにつけて交流させた。誕生日も七五三も幼稚園の入園式もクリスマスも正月も、三人はずっと一緒だった。両親たちの期待通り、三人はそれは仲の良い友人同士になった。
 大人びた赤司と大人しい黒子と元気な黄瀬。三人はそれぞれ似ていなかったが、だからこそ仲良くなれたのかもしれない。
 ぱらりとページをめくる白い指を、黄瀬はぼんやりと眺めた。その指が本にばかり触れているのが面白くなくて幾分低い位置にある彼の方に頭を預けると、重いですと言いながら押し戻される。それでも負けじと肩に寄り添えば、小さなため息と共に黄瀬を受け入れてくれる。
 黄瀬は、こんな穏やかな黒子との時間が大好きだった。
 黄瀬はモテる。一人でいればたくさんの女の子が我先にと黄瀬を囲んで黄色い悲鳴を上げるが、黄瀬と黒子が幼なじみなのは周知の事実だったから、二人でいる時に邪魔をしてくる人間は少ない。黄瀬が、黒子との時間を邪魔されることを嫌うのを知っている者は少なくないのだ。

「赤司っちかぁ、嬉しいけど怖いっス」
「黄瀬君、いつも怒られてましたもんね」
「赤司っちまじで理不尽っスから……」
「ボクも赤司君が帰って来るのはとても嬉しいです」
「また三人一緒にいれるね」

 そう言って黒子の肩に頭を擦り寄せる様子は、黙っていれば近寄りがたいほどの美貌を年相応に見せる。だが、それを知っているのは黒子だけで、それを知っていたのは赤司だけ。

「あ、そろそろ戻らないと朝のホームルーム始まります」
「え、もうそんな時間? 黒子っちといたら時間があっという間っス」

 あけすけに好意を晒す黄瀬に、黒子は少しだけ呆れた顔をしながらもすぐに小さく微笑んだ。
少し早く学校に登校して、こうしてホームルームまでの時間を非常階段の踊り場で過ごすのが二人の朝の日課だった。人の通らないこの場所は酷く静かで、まだ誰にも汚されていない校内の空気を胃いっぱいに吸いこむのが堪らなく心地よかった。
 黒子が隣にいる穏やかな毎日。それがずっと続くと思っていた。
 だが、その均衡と平穏は、ある日突然崩されることになる。



「転校生の赤司征十郎君だ」

 みんな、仲良くしてやってくれよ、と言う手垢が付いた教師の言葉は黄瀬の耳には届かなかった。
 凛とした佇まい、高身長ではないが堂々とした所作が、彼を実際以上に大きく見せている。赤い髪、左右で色の違う双眸、すっと通った鼻筋は、黄瀬のような派手さはないが見るものをひきつける不思議な存在感を持っていた。そこに立っているだけで思わず目が離せなくなり、自然と彼に従いたくなるような、彼はそこに在るだけで「王者」だった。
 時期外れの転校生にざわつく教室内をゆっくりと見渡した後、赤司が悠然と微笑む。それだけで室内が静まり返った。

「赤司征十郎です。よろしく」

 薄い唇から放たれた声は、まるで青空がそのまま空から降ってきたようだった。女子生徒がぽーっと顔を赤らめ、男子生徒も呆けて彼を見ている。
 幼かった彼の面影はあるが、黄瀬が知っている赤司はもっと傲慢で自分が人の上に立つ人間だと思っていることを隠そうとしない節があった。だが、目の前の彼は違う。自分の魅力にもその見せ方にも気付いていて、だけどそれを悟らせずに人の心にすっと入りこんで自分の下につけてしまう。それを平気でやってのける種類の人間だ。

「赤司っち」

 思わず零れた言葉に、赤司はすぐに反応した。

「涼太、久しぶりだね」







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