雑記 | ナノ



お風呂黄黒ちゃん
2012/09/22 23:33

 たっぷりと浴槽に張られたお湯がざあと音を立てて排水溝に吸い込まれていく様を見てもったいないなぁと思っていたのが、無意識のうちに言葉にしてしまっていたらしい。
 頭上からそんな黒子の言葉にふと笑う柔らかい声が聞こえてきて、見上げてみれば案の定、相好を崩した黄瀬が愛おしげな表情で黒子を見つめていた。背後から黒子を抱きしめている黄瀬の腕に、微かに力がこもる。
「何で笑ってるんですか」
「黒子っちがかわいいから」
 出会ってから五年、付き合い始めてもう三年は経過しているというのに、黄瀬はいつまで経ってもこうして黒子のことを上手に甘やかす。今だってそうだ、普段ならゆっくり出来ないからと一緒の入浴を拒む黒子を強引に押し切ったのは、黒子が落ち込んでいることを見抜いてのことに違いない。
 無表情で感情が読めないと言われる黒子の些細な機微にこうして黄瀬が気付くのは、誰よりも近くで誰よりも熱心に黒子を見ているからで、それを考えるだけで黒子の胸はおかしいくらいに跳ね上がった。
 腰に手を回して、つむじに口付けを落としてくる黄瀬の体温は、湯船のお湯よりも熱い。こうしていると、境界線が曖昧になってこのまま一つになってしまいそうだ。もし「そうなれたならどんなにか幸せなことだろう。
「でもそうなったら、黒子っちにキス出来なくなるからいやっス」
 そう言いながら今度は黒子のうなじに口付けを一つ。その際に肌に触れる黄瀬の吐息に、体温が上がっていくのを感じた。
 常ならばすぐに触れたがって、それ以上の行為に持ち込みたがる癖に、今はただ触れるだけのキスを落とすだけだ。全てを忘れてしまいたいのに、黄瀬の優しさは少しばかり歯痒い。
「しないんですか?」
「え?」
「普段なら君、もっと触って来るでしょう」
「あー……。でも、黒子っち元気ないみたいだから、あんまり無理強いはしたくないし」
 何を今更、とため息を吐けば、頭上から自嘲気味な笑い声が聞こえてきた。
 今だって、腰のあたりに感じる違和感は、彼の身体の変化を如実に物語っている。彼は何かにつけて黒子に触れたがる。表面では呆れていても、黒子だってそれが嫌いではない。その変化を指摘すれば、男の子だからそれは仕方ないの! と必死に訴えられて、はぁと気の抜けた返事を返すことしかできない。
「今日は二人でくっついて、ゆっくり寝よ?」
 そう言った黄瀬に体重を預け、たまにはこういうのも良いかと目を閉じた。




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