「島が見えたぞー!」

おおっ、と船が喜びの声で騒がしくなる中、ソフィアは一人ため息をついた。久しぶりの島で大きな街があると聞き、皆浮き足立っている。そんなみんなの姿を眺めながらこの数日をどうやり過ごそうか考えていた。

「どうかしたのか」
「……キラー」

隣に立つキラーをちらっと見て前を向き直した。遠くに緑の島が見える。レンガ造りの建物が多いようだ。

「どうもしてないわ」
「…いつものアレか」

呆れたような声だ。

「ええ、そうよ」
「島に着いたらキッドはすぐに女を買いに行くぞ」

優しく言い聞かせるように言うが、話している内容は下世話極まりない。

「そうね」
「いいのか」
「良い悪いの問題じゃないの。私としては、キッドや皆が人さえ殺さなければそれでいいわ」
「…お前は自分が海賊だという自覚はあるのか?」
「あるわよ、一応」

島が近くなるにつれ、ソフィアの顔はどんどん曇っていった。







「じゃ、私はもう船にいるから楽しんできて」

船を港につけてからまだ一時間も経っていない。ソフィアは真っ先に島に降り、買い出しを済ませこうして船にこもる。いつもの事だった。
そうすれば、見たくないものは見なくて済む。
船を降りようとするキッドたちをいつものように見送りに甲板に出た。

「行ってくる。帰りは…」
「明日のお昼以降よね。わかってる」

その言葉に返事もせず無言で船を降りるキッドに背を向け、部屋に向かった。
これでいい。
過去に一度、キッドが島で買った女を船に連れ込み、それを知らずにトイレで出くわしたことがあった。その寝乱れた髪に、胸元に散りばめられた赤い痕。キッドが好きそうな派手な目鼻立ちの女性だった。私からは絶対に漂わない香りを纏わせ、胸元が強調された服を着ていた。女の私ですら戸惑うような刺激の強い格好だった。そんな女性と彼は夜を共にするのだ。
私はその日から三日間、部屋から出られなかった。彼だった男だ。それに、海賊の船長。女を買ってることなんて知っていた。でもその女性を見たことで、それをとても生々しく感じてしまったのだ。
今まで、キッドとそういう雰囲気にならなかったわけじゃない。長く同じ船に乗っているのだ。それも女ひとり。流されそうになった時もあった。でも、お互いの関係が曖昧なまま抱かれるのは耐えられなかった。
私は、商売女じゃない。






翌日、太陽が高く昇った頃彼が戻ってきた。

「おかえりなさい、キッド」
「ソフィアか、ああ」

ちょうど甲板にいたのでキッドを迎えた。知らないシャボンの香りが鼻にまとわりつく。それを無視して先程までいた甲板の隅に足を向けた。クッションを敷きそこに座り、置いていた本を手に取った。すると開いた本に影が落ちた。

「キラー」
「……」
「どうしたの?」
「お前たち、いい加減にしないか」
「……なんの話?」
「わかっているだろう」

珍しく苛立つキラーに驚きながらも本を閉じ、立ち上がった。

「キラー、私はね」
「……」
「私はキッドが好きよ」
「…ああ」
「彼が海賊王になるためなら、この身なんて欠片も惜しくない。私が死んで彼が王になれるなら喜んで死を選ぶわ。そのくらいの気持ちで彼が好きよ」
「……」
「でもね、私は“海賊王の女”になりたいわけじゃないの」
「ソフィア…」
「キッドが出ていけって言わない限り…、そばにいられる限り私はこのままよ」

キラーがため息をついたのが分かった。

「お前はそれでいいのか」
「…そうね、私は彼に抱かれなくてもそばにいられるし、それってとても幸せなことよ」
「……」
「だってキッドが一人の女性を愛すなんてありえないでしょう?愛したとしても後々一人の女じゃ満足できなくなる」

キラーが一番よく知ってるでしょう、と言うソフィアの横顔は清々しい顔をしていた。

「“一番”って意味が無いのよ。だってそれは“二番”がいるってことだもの。私は私だけを唯一愛してくれる人がいいの。私だけを愛して幸せにしてくれる人。それは、彼じゃない」
「……そうか」
「ええ、私はその人に会うまでこの船で彼を支えるわ」
「ああ」
「でもキッドよりいい男なんて、見つけられる自信がないの」

ソフィアはそう言いながら笑った。


望んだ愛と望まぬ関係
交わっているのに余所余所しく
触れているのに遠い



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