「テゾーロ、…ほら起きないと」

彼を揺り起こし、その額にキスをする。そして、少し身じろいだ彼の頬に手を寄せた。

「ん、……もう朝か」
「ええ、朝というか昼だけどね」

ベッドのサイドテーブルを少し引き寄せ、お茶の用意をする。アッサムの濃厚な香りが部屋に漂う。そこにたっぷりのミルクを入れ、彼に差し出した。

「熱いから気をつけて」
「ああ」

私は腰掛けていたベッドから立ち上がると、デスクに置いた新聞とバカラが持ってきた書類を手に取り、彼に渡した。

「すまない」
「どういたしまし、て」

彼は、新聞や書類を私ごと引き寄せ腕に閉じ込めた。反対の手ではティーカップを持っている、かと思えば、知らない間にサイドテーブルのソーサーの上にそれはちょこんと鎮座していた。紅茶がこぼれてしまう、と思ったがその心配はなさそうだ。私がきょとんとしているとキスの嵐が降ってくる。ちゅ、ちゅ、と彼の見た目には相応しくない優しく触れるだけのキス。

「ふふ、もう、やめてってば」

じゃれながらも彼のキスを止め、彼の腕から逃れベッドを離れた。でなければ、彼は起きてくれない。

「ソフィア」
「はい?」
「今夜はフレンチにしよう」
「はーい、シェフに伝えておきます」

そう言って、空いたティーカップをのせたトレイを持ち部屋を出た。









夜。THE REOROの展望レストランで夕食をとる。彼の指定通りフレンチだ。相変わらず料理は唸るほど美味しいし、彼のテーブルマナーは溜息が出るほど美しい。

「…そんなに見られると穴があいてしまいそうだ」

そう言って笑った。

「ふふ、毎日何万人って人に見られてるのに」
「客と君では違う。愛しいその瞳に見つめられるのは、ショーに慣れていてもいささか照れくさいものだ」

そう言って、テーブルの上にあった私の手を握った。相変わらず、キザな人。夜の花火が上がる。
THE REOROからは船の外、つまり海が見える。夜の海は、真っ暗でほかの船もなく一面に闇が広がっている。そこに上がる花火。水面に反射するそれはとても儚くて、空に輝く派手派手しさとは縁遠いものに見えた。


食事が終わり部屋に戻ると、後ろから腰に手を回され、すぐにベッドに倒された。

「待って、シャワー浴びてない」

喉にキスをされ、彼がすぐに私を欲しているのが分かる。それに流されていると、背中のファスナーが下ろされる。その背中に彼のゴツゴツした指が這う。

「ん、…っああ」
「…相変わらず、いい声だ」

そう言って私から下着を取り払うテゾーロに、私は口を開いた。

「もう…、貴方そろそろ衰えたりしないの?」
「ハッハッハ、まだしばらくはお前を満足させてやるから安心しなさい」
「それ何も安心できない、んだけっ、ど!」

朝とは違う深いキスが落ちてくる。彼の瞳が熱を持つ。彼は、私を、私のことを見てくれている。私を愛してくれている。それは十二分に理解している。痛いほど愛されてるのもわかる。
けれど。

彼は、私を見るとき、“何か”に取り憑かれているように見える時がある。私に向けられているはずの視線なのに、目が合わない。
貴方が見ているのは私“だけ”じゃない。それだけは分かる。貴方が見ているそれを私は知りたいとも思わないし、出来ることなら知りたくない。この生活が続くのなら。いつまでもこの幸せな時間が続くのなら、私は“それ”に対して目も耳も塞いで、貴方の隣で生きていくの。
貴方が私を離さない限り。


鳥籠に鍵をかける
自らの手で
私は私を閉じ込める



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