コンコン、とドアをノックする乾いた音が夜の闇に響いた。すぐに開いた扉に私の口角が上がる。

「おっ、来たな」

ニカッと笑う、彼が好きだ。
私はそんな彼の胸元に飛び込む。危なげなく抱きとめてくれる彼は、どうして私のものじゃないのだろう。

「会いたかった」
「悪いな、予定より三日遅くなった」
「ううん、こうして会えるなら問題ないよ」

頭を撫でてくれる彼の胸に擦り寄った。
三日前、彼と夜を過ごそうと約束していた日の夕方、スマホが鳴った。メールを開けば「今日、ダメになった」という文字。ああ、奥さんの滞在が延びたのだろうと直ぐにわかった。
彼には、奥さんがいる。それでもいいからと彼に縋った結果、今の関係にある。私は彼が好き、彼も私を求めてくれる。それだけで十分だ。
彼の家に入り、ソファーに座る。お茶を入れるためとキッチンに行こうとする彼の白衣を引っ張った。そのままストンとソファーに座った彼の首元に手を伸ばす。

「今日はやけに積極的だな」
「もう、待てないの」

そう言って引き寄せ、彼の唇にかぶりついた。彼の匂い、彼の体温、彼の味。全部全部私が大好きなものだ。彼も抑えきれなくなったのか私の頬に手を添え、唇を、口内を貪る。苦しくて、幸せで、息をするのを忘れてしまいそうな充足感の中、右の頬に触れる彼の“指輪”の冷たさは無視した。

「っは、…シャワー浴びるか?」

唇が離れて、彼がそう言った。

「もう家で浴びてきたから、このまま…」

白衣の合わせ目からするりと胸元に手を差し込んだ。彼の厚い筋肉が私の指を跳ね返す。そのまま吸い寄せられるように彼の胸元に口を寄せた。彼の体に私の“跡”を残したい。すると、顎に指を添えられ上を向かされた。何も考える間もなく、彼の舌が私に入ってくる。心地よい苦しさを感じていると、音を立てて唇が離れ、彼が微笑んで言った。

「シオリ、それはダメ」

彼は普段からラフな格好だから見られると面倒なのだろう。子供たちの教育上もまあ良くない。

「じゃあ見えない場所ならいい?」
「見えない場所?」
「お尻とか」

それを聞いた彼は吹き出したように大笑いをした。

「そんな趣味はないからやめてくれ」

そう言いながらひいひいと笑い続ける彼に私は頬を膨らませた。

「何もそんなに笑うことないじゃない」
「いやだって、まさか尻とは」

まだ笑っている彼の頬に唇を寄せた。

「じゃあ、貴方が私に、沢山残して」

何を、と言わなくても、彼は私の首元に顔を填めた。
ぢゅっ、という音とともに首筋に熱が走る。彼の“跡”が私に残る。それと同時に腰から胸元に彼の手が動いた。

「ベッド行くか」

私から体を離した彼がそう言った。

「やだ、ここでいい」
「ソファーだと、体痛めるだろ」

そう言って私を起こそうとする彼を逆に引き寄せた。

「朝まで奥さんいたんでしょう」
「……ああ」

その顔は、きっと昨日の夜から朝にかけて奥さんとどう過ごしたのか思い出している顔だった。

「その部屋に、私を入れるの?」
「……その方が燃える、って言ったら?」
「馬鹿」

そのままソファーに二人で倒れこみ、触れ合う。彼の背中に手を回すと、彼は私の胸元へ顔を埋め左の乳房を口に含む。右の乳房をゴツゴツした手でやわやわと揉みしだく。

「ねえ、待って」
「何だ?」
「指輪、外して」
「……ああ」

カタン、とテーブルに金属が当たる音がした。もうこれで、彼は私のもの。

手に入らないなんて、分かってる。
それでも、今だけは私のもの。


指輪の跡
それが私のものである証


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