「山形くん!ずっとずっと好きでした!私と付き合ってください!」

放課後、勇気を出して告白というものを初めてした。
高校に入学し、まる二年間片思いしていた相手に。言いたいことはきちんと言えた。後は、彼の返事を待つだけだ。そう思って頭を上げると、そこには「困惑」という文字が顔面にデカデカと書かれた彼が立っていた。
まさかそんな反応をされるとは思わず、私もピシリと固まってしまった。もう少し好意的な反応を示してくれると思ったのに。

「…えっと、気持ちは有難いんだが……今はバレーに集中したいから、その、悪い」

当たり障りのない返事をしてくれたその優しさに感動しながらも、私はどこか的はずれなその答えに我慢が出来なかった。ここで引き下がるような女ではない。

「あの!それって、私のことが嫌いなわけじゃないですよね!?」

私のその言葉に山形くんはポカンとした顔をした。

「は?あ、いや、まず俺お前のこと知らな…」
「彼女いませんよね!?」
「……いないけど」
「じゃあ今山形くんが誰かを好きとか、そういう事はないんですね!?」
「お、おう……」

山形くんがジリジリと退いていくのがわかる。でも私は絶対に引かない。

「じゃあ好きでいてもいいですか!」
「は……?」
「山形くんのこと、このまま好きでいてもいいですよね!?」
「え、いや、あの、」
「気が変わったら、直ぐに教えてください!私はいつでも準備オッケーなので!あと私隣のクラスの春原栞って言います!えっと!天童くんと同じクラスです!」
「いや、待て、ちょっ…」
「それじゃ!」

この日から、私と山形くんの愛の攻防が繰り広げられることとなる。
放課後、部活のロードワークから戻った山形くんに声をかける。周りにほかの部員もいるが、私はそんなの気にしない。

「山形くん!お疲れさま!今日も好きです!」
「おまっ、ふざけんなこんなところで!」
「えっなに、春原ちゃんって隼人くんのこと好きなの?」
「はい!」
「いい返事!」

ゲラゲラと笑う天童くんに山形くんは頭を抱えていた。
それに、朝練終わりに声をかけるのも毎日欠かさない。

「山形くん!今日もかっこよかった!」
「……」
「朝練も全力だね!応援してる!」
「……おう」
「好き!!!」
「…………」

私を無視してズカズカと教室へ歩みを進める山形くんに私は笑顔で手を振った。
日頃廊下ですれ違う時にも、情報収集に抜かりはない。

「山形くん!好きなタイプは?」
「…………」
「春原ちゃんも毎日よく飽きないね」
「天童くん!ねえねえ山形くんの好みのタイプ知ってる?」
「馬鹿!天童に聞くな!」
「えー、隼人くんのタイプ?」
「うん!」
「この間グラビア見てたんだけど、隼人くんは巨乳よりお尻が、」
「天童!!!!」
「なるほど、山形くんはお尻派なんだ!」
「春原静かにしろ!」
「今日から美尻目指してトレーニングするね!」
「うるさい!!」

隣で爆笑している天童くんを放置して私はスマホで美尻トレーニング動画を検索した。
ある時は、いつものように山形くんに想いを伝えていると牛島くんが話しかけてきた。びっくりした。

「山形くん!好き!!!」
「…はいはい」
「お前は山形のことが好きなのか?」
「え、牛島くんだ!」
「ああ」
「山形くんのこと?大好きだよ!」
「おい春原、」
「そうか」
「牛島くんから見て私に望みはあると思いますか?」
「…よく分からないが継続はいい事だ」
「ありがとう!」
「天童、あの二人をどうにかしてくれ」
「えーやだ!面白いもん」

牛島くんに褒められたので、これからも頑張ってアタックしていこうと改めて心に決めた。










「山形くん、好きです。付き合ってください」
「……なあそれまだ続けるのか」
「だって好きなんだもん」
「俺のどこがいいんだ?」
「ぜんぶ!」
「…………」
「ほんとだよ?」
「…………はあ、」
「溜め息つく山形くんもアンニュイでかっこいいね!」
「……春原と付き合う気はない」

改めて言われるとすごく、すごくショックだ。真正面から、振られた。まあいつもそうだけど。

「私を袖にするなんて……おーいおーい」

涙を拭うような仕草を見せ、ちらちらと指の隙間から山形くんの様子を伺う。

「袖にする、って……いつの時代だよ」
「だって何度告白してもいい返事聞けないから!」
「だからお前と付き合う気はないって言ってるだろ」
「やだ!!!」
「日本語が通じねえ」
「……山形くんは…私の事好きじゃないの?」

