「貴方がテゾーロ様?」
この場に不釣り合いな若く、しかし少し艶を纏った声にテゾーロは振り返った。このパーティ会場には少し幼すぎる。しかしゲストはゲスト。きちんと応対せねばならない。
「これはこれは、とても若いお嬢さんだ。そうとも私がギルド・テゾーロだ。貴女は?」
「私はソフィア。“とある”海軍将校の孫娘です」
海軍将校の孫娘。道楽を極めた小娘、というところか、とテゾーロは内心ほくそ笑んだ。
「ほう、ではお爺様に付いてこちらに?」
「そうなんです、お爺様はカジノに入り浸りで」
テゾーロは、くすくすと笑う彼女にその妖艶なドレスとはちぐはぐな印象を受けた。
「では、君の父君も?」
「いえ、父は海軍でもないし、会社を起こしてからずーっと仕事漬けで相手にもしてくれなくて…、でもそうして父が働いてくれているおかげで私はこうして遊んでいられるの」
あどけなく笑う彼女は、暇つぶしにはなるかもしれない、と思った。
「そうか。君はここが初めてかな?」
「いえ、過去に何度か…お爺様についてショーだけね。カジノはまだ早い!って連れて行って貰えなかったの。でも今日は、カジノに言ってもいいって言われたからついて行ったけれど……でもやっぱり私はショーを見ている方が楽しかったわ」
「ほう?今日だけは許してもらえたのかい?」
「あ、私今日誕生日なの。もうその歳ならいいだろう、って」
「これはこれは、そんなおめでたい日にここを選んでくれるなんて有難い」
「でも私はやっぱりショーを観てる方が好き」
テゾーロは、その言葉に自分の心が反応するのを感じたがそれを無視して口を開いた。
「ここには、VIPの中でもひと握りしか入れないエリアがあるのをご存知かな?」
「へえ、それは面白そう」
「そこでは、一般エリアとは比べ物にならないほど上質なショーを上演している」
「え?一般エリアのショーもとても素敵だけど…」
「それ以上だ」
「凄い!想像もつかないわ」
「君をそこへ招待しよう」
「……本当に?」
「何を疑う必要がある?」
「だって私、ここの利益になれるような存在ではないし、そんなにお金も使ってないもの」
「はは、君は今日誕生日なのだろう。私からの祝いだ」
そう言って、テゾーロは自分の左腕を彼女に差し出した。
「ふふ、よろしくお願いします」
そう言って、ソフィアはテゾーロの腕に自分の腕を絡めた。
「バカラ」
「はい、テゾーロ様」
「あとは頼む」
「かしこまりました」
そう言って、消えたバカラの背中をソフィアは見つめた。そしてテゾーロの腕を少しだけ引いた。
「良かったんですか、このパーティ抜け出しても」
「ああ、構わんよ。明日もある」
「まあ、やっぱりここは素敵なところね」
「そう言っていただけると経営者冥利に尽きるよ」
ヒールが高いソフィアを難なくエスコートする。エレベーターを上がり、降りてすぐ目の前に一際大きな扉が現れた。
「さあ、ここだ」
「……とっても綺麗」
扉の向こうは金だけでなく、ダイヤモンドで装飾された空間が広がっていた。先程いたVIPエリアよりもはるかに豪華で、とても洗練された空間だった。とても豪華な扉が幾つかある。それぞれドアマンがいてショーやカジノの部屋へと繋がっているらしい。ソフィアが天井のシャンデリアや調度品に目を奪われていると、テゾーロが口を開いた。
「ここはそれ程大きくないが、下よりも質の良いショーを観られるだろう」
そう言って、テゾーロは絡んでいた腕を解こうと力を緩めた。しかし、ソフィアはその解かれそうになった腕を掴み直した。
「……一緒には観てくれないんですか?」
その下から見上げる大きな潤んだ瞳に、テゾーロは吸い込まれそうになった。
「…全く君は……、とんだお嬢様だな」
「ふふ、だめですか?」
「いや、私で良ければご一緒しよう」
それを聞いた瞬間、ソフィアの顔はぱあっと明るくなり、赤く染めた頬とその高揚した笑みをたたえた。
「とても嬉しいわ!グラン・テゾーロをギルド・テゾーロ様に案内してもらえるなんて!」
そう言ってソフィアは掴んでいたテゾーロの腕に引き寄せられるかのように身を寄せた。
「君は変わっているな」
「え?」
「ここには、若くして成功した者も多い。若い成功者を求めてここに来る女性も少なくはない。君もそうなのでは?」
それを聞いたソフィアはきょとん、とした顔をしてすぐにくすくすと笑い出した。
「わたし、年上が好きなんです」
「…それは、……私はどう受け止めればいいのかな?」
「ふふ、お任せするわ」
そう言ってソフィアはテゾーロの背中に手を回した。
Play with fire
「君は、海軍将校の孫娘とは思えない程大胆だな」
「こういう事は若い内しか出来ないでしょう?」
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