「大丈夫?具合が悪いみたいだけど…」
「まあその怪我!すぐに救急箱を持ってくるわね!」
「顔色が悪いわ。お水、持ってきましょうか?」
「溜息なんてどうしたの?私で良ければ聞くわ」
「不寝番お疲れ様。温かいお茶をいれて来たから飲んで体を温めて」


これが、彼女の異名の由来。手配書に記載されている名前は「“聖母”ソフィア」。赤髪海賊団副船長ベン・ベックマンの女。クルーには分け隔てなく接し、時に母のように、時に恋人のように接するその姿は正に“聖母”そのもので、クルーはもちろん他の海賊団からの信頼も厚い。ベックマンの女、というのは周知の事実だが、その優しさに触れると勘違いしてしまう者も少なくはない。
シャンクスもその一人だった。


「ほら、船長さん。そんなところで寝ていたら風邪をひくわ」
「あ〜、俺はもう、ここで寝る」
「そんなに酔っ払って…」

そう言って甲板に寝そべるシャンクスにブランケットをかけた。


「もう!船長!またこんなに洗濯物溜め込んで!いつも早めに出してって言っているでしょう!部屋中洗濯物だらけじゃない!」
「そんな事言われても溜まっちまうんだよなァ」
「この辺りのもの全部洗いますからね!」

部屋の隅に山積みにされた洗濯物をガバッと抱えてソフィアは部屋を出た。その日の夕方には綺麗にたたまれた洗濯物が部屋の隅に置かれていた。


「……おえっ」
「もう、船長さんたらそんなになるまで飲んで…トイレですか?ほら、肩を貸しますから」

そう言って、嫌そうな顔ひとつせず甲斐甲斐しくシャンクスの体を支え、トイレまで連れていく。

そんなことが続いていた。







「ソフィアは俺のことが好きなのかもしれない」
「…………はぁ」
「なんだよベックマン!俺は本気で悩んでんだぞ」
「ソフィアのアレはいつものことだ」
「それはまあ、そうなんだが…本当に“誰にでも”優しいからなァ…俺でも勘違いしそうになる」
「…手は出さないでくれよ、“船長”」
「わかってるって」

そう苦笑するシャンクスの横でベックマンは溜息を吐いた。自分の女が周りから評判がいいのは問題ない。ただ、変な虫が付きかねないというのが頭を悩ませていた。最近では海兵の中にもファンがいると聞く。ベックマンはいつもより煙草の量が増えていることに気付いてはいなかった。







「ソフィア」
「あら、ベック!」

ベックマンに声をかけられたソフィアは、振り返るとそのままベックマンに抱きついた。ソフィアが上を見上げると目が合う。すると人差し指でベックマンの眉間をぐいぐいと押した。

「どうしたの?いつもより眉間にシワが寄ってる」

もっと怖い顔になっちゃう、とくすくす笑うソフィアに、ベックマンはため息混じりに口を開いた。

「お頭がな」
「船長さん?」
「ああ、ソフィアが自分のことを好きかもしれない、と悩んでいた」

一瞬、きょとんとした顔をしてすぐに笑い出した。

「…っぷ、あははは!」
「まったく…、お前はすぐに男を勘違いさせる“聖母”だからな」
「ふふ、そんなつもりは…まあお節介かな、とは思ってるけどね」
「頼むからお頭とは“そういう”ことにはならないでくれよ」

俺はあの人に逆らえない、というベックマンにソフィアは微笑んだ。

「大丈夫よ、私には貴方しかいないんだから」

ソフィアはそう言うと、ベックマンの首に腕を回し、キスをねだった。


聖母の虜
「でも、“聖母ソフィア”って箔がついて私は好きよ」
「とんだ聖母だな」



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