両手をグーにして顎に下に添え、上目遣いで彼を見た。典型的なぶりっ子ポーズだ。効果音をつけるとすれば、きゅるんって感じ。

「恋愛的な意味では好きじゃない」
「辛辣!」
「これで諦め……っておい!どこ行くんだ!」
「もう授業始まるよ!早く教室戻らなきゃ!」
「おい待てっ、て……はあ」

山形くんの溜め息は聞かなかったことにした。










「春原ちゃんさあ、本気で隼人くんと付き合いたいの?」
「うん!」
「相変わらずいい返事だね」

同じクラスの天童くんは時々こうして私と山形くんの愛の物語を聞きに来る。

「まだまだ私の愛が足りないみたい」
「……春原ちゃん、押してダメなら引いてみなって言葉知ってる?」
「?押してダメならもっと押さなきゃ」
「……なるほどー?」
「私の何がダメなのかな?ダメなとこあるなら全部直すのに」
「ずっと同じやり方だからじゃない?」
「同じやり方?」
「うん、隼人くんに突撃してるだけだから」
「他のやり方かあ」
「そうそう」
「寮に忍び込むとか?」
「んー、それはやめた方がいいね」
「なんだ、夜這いが最適解かと思ったのに」
「やっぱり春原ちゃんって見た目に反してぶっ飛んでるよね」
「そう?」

こりゃ隼人くんも苦労するわけだ、と天童くんが笑った。大丈夫だよ、天童くん。私、山形くんが好きって一点では誰にも負けないから。











「私、山形さんがバレーしてる姿が好きで、いつも応援してました。この間の試合も、すごく、かっこよくて…あの、もし良ければ私とお付き合いしてください」

私より少し高くて小鳥みたいに可愛いその声に、壁につけた背中がゾワゾワした。
放課後、委員会が終わってバレー部の練習を見に行こうとスキップしていると中庭の隅に山形くんが見えた。一番近い窓を開け声をかけようとして、やめた。向かい側に女の子が立っていたから。思わず開けた窓はそのままに、死角になる壁に背中を貼り付けた。これは良くない。この距離だと、全部聞こえてくる。

「あの、突然こんなの、…迷惑ですよね」
「いや、そんなことは……」

壁から身を乗り出しチラリとそちらを覗けば、顔を真っ赤にした山形くんがいた。向かいに立つ女の子も負けないくらい顔が真っ赤だ。

「いつもチアで応援してもらって、感謝してる」

山形くんのその言葉に、あの子チア部なんだ、と思った。確かに可愛い子だった。後輩かな。選手とチアガール。これ以上ないくらいお似合いだ。

「私のこと、知っててくれたんですか…!」
「ああ、いつも応援来てるから知ってる。ちゃんとコートから見えてた」

なんだ。すごくいい雰囲気だ。私の時とは、全然違う。このまま山形くんはこの子と付き合うのかな。今、山形くんの頭の中に私はこれっぽっちも存在しないだろう。私の頭の中には山形くんしかいないのに。
私は音を立てないようにその場を離れた。













「あれ?春原ちゃんおはよ」
「天童くん、おはよう。今日もいい天気だね」
「降水確率100%で絶賛土砂降り中だよ」
「そっかあ」

心ここに在らずといった私に天童くんは楽しそうに言った。

「今日は隼人くんのとこ行かないの?」
「うん」
「なんで?」
「うーん、山形くんも毎日だと迷惑かなって」
「えっ今更!?」

失礼な天童くんは放っておいて、私は一時間目の授業の準備を始めた。
その日以降、朝も、昼も、放課後も、山形くんの所に行くのをやめた。ぴたりと、やめた。
これには天童くんが一番驚いたようで色々聞いてきたけれど、全て濁してかわした。
今は好きって気持ちよりも、あの時のショックが大きい。あんな風に顔を真っ赤にした山形くんは初めて見た。あの子のこと、好きなのかな。私の時はいつも眉間に皺を寄せて、呆れたような声で返事をしてたもん。あの子とは、違う。全然、違った。
廊下ですれ違っても、話しかけたい気持ちを抑えて我慢した。放課後バレー部の練習を見に行くこともやめた。
私の中からどんどん山形くんが抜けていくのに、想いだけが泥のように胸の奥に沈んでいく。

