キッドは突然部屋に現れた白い女に目を見開いた。白い女、というのは肌が白いとかではなく、身にまとっている服が白かった。海賊と敵対する、白。

「初めまして、ユースタス・キャプテン・キッド。私はソフィア」
「……なんだテメェ」
「わたし、貴方のことが好きなの」

ドアを開けて入ってきたわけでもないということは能力者か、とキッドは思考を巡らせた。しかし、今彼女は何といったか。

「お前は馬鹿か?」
「ふふ、馬鹿ではないと思うけど」
「一人でこの船に乗り込んでくるなんて馬鹿以外の何者でもねェ」
「そうかしら。でも私、貴方と“相性”いいと思うけど」
「リペル」

部屋中の金属が彼女に襲いかかる。しかし、彼女はそれを全て躱し、最初にいた位置から一歩も動いていなかった。

「チッ、なんの能力だ」
「ふふっ」

ちらり、とドアの方を見たキッドをソフィアは見逃さなかった。

「あら、仲間でも呼ぶ?」

痺れを切らしたキッドはそのまま素手で彼女の首を掴み、そのまま壁に押し付けた。ソフィアの背中が、ガンッと音を立てて壁にぶつかる。

「どうして避けねェ」
「言ったでしょう?私、貴方のことが好きなの」

ソフィアは手を伸ばし、キッドの頬に触れた。キッドは触れた手を払い、一歩下がった。

「あら、せっかく“お近づき”になれたのに離れるなんて…残念」

そう言いながら、距離を詰めた。

「馬鹿かテメェ」
「だから、頭は悪くないと思うけど?」

ふふ、と妖艶に笑うソフィアにキッドは不気味ささえ覚えたが、このままにしておくわけにもいかない。そして彼女から抵抗することは無いと分かった。キッドは自らソフィアに近づき、腕を掴んだ。

「あら」

ソフィアがそう言った瞬間、視界がひっくり返る。背中に柔らかい感触を受け、ベッドに押し倒されたのだと分かった。

「俺のことが好きだと?」
「ええ」
「じゃあこのまま犯されても文句は言わねえな?」
「あら、もう抱いてくれるの?喜んで」

ソフィアは一度きょとんとした顔を見せたが、そう言い放った。キッドは強引に服の下に手を入れる。

「まさか、海兵を脱がせることになるとはな」
「私も、まさか海賊に抱かれるなん、て」

ソフィアがそう言った瞬間、キッドは唇でソフィアの口を塞いだ。深く深くキスをして、離しがたいかのようにゆっくりと唇を離した。

「馬鹿なこと言ってんじゃねェよ。抱くんじゃない、犯すんだ」

そしてまた、舌が深く絡み合った。







「あら、キラーじゃない。キッドは?」
「……またお前か」

ソフィアはあれから気まぐれにキッドの元を訪れるようになった。その度にキラーは不機嫌な顔をする。と言っても顔は見えないが。キラーは彼女のことを好ましく思ってはいない。何故キラーがソフィアのことを知っているのかというと、二人がまぐわっている時に部屋のドアを開けてしまい、関係がバレてしまったのだ。

「キッドはシャワーだ」
「えっ、アナタ達そういう関係だったの…?」
「馬鹿か」
「冗談だってば」
「今日は帰れ」
「えー、キッドに会ってもいないのに」

ぷう、と頬をふくらませ、彼女はそのまま姿を消した。キラーは深くため息をついた。






「キッド」
「……なんだ」

ソフィアは最近来れてなかったこの船に久しぶりに顔を出した。

「久しぶりなのにつーめーたーいー」

仕事が忙しくてなかなか来れなかったのよ、とキッドに撓垂れ掛かる。

「冷たくない時なんてないだろ」
「ベッドの中では冷たくないし優しいわよ、貴方」
「馬鹿か、誰と比べてんだアバズレが」
「やだ嫉妬?嬉しい!」
「なワケねェだろ」
「もう〜」

そう言いながら、ソフィアが首に抱き着いてもキッドは振り払おうとはしない。気分を良くしたソフィアはキッドの首筋に顔を埋める。

「ソフィア」
「んー?」

キッドに顎を掬われ、唇を奪われた。喉の奥まで攻めるような舌づかいで口内を犯される。

「んっ、待ってキッ、ド」
「うるせェ」
「ちょ、んんっ、…んっ」

ソフィアは軽く抗いながらも、胸もとに這わされた手に自分の手を重ね、さらに強く押し付けた。







事が済み、ソフィアはシャワーも浴びずに着替える。キッドはそれを横目で見ながらベッドに仰向けになっていた。

「ねえ、キッド」
「あ?なんだ」

事後は口数が少ない彼女が口を開いたことに驚き、彼女に視線を向けた。すると彼女は淡々と言葉を続けた。

「わたし、今日が最後だから」
「……そうかよ」
「冷たいのね、理由も聞いてくれないなんて」
「…………」
「…私ね、結婚するの」
「……、は?」
「ふふ、来月には海軍を寿退社。相手は結構年上の人でね、ああ、でも大佐止まりだから今後の昇進はあんまり見込めない、かな」
「お前程の能力の持ち主を辞めさせるなんて海軍も随分脳天気なもんだな」
「だって私、この能力のこと言ってないもの」
「…はァ!?俺にはお前が何を考えているのか相変わらずわかんねェ」
「ふふ、そうね、私にもわからないもの。でもね、この話を持ってきてくれた人はとてもお世話になった人だし」

そこまで喋ったところでキッドはソフィアの言葉を遮った。

「それはテメェが望んだことか?」
「え?んー、望んだことでは無いけれど…」
「だったらどうして他人の言う通りに動く」
「…ふふ、“普通の人”はそんなものよ。海賊じゃないんだからそんな好き勝手には生きられない」

キッドはベッドから降り、彼女の背後に立った。ソフィアはその気配を感じながらも振り返らない。

「だったら、海賊になれ」
「え?」
「それか、俺がお前を攫ってやるよ」

キッドはそう言って、背中から抱き竦めた。腕の中でソフィアが笑っているのがわかる。

「どっちがいい」
「……私を攫って」


Jump Ship
女海賊も、悪くない



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