雑記 | ナノ



デート黄黒ちゃん
2012/09/23 02:25

 久しぶりのオフだからどこかに出かけようと提案してきたのは黄瀬だった。
 黒子は部活、黄瀬は部活とモデル業で多忙を極め、時間を合わせることは難しい。メールでもやりとりが殆どで、電話をする時間をとれない日だってある。そんな二人だから、一日中一緒にいられる日と言うは貴重で、だからこそ黒子だって2週間前からこの日を楽しみにしていた。黄瀬だって、同じように思ってくれている、と思う。
 アラームよりも早く目が覚めてしまって、だからと言っておしゃれに無頓着な黒子が身なりに掛ける時間は少ないから、やることもなくて時間を持て余してしまう。好きな人を待っている時間も楽しいかな、と待ち合わせ時間にはまだ早いが家を出ることにした。
 自分の思考が恋する乙女のそれになりつつあることには気付いていた。自分が誰かを好きになるなんて想像も出来なかったし、純粋で真っ直ぐな好意を向けてくれる彼に徐々に惹かれてこの感情を自覚した時だって、戸惑う気持ちはあったものの、すぐにそれを呑みこむだけの思い切りはあった。
 なのに、黄瀬のことを知って、黄瀬のことを好きになる度に自分はどんどん女々しくなっていく。知らず変わっていく自分に、黒子は焦燥感を抱いていた。
「黒子っちのまっすぐなところが好きっス」
 いつかそう言ってくれた彼の言葉を思い出す。
 今の自分は、黄瀬を好きになる前の自分ではない。黄瀬が好きになってくれた自分ではない。
 こんな自分を悟られたら、愛想を尽かされてしまうのではないか。そう考えるだけで足が竦む。最早、黒子にとって黄瀬はバスケの次に大切な存在なのだ。
 もやもやした気持ちを抱えながら、それでも彼と早く会いたくて、必死で足を動かす。待ち合わせの時間までは三十分以上ある。読みかけの小説を読んで彼のことを待とう。
そう考えていたのだが、待ち合わせの駅で一際人目を引く金糸に気付いて心臓が止まりそうになった。
「あ、黒子っちー!」
 出会った頃は黒子の存在に気付かず、突然声をかけて驚かせることもしばしばだったが、今では黄瀬の方から黒子を見つけることも珍しくない。黄瀬は黙っていれば怜悧にすら見える美貌を崩し、人懐っこい笑顔で手を振ってきた。
 まだ三十分は会えないと思っていた思い人が目の前にいる。その事実が、黒子の胸をどうしようもなく締め付ける。苦しい、でも心地好い。
「黄瀬君、随分早いですね」
 ポーカーフェイスを貼り付けてそう答えると、黒子っちに早く会いたくて、と屈託なく返された。
「少しでも長く黒子っちと一緒にいたいんス。オレって女々しいスかね?」
 なんだ、彼も同じなんだ。
 胸を去来する溢れる慕情で、自然と頬が緩む。
 もっと一緒にいたい、もっと近くにいたい、もっと触れていたい。
「黒子っち?」
 俯いて黙り込んだ黒子に、黄瀬が心配げに声をかける。
 もし、君に触れたいから今日の行き先を家に変更しませんか、と言えば彼はどんな反応を見せるのか。そう考えるとくつくつと喉奥に笑いがこみ上げる。
 彼の着ているシャツの裾を掴んで、黒子は自分の意見を告げる為に口を開いた。




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