「春原ちゃん」
「……天童くん、おはよ」
「うん、今昼休みだけどね」
「あれ?もうそんな時間?」
「そう、あのさ俺体育館にシューズ忘れちゃったんだけど取りに行ってくれない?」
「……私が?」
「うん、俺今から監督のところに行かないといけなくてさー」
「……まあ暇だしいいよ」
「ありがとー!頼んだよ!」

そう言って天童くんは教室を飛び出していった。私はお昼を食べに行く前に体育館に行こうと席を立った。
賑やかな廊下をかき分け体育館に向かう。今日は自主練をしている人もいないのか、しんとしていた。

「しつれーしまーす」

誰かいると面倒なので挨拶だけして体育館に入る。誰もいない体育館に自分の声だけが響くのはなんか不思議な感じだ。つるつるとした床を足で感じながら天童くんのシューズを探した。

「春原」

急に名前を呼ばれてビクッとした、のもあるけれど。何よりその声に驚いた。

「や、まがたくん」

振り向けば山形くんがこちらに向かって歩いてくる。

「て、天童くんがシューズを忘れたらしくて取りに来たんだけどどこにあるか知ってる?一通り見たんだけど見当たらなくて、」

なにか話さないと気まずくて、取り敢えず状況を伝えることにした。

「あー、それは多分嘘だ」
「……嘘?」
「ああ、俺がお前を呼び出した」
「へ?」
「天童に頼んだんだ。春原が体育館に来るように仕向けてくれって」

頭がついて行かない。山形くんはできるだけわたしと関わり会いたくないはずだ。山形くんが私を呼び出す理由なんてないのに。
……いや、一つだけある。

「お前最近来なくなったけど、なんかあったのか?」
「え、あ、いや……えっと、」
「他に好きな奴出来た?」
「…………」
「まあ俺があんな態度とってれば仕方ないか」

苦笑する山形くんもかっこいい。けれど。

「俺さ、」

その瞬間、視界がぼやけた。まるで海の中に入ったみたいに。その後に続く言葉なんて、聞きたくない。

「は!?」
「…………」
「おまっ、なんで泣いてんだよ!!」
「え……、あ、ほんとだ…」
「な、泣きやめって」

袖で目元をグイグイと擦る山形くんに私は一歩下がった。

「やだよ」
「ああ?何がだ」
「山形くんが、他の子と、付き合うなんて、私はやだよぉお……」

ズビ、と鼻をすする音がやけに耳についた。

「お前何言って、」
「わ、私はこんなに、こんなに山形くんのこと好きなのにぃ…!山形くんは可愛いチアの子と付き合うんだ!私の方が絶対絶対好きなのに!」
「おい春原待てって」
「私は山形くんの全部が好きなの!優しいところも、自分に厳しいところも、バレーしてるところも、呆れながらも私の相手してくれるところも、ご飯食べてるところも勉強してる姿も!例えどんなにやばい性癖を持っていたとしても私は山形くんの全部が好きなのに!」
「おい、やばい性癖ってなんだ」
「私は世界中の人を全員敵に回しても、山形隼人が好きなの!大好きなの!」
「春原……」
「だから、他の子を選ばないで、私を選んでよ……!」

そう言いきったところでむせてしまった。泣きながら色々叫びすぎたからだ。山形くんはそんな私の背中をさすってくれた。優しい。やめてよ。

「春原」
「やだ」
「やだじゃない。こっち向け」

下を向いていた顔をグイッと無理矢理上に向けさせられた。

「へ、」

目の前にいる山形くんの顔は、それはもうトマトかってくらい真っ赤で。

「俺は誰とも付き合ってない」
「…………チアの子は、」
「断った。てか見てたのかよ」
「…………」
「あとお前が急に来なくなって、その、心配した」
「…………」
「毎日見てた顔を見れなくなるのは、なんか調子が狂う」
「…………」
「また、いつもみたいにアタックして来いよ」
「…………は、はい」
「ぶっ、なんだその顔」

顔を真っ赤にしながらも私の顔を見て笑う山形くんは、私の大好きな山形くんだった。山形くんの言葉に呆然としてしまった。だって、だってそんな言い方。

「あのあのあの、」
「ん?」
「山形くんも、私のことが好きってこと?」
「…………」
「えっ違うの!?」
「……あと一週間くらいアタック続けてくれたらそうなるかもな」
「本当に!?」
「ああ」
「私、頑張るね!!」

もう少しで、好きな人を落とせそうです!


押してダメならもっと押せ!
「山形くんおはよー!大好き!!」
「お前、時間と場所を選べ!」


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