全部全部、彼のためだった。


彼がポケモンのことを好きだから、私もポケモンのことを好きになった。
おじいちゃんがくれたカメラで初めてポケモンを撮った時、それを見て褒めてくれたのが彼だった。
だから私は撮り続けた。また、彼は褒めてくれた。とびきりの笑顔で。
それが私の仕事になった時、本当に幸せだった。彼の大好きなものを撮った私の存在が、アローラのみんなに認められて、私はポケモンフォトグラファーになった。私の撮った写真が、彼の仕事の資料に載った。彼にとっては、取るに足らない報告書だったかもしれない。でも私にとっては人生で一番一番大切な物になった。A4一枚の白黒印刷でも。

私は彼のために撮り続けた。
ポケモンの日常、珍しい行動、人とポケモンの交流。とにかく楽しかった。ポケモンと触れ合うことも、彼とポケモンをファインダーに収めることも。

お前の写真が全然ないな。そう言ってビーチを背景にポケモンに囲まれながら撮られた写真の私は少しブレていて、でも彼が撮ってくれたその写真は宝物だった。

アローラのポケモンを何年もかけて撮り尽くした頃、彼は他の地方の話をしてくれた。
イッシュ地方にはここにはいないポケモンがいるとか、各地方の伝説のポケモンの話とか。楽しそうに話す彼に、私はその全部を見せてあげたかった。
私には、その手段がある。
カメラでその“瞬間”を写真にすればいい。そうすれば、彼はアローラで研究を続けながら他の地方のポケモンと触れ合うことが出来る。

「私、旅に出ようと思うの」

私がそう彼に伝えたのは話を聞いた翌日だった。私の急な言葉にとても驚いたようだった。それはそうだ、私はアローラから出たことがないのだから。
心配する彼に、私は笑顔でこう伝えた。

「メレメレ島だけじゃない、アーカラ島で野宿したこともあるし、ウラウラ島のラナキラマウンテンにも登ったし、ポニ島で島の人と一緒に暮らしたこともあるから大丈夫だよ!」

彼は心配そうにそうか、と言った。

「たくさん写真送るから楽しみにしててね!」

私はその言葉通り、彼にたくさんの写真を送った。イッシュ、カロス、カントーなど様々な地方を回り、たくさんの写真を撮った。コンテストに応募した写真が出版社の目にとまり、何冊か写真集を出すことも出来た。
それを彼に送れば、自分でも買ったとアローラの書店の前で撮った写真を送ってくれた。
時々電話で聞く彼の声が大好きだった。
旅に出てもう何年も経つのに、心配してくれる彼が大好きだった。
私はやると決めたらとことんやるタイプだったから、誰にも甘えないようにと一人で何年も旅を続けていた。そんなある日、出版社から連絡があった。

「シオリさん!おめでとうございます!ポケモンフォトグラファーコンテストで、あなたの写真がグランプリになりました!」

私はあまり世間の情報を持たず、地方の森でひたすらポケモンを撮っていた時期だった。
青天の霹靂とはこのことで、写真集は重版が決まり、あまり使わない口座にどんどんお金が入ってきた。写真集の売り上げの一部はポケモンセンターに寄付していたため、知らぬ間に表彰状が何枚も出版社に送られてきていた。全国のポケモンセンターには私の写真集が置かれ、目にする機会がなかった人達にも知れ渡ることになった。
私はその忙しさに追われながらも、とある決心をしていた。そう、アローラに戻るのだ。
彼のためにたくさん写真を撮ってきた。それが報われた。少しは彼の隣に立っていても、釣り合う女になったのではないだろうか。
そう思いながら、懐かしい道を辿り彼の家に着き、インターホンを押した。
数年ぶりに突然現れた私に彼はとても驚くだろう。そう思った。

「あら?こんにちは」

目の前に現れたのは、白い髪が綺麗で小麦色の肌がしなやかな女性だった。


よなら、イベリス
全部全部、遅かったのね。


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