「おはよう、コーヒー淹れたよ」
朝ごはんはもう少し待ってね、そう言ってソフィアは目玉焼きを焼いている。クザンは体を起こし、辺りを見渡した。キッチンに立つソフィアは鼻歌を歌いながらフライパンを揺すっている。
「よく眠れた?意外とこのロッジ、風の音が気になるわね」
時々起きちゃった、と言うソフィアは喋りながらも手はテキパキと動いている。
赤犬との決戦後、二人と一羽で流浪の旅をしている。ソフィアは文句を言わず、この生活に順応していた。
「ご飯食べ終わったら、出発の準備しようね」
そろそろキャメルも起こさないと、と言う彼女は皿に目玉焼きを盛り付けた。
「……なんか悪ィな」
「え?」
突然の謝罪にソフィアは振り返った。目をぱちくりとさせてクザンを見た。
「俺のせいでこんな生活強いちまってよ」
そう言いながら、テーブルにつくクザンの前に目玉焼きを置いた。トーストがチン、と焼けた音がした。
「ふふ、何言ってるの今更」
座っているクザンの横に立ち、チョンチョンと肘でつつく。
「時々はホテルに泊まれるし、生きてく上で全然不自由してないよ?」
そう言いながら、トースターからパンを取り出し皿にのせる。その言葉に嫌味などはなく、純粋にそう思っていることが伺えた。
「お前、…いい女だな」
「そう言ってもらえる間は、浮気の心配はなさそうね」
「あー…、すまん」
「いいのよ、海軍時代のことは気にしてないし」
当時、交際中でも女をとっかえひっかえしていたクザンだ。別れの危機もなかった訳では無いが、ソフィアは最終的には絶対に許していた。私じゃなきゃ、貴方生きていけないでしょ?と。
「それにまあ、こうして選んでくれたし。ま、私が強引について来た、ってのもあるけど」
「…それは、男冥利に尽きるねえ」
「そうでしょう?こんなにいい女なんだから、大切にしてよね」
そう言って、コーヒーを運びながら頬にキスをした。
「お前は、…そうやって生娘みたいなことして」
「ふふ、ギャップがいいでしょ」
今度はクザンの頬に両手を添え、唇にキスをした。驚く程に妖艶な表情に、クザンはゴクリと唾を飲んだ。
「…それ、朝からガマン出来なくなる」
「ダメよ、もう今日このロッジ出るんだから」
そこはあっさりした性格をしている。クザンはソフィアの腕を引き寄せ、キスをした。深く、深く。
「っは、…もう、私の話聞いてた?」
「聞いてたよ」
でもしたくなって、と言うクザンにソフィアはデコピンをし、その腕からするりと逃げた。いつの間にかキャメルも起きていた。
変わらない変化
「…………」
「「キャメルの視線が痛い……」」
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