「お、春原じゃないか」
「…高嶺くん」
「え、栞ちゃん?」
「あ、鈴芽も。どうしたの?」
「今から高嶺くんに勉強教えてもらうのー」

教室を出ようと扉を開けると、廊下に二人が立っていた。この教室になにか用でもあるのだろうか。にこにことしている鈴芽に、私も笑みを溢してしまった。相変わらず仲がよさそうで何よりだ。

「空き教室探しててさ」
「あ、この教室私が出れば空くから使いなよ」
「春原はいいのか?」
「私はもう帰るから大丈夫だよ。鈴芽、頑張ってね」
「ありがとう栞ちゃん、次のテストに向けて頑張るよ!」

それじゃ、と二人に告げて昇降口に向かう。後ろから鈴芽の楽しそうな声が聞こえてきた。私は高嶺くんのことが好き、なんだと思う。だから鈴芽が羨ましい。同じクラスってだけでも妬いてしまう。でも、私が高嶺くんを好きになったきっかけは鈴芽なのだ。モヤモヤする。自分でも嫌になる程の嫉妬心を払いながら帰路についた。







「宿題終わらせようかな」

夕飯も食べ終わり、自分の部屋でケータイをいじっていた。そろそろ宿題を済ませようかと、机に向かい英語の教科書を開いた。その手は自然とあるページを開く。宿題の範囲のページではない。とっくにテストでは終わった範囲のページだ。ここには高嶺くんの字が書いてある。たまたま図書館で勉強して詰まっていた時に高嶺くんに声を掛けられ、お言葉に甘えて教えてもらったのだ。

「ここの訳がわからなくて」
「これは、この文法が直訳だと言い回しがおかしくなるんだ。隣のページのコラム欄の…ってペン借りてもいいか?」
「うん、どうぞ」
「サンキュ、こっちのこの訳で…」

すらすらと私の教科書に線や文字が書き込まれていく。いつも私が使っているペンなのに、特別なものに見えた。高嶺くんが教えてくれたところはテストにも出たし、大変助かった。英語の教科書を開くときはいつもこのページを眺めてしまう。
私が高嶺くんのことを知ったのは、廊下に張り出される期末試験の順位表だった。常に一位。単純に凄いと思う。平均辺りを生きている私とは違う。入学当時から名前を知る程度だった。でも、ある日親友の鈴芽の口から高嶺くんの話が出るようになり、その頻度は増えた。鈴芽が話す高嶺くんの印象は、噂で聞くものとは全く異なった。そのおかげで私の中で高嶺くんの印象はいいものだった。それと、鈴芽が彼のことを好きなのはすぐに分かった。直接言わなくても、あんなに幸せそうな顔で話す鈴芽を見たら、分かりたくなくても分かってしまう。話を聞く限り、鈴芽には特別優しいようだし、高嶺くんも鈴芽のことが好きなのだろう。
親友の恋愛だ。応援しなくてはならない。
鈴芽から高嶺くんの話が増えた頃から、わたしと高嶺くんが顔を合わせる機会も自然と増えた。彼も私のことは顔くらいは知っていたようで、鈴芽が「親友の栞ちゃんだよ、隣のクラスなの」と紹介していた気がする。そこからだ。私が高嶺くんのことを意識するようになったのは。

「やめよう」

自然と口から出ていた。高嶺くんのことを考えるのはやめよう。教科書も宿題のページを開く。私が好きになったのは、鈴芽が話す高嶺くんなのだ。私は、高嶺くんを知らない。何も。
どう頑張ったって鈴芽の"好き"には勝てないのだ。









次の日の朝、少しいつもより遅めに家を出た。考えるのはやめようと決めたのに、ぐるぐると頭の中を占拠する。不毛な恋などしたくない。一度きりしかない中学生活だ。幸せでいっぱいにしたい。友達は失くしたくない。なのに。実らない片思いに頭のてっぺんから足の先まですべてを占拠されて身動きが取れないのだ。



「おはよう、春原」

後ろから声がした。名前を呼ばれるだけで、自分が一番特別になったかのように錯覚してしまう。そんなことは絶対にないのに。私は振り返り、彼の顔を見る。ああ、お願いだからこれ以上私に微笑みかけないでよ。


に反する恋
「おはよう、高嶺くん」
(ごめんね、鈴芽)